勇者になりたい俺と、勇者に選定された大魔王

紅玉

第1話 リオンを呼べ‼

 八の字に設置された議席は山頂部分に国王シュナイゼア五世が鎮座し、王に近い席から順に有力な貴族が座るという力関係が如実に表現された会議室。

 この場で貴族ではない人間は僕を含めて二人。


 僕は騎士団長と言う立場で、もちろん席などなく国王の斜め後ろで直立不動の体勢での参加。

 もう一人は国王から最も離れた位置で水鏡の前に両手を突き出すフード姿の老婆。


 ここは大陸北方、アズミヤ王国の王都・スノウシティの中心、吹雪の宮殿ブリザードパレス

 一年のうちの実に半分が厚い雪に覆われる辺境の国のまさに中心地だ。


 そんな日照率が全世界ワースト一位だが国土はアホほど広いこの国の重鎮たち、王を含めて全員が根暗なのは、きっと半年間太陽の光をまともに浴びることのない地理的状況のせいだろう。

 平民と違い、寒いからと言って執務室に籠って仕事をしていると言い張れるのだからなおさらに根暗は加速するように思う。


 ただでさえ暗い議会室は、老婆の希望で明かりが制御され、物理的にも精神的にも暗さの極み、どんより雲の方がまだ明るいレベルに沈み込んでいる。


「では、我々占い師一同が得た結果を表示しますぞよ」


 占いに一生を捧げたババァらしい語尾で意味ありげな発言をする老婆。

 その発言が終わるか終わらないかのタイミングで、老婆の眼前にある皿からまばゆい光が溢れ出す。

 それはもう、部屋だけではなく暗闇に慣れた根暗な貴族共の心まで照らすかのように。


「「うおっ、眩しッ」」


 末席周辺の下級貴族たちが急な光にたまらず一斉に光から目を反らす。

 そんな下級貴族たちと比べ、一切動じることのない国王と上級貴族たち少しはやるじゃないか――と思ったら彼らはちゃっかりと持ち寄ったサングラスをいつの間にか装着していた。


 ――そりゃ眩しくはないわな。


 下級貴族たちの悲鳴をよそに、溢れた光はやがて一つの像を結ぶ。


 鮮血のような鮮やかな朱色で縁どりされた黒いマントを羽織った、色黒銀髪の美少年を。


 目鼻立ちは角度によっては非常に女性的な美しさ、十代の可愛らしさを彷彿とさせるが、また別の角度によっては美少年のみが持つ事を許される独特の色気を感じることのできる、一言で言えば『中性的』な少年だ。

 少年だとこの場の全員が把握できた理由は、マントの下からチラリと覗く胸板が男のそれだったからである。


 像が浮かび上がった瞬間、この場のジジイとオッサンは絶世の美少年を見て劣情を催すキモい空気が流れ始める。

 無言で食い入るように美少年の映像を見つめ、一斉にほほを染めるジジイとオッサンの軍団を想像してみて欲しい、キモさが伝わるだろうか?


 ……この国がクソすぎる理由は一年の半分が冬だからと言う理由だけではない。


 単刀直入に言ってしまえば、美食を嗜み、美少年を愛でる事に国家予算の半分を割いてしまっている事にある。

 近年国王を含め有力貴族の間での流行り、奴隷集め。

 ……しかも美少年の奴隷を買いあさるのがこの国の社交界におけるステイタス、美徳であり権威の象徴だと言う風潮なのだ。

 美少年を買って何をするかって?


 わかるだろ、言わせんな。


 もはやこの国を救うには相当な刺激が必要だ。


 ――この水鏡に映った少年のような特大の刺激が、な。


 この会議室の中で唯一、僕だけがこの少年が何者かを知っている。

 僕は差し出がましさを十二分に演じて国王に発言を求め、それは認められた。


「こやつは大魔王です、先の魔王攻略戦の際に魔王が頭を垂れていたのを確認しています」

 発言の後、水鏡に映った美少年をガン見しながら机の下でナニやらごそごそしていた貴族連中の手は一斉にピタリと止まったのだった。


 いったいナニをしていたのやら。


 ナニかをしていた手を止め、老婆に『間違いないのだな?』と質問を投げる国王に対して、老婆は『間違いございませんですじゃ』と意味不明な語尾が全く不要な答えを返してきた。


 ――水鏡に映った美少年、大魔王こそ次の勇者であり、国難を救う者である。


 よりによって国難の元凶、最強最悪の大魔王が国を救うなど頭がおかしいとしか言いようがない……この国に現れた魔族全員を引き連れて自爆でもしてくれるとでも言うのだろうか?


「騎士団長、今この国で最も頼りになるのは誰だ?」

「はっ、アシュリアータ家が三男、リオン様にございます」

「む、そうか。ではリオンを呼べ! 今すぐにだ‼」


 こうしてこの物語の主人公、リオン=D=アシュリアータは国王から呼び出しを受けるのであった、と。


 僕が主人公かと思った?

 ごめんね、ただのプロローグの語り部なんだ。

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