盲目の宰相

@yoshida2182

第1話 目の見えない少年

 少女は家を飛び出した。妹の誕生日ケーキの飾り付けのため、野いちご採取に森へと走り出す。普段は狩人の大人が獲ってきてくれるのだが、サプライズのため自分で取りに行くことにしたのだ。

野いちごは森の中層にあるため迷わないように川を目印に奥へと歩みを進める。

 この森は正式には”低魔の森”と呼ばれる。理由は低級の魔物が出るから・・・

らしいが、実際には低級の魔物を求めて、駆け出しのテイマーがぞろぞろと来るから

”テイマーの森”なんてバカにされていたりもする。

 少女もナイフだけあれば中層までいけるのでこの日も安心していた。

・・・それは村からも見えた。大きな爆音と土煙を上げながら木々を薙ぎ倒す中級魔物、グリズリーベアが現れたのである。

 低級魔物は害獣程度の扱いに対し、中級魔物は村一つくらい滅ぼせることが可能である災害獣と呼ばれる。そんな生き物を目の前にした人間は大の大人でも逃げ出すほど。

当然の如く少女は命の危機に気絶をしてしまう。

 村も少女の命も終わりかと誰もが不安に思う中、彼は現れた。

「おや、こんなところにグリズリーベアですか」

ふむ、と一つ納得したような声を出したのち彼は人差し指をピンと立てた。

すると倒れている少女の側の川の水が湧き出たかのように上昇した。

その水は上空で巨大な槍状に変形すると目の前の災害獣に向けて振り下ろされた。

現れてから、ものの三分の間に決着がついた。大きな風穴を開けて倒れる。

動揺が広がる村に静寂が訪れる。

ベールで目線を隠した異様な雰囲気の少年が、少女を抱えた騎士と共に野いちごがたくさん入ったカゴを持ってきた。

 母親は深く感謝し、二人に名前を聞こうとしたが少年も騎士もそれを固辞し馬車に乗り込む。すると村の長老はポツリとつぶやく。

 「あの方が・・・盲目の宰相・・・」

村がざわついた。長老は昔、王都で冒険者をしていた。その時に見たのだろう。

威風轟く、とある宰相の一族の家紋のことを・・・


 二人は馬車に乗り込む。騎士がため息をついたのち、少年に話しかける。

「ベル様・・・あなた様が行く必要はありませんでしたよ?」

少年はニヤリと笑うと答えた。

「そんなこと言わないでよ、女の子を救えたんだ。それで良いじゃないか」

 彼の名前はベル。ベル・ロストマジック。

ルデンテ王国内で王家に次ぐ由緒ある公爵家である宰相一族

ロストマジック家の若い当主である。

歳は十四にも関わらず王国内での発言力は他の貴族の比にならない。

何故優遇されているかというと、理由は三つある。

一つ、彼の一家は代々宰相を輩出しているため教育に精力的であり

彼自身、神童と表現する他ないということ。

二つ、王国内で四家しかない公爵家の一角を担う若き当主であること。

三つ、ロストマジック家はその名前の通り、失われた魔法<ロストマジック>に適性があるが故、王国内で最も最強の魔法使いと呼び声が高いこと。

以上のことから彼は王国で最重要人物とされている。

 彼の護衛はギーク。ギーク・マッカー。歳は十七。

子爵家の次男なのだが剣の腕を買われ

直接スカウトを受け、若くしてベルの専属騎士の地位にいる。

特殊な一行は何を目的にこの辺境の地にいるのだろうか。

話は数週間前に遡る・・・


 その日、ベルは王城に呼ばれていた。

厳かな雰囲気漂う中、玉座に座る老人が口を開く。

「ベル・ロストマジック。貴殿はこの状況をどう思う」

ベルは深く深呼吸し、答える

「今回の魔人族(まびと)による隣国へクトグラム第三騎士団救援要請に対する見解ですが、もう一度ご説明させていただきます。先々月からへクトグラム南西の中魔の森に異変があると近隣の村から報告があり、へクトグラム共和国は調査隊と護衛に第三騎士団の総勢六十名余りを派遣しました。中魔の森深部にて調査をしている最中、中魔の森の山の中腹にて何者かが飲食をした形跡があり、食料の一部に中級魔物のグリズリーベアの肉があることから、人間の仕業ではないと判断され伝達魔法を送った直後、第三騎士団からの交信が途絶えた模様です。考える限りでは中級魔人族以上の実力者がいると推察されます。国際的救命の協定【国際救命の礎】に基づき、我が国からも支援が必要であると言上させて頂きます。その場合は我が国を代表し私が第二騎士団と第七魔術師団、総勢七百名余りを連れて救助活動に当たります」

淡々と答えたのち、王冠を頭に乗せた老人が声を上げる。

「そのように計らえ!第二騎士団と第七魔術師団の権限を一時的にベル・ロストマジック宰相に与える!」


 そして時は流れ、先遣隊から調査が完了した報告を受け隣国へクトグラムにギークと向かうことになったのだ。国境を越え南西部のハウド村に入村した。既に村の人口よりはるかに多くなった兵士たちが一堂に敬礼をする。馬車から降りると一人の老人が話しかけてきた。

「失礼します。ハウド村の村長、リム・ハウドでございます。話は既に連絡済みで、村から協力として、ベテランの狩人を案内役に抜擢しましたのでどうぞお使いください」

 へクトグラム共和国は亜人の共和国である。そのためルデンテ王国と隣接するこの村も八割が亜人である。ベテラン狩人のルーカスさんは犬人族(いぬびと)のため、かなり嗅覚に鋭い。一般人であるから戦いには参加させない条件で協力を仰いだ。


「さて、一刻も早く救助に向かおうか」


 救助隊七百名余りの一行は中級魔物を討伐しつつ山の中腹までたどり着いた。

先遣隊と合流し一定の区間から調査を始める。

大人数で塵一つ見逃さない警戒調査が進められた。

 数時間が経った頃、一人の魔術師が声を上げた。

「魔力感知、反応ありです!」

すかさずベルは声を上げる。

「騎士団全員、抜剣!非常警戒体制を取りつつ、魔術師団を囲むんだ!魔術師団は感知魔法を常時発動しろ!」

一瞬の静寂ののち、凄まじい悪寒がした。

”ソレ”は目の前に居た。いきなり現れた。まるでずっと前から居たかのように。

「総員、一時後退!騎士団は前線を張りつつ魔術師団は陣形を組め!ギークは接敵して時間を稼ぐんだ!」

精鋭たちで構成されているとはいえ、布陣には時間がかかる。

相手は中級とは名ばかりの災害だ。

 人族は敵にランク付けをした。

害獣程度の低級魔物、集団性を持つ低級魔人族(まびと)、低級魔法が使える魔神族(まじん)、村一つ滅ぼせる中級魔物、群れなくなるが肉体が魔神に寄る中級魔人族、中級魔法まで使える中級魔神族、街一つ滅ぼせる上級魔物、自我が出るのが上級魔人族、上級魔法が使えるのが上級魔神族、国一つ滅ぼせる特級魔物、独自の文化を形成するのが特級魔人族、顕現させれば千年は魔法や文化が衰退すると言われる特級魔法を使うのが特級魔神族。差異はあるが、I〜SSSランクなどで冒険者は決められていたりもする。今回は中級魔人族に該当する。

 「総勢七百名を連れてきて正解だった!これで戦力は優勢で戦うことができる!騎士団!魔術護衛班以外は一気に畳み掛けろ!魔術伝達班は後衛にいるエデルハード第二騎士団長とハル第七魔術師団長に至急増援を!それ以外は複数属性で弱点の割り出しと防衛魔術の展開を!」

相手に自我はないが強者との戦闘という暴力的な本能はある。故にここで討伐をしないとハウド村が、ひいては隣国であるルデンテ王国がダメージを受けることになる。

 ギークが最前線に立っているからか、戦闘開始から一進一退の攻防が繰り広げられて三十分。均衡は突然終わりを告げる。増援に二人の男女がやってきた。

「報告。エデルハード第二騎士団長およびハル第七魔術師団長、現場到着しました」

ベルは一つ息を吐くと全体に伝わる程の大声を出した。

「全体!残りは私を始めとしたギーク、エデルハード、ハルのみで引き受ける!負傷者は先に王国に帰国させ、まだ戦えるものはエデルハード直属部隊を除き、これからの戦闘に巻き込まれないようにハウド村まで後退、専守防衛に勤めよ!守備隊の責任者は第二騎士団副団長ガウスに一任する!ここが踏ん張り時だ、貴様らの命をかけて王国に忠誠を誓え!」

「「おぉーーーー!!!!!」」

士気が上がった。あとは倒すだけだ。

ギヒヒと笑う中級魔人は明らかに消耗している。左の脇腹に微かにやけど跡がある。

強靭な肉体を誇る中級魔人が怪我をしたとなれば、弱点を突いていくしかない。

「ギーク!左脇腹を狙うから右から重点的に攻撃を続け気を引け!ハルはデバフをかけ続けろ!ギリギリまで僕が火力で弱点を削り続ける!」

先陣を切ったのはハルだった。

「デバフかけます!落ちろ!”グラビティ”」

中級魔人は生気を抜かれたように両腕をダランと垂らした。

崩れる岩場を跳ね飛び、ギークは目を閉じる。

「俺だけ見てろ!”剣技・乱れ雨”」

中級魔人はなんとか上げた両腕で防御姿勢をとる。

ベルはいつものようにニヤリと笑い、左手の人差し指で狙いを定め魔力を込める。

「うんうん。君には”魔法”はいらないね。これは単純な”魔力弾”さ」

バン!と撃たれた魔力弾。確かに一発の発射音だった。しかし魔力弾は三つに分かれ

それぞれ頭、左腕、左脇腹を弾いた。ふぅ。と一息吐いたのち、右手で指を鳴らした。すると地面が空に向かい形を成していく。

「覚えておきな、消え行く魔人。主神アリス様の元に送る生涯で見る最後の魔術。君は名誉の死を迎えるんだ。次期騎士団長の一撃を喰らうといいさ」

下から雄叫びが近づいてくる。

「貴様のぉ!!!負けだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!

”剣技・バスタークラッシュ”」

エデルハードの大剣は中級魔人の脇腹を抉り取っていった。達成証拠のため中級魔人の首を切り落とす。首は直属部隊に包ませて救助活動を継続する。

山頂付近まで登ると、ベルが全員を手で制止する。

ここだ。と呟くと山の斜面に手をついた。するとモヤがかかったように抉れ始め、洞窟が姿を現した。警戒を怠らず慎重に捜索を続けると奥に檻が見えた。光に反応するかのように檻から声が聞こえる。

「魔術師か!?ここは危険だ!急いで引き返しなさい!できればへクトグラム共和国にこのことを・・・」

必死に捲し立てる男をベルが宥める。

「安心してください。ルデンテ王国筆頭宰相、ベル・ロストマジックと申します。へクトグラム共和国からの救援要請によりあなた方を助けにきました」

すると今まで無口だった大柄な男が口を開く。

「ここに来るまで中級魔人族に会わなかったか?」

ベルは年相応の笑顔で答えた。

「あ、倒したのでもう問題ないですよ」

あっけからんとした回答に捕虜の面々は口をあんぐりと開けるのであった・・・



 大柄な男は呆れたように口を開いた。

「ベル殿がいらした・・・ということは嘘ではなさそうですね」

ベルは親指を立ててはにかむ。少年のドヤ顔に周囲の大人は空気が和らぐ。

檻の施錠は鍵を探すより壊す方が早いと判断され、エデルハードが大剣で入り口を作り捕虜を脱出させる。捕虜の面々は武器を取り返し急ぎ洞窟を出る。

戦闘で悪くなった足場を慎重に降りながら情報共有をする。

そこで二つの疑問点が浮かんだ。

一つ、何故自我のない中級魔人が知恵を使った行動をとったのか。戦闘しかすることができないと思われていたの関わらず今回は捕虜を捕まえた。まるで戦闘を避けているかのように。

二つ、では誰がそれを考えたのだろうか。中級魔人に的確に指示を出せるのは上級、はたまた特級魔人族のみである。それらが背景にいたとするならば、国を揺るがす大事件である。

ここで話した内容に箝口令を敷いてハウド村に帰還する。


 ハウド村の住人には中級魔人のことは伏せ、中級魔物の異常発生、そして第三騎士団は連日連夜討伐に明け暮れていたため、ハウド村に立ち寄ることができなかったと説明した。

こちらの被害状況はへクトグラム第三騎士団から死者十二名、負傷者三十六名。

ルデンテ王国第二騎士団から負傷者六十八名、魔術師団から八名、共に死者数なし。中級魔人相手にこの被害数はむしろ良かったとさえ言える。通常であればこの動員数であれば一割残れば上々と思われる。それほどまで魔物、魔人、魔神に対する個人的戦力差があるのが常識であった。

しかし、ベル・ロストマジックが首脳についた戦場はどんなに不利な状況でも、予測される死者数の最大でも三割の被害で必ず勝利を収めてしまうことから宰相としても軍師としても超一流なのである。今回の少数派遣もベルが遠征に加わるから許可が出たと言っても過言ではない。

一行はハウド村で遠征準備を整え、事の説明のため、このままへクトグラム共和国へと歩みを進める。


 数日の遠征ののち、へクトグラム共和国首都【ペンタグラム】に到着した。

その名の通り五角形の首都の中央に巨大な中央会議場がそびえ立つ。

騎士団、魔術師団には待機命令を出し、ギーク、エデルハード、ハルを連れ中に入る。中には五人の種族の違う亜人の老人たちがいた。

中央に座る長い毛の犬人が口を開く。

「よくぞ参られた。あなた方は盟友で大事な客人だ。どうかお掛けになってくだされ」

犬人族の大長老、ワンドック・へクトグラム。

へクトグラム建国の祖、マグリッド・へクトグラムの子孫である。

四人は円卓を囲むように置かれている椅子に腰をかける。

続けざまに声を発する。

「今回の第三騎士団救援要請に応じて頂き、感謝の念が耐えませぬ。して、事の顛末の説明をお願いしてもよろしいでしょうか」

ベルは全てを話した。中級魔人の登場、意志のある行動、背景に何かが存在する可能性。これらを聞いた中央議会はどよめいた。


 「・・・そんなことが。重ね重ね感謝申し上げる他ない・・・」

ワンドックが頭を下げると続いて他の大長老たちが頭を下げる。

ベルは立ち上がり焦りながら両手を振る。

「おやめ下さい!我々を盟友と呼んでくださったのは皆様でしょう?盟友のために力を貸すのは当然のこと。これはへクトグラムのみの有事にあらず。我々の有事ですので!」

するとワンドックの右に座る大柄な毛並みのいい大長老が大きな笑い声をあげながら頭を上げる。

「同盟国にとても大人びた宰相がいるとは聞いていたけど、まさか大人の失態にもこんな気の遣われ方をされたら頭が上がらねぇなぁ!」

猫人族の大長老、バイオリル・マグナータ。昔、Aランク冒険者として名を馳せていた。その功労で引退した数年前に大長老に抜擢された過去を持つ一族。

すると、最右の髭を生やした耳の尖った老人がバイオリルの脇腹を肘で小突き、目を見開く。

「これ。相手は同盟国とはいえ他国の宰相。そんな口の聞き方をするんじゃない」

エルフ族の大長老、キクリ・バルハウス。ここ、へクトグラム建国時に協力してきたエルフ族、デューク・バルハウスの子孫。首都ペンタグラム建設の際、バルハウスの森を献上し、エルフ族の加入を認められた過去を持つ一族。

最左のオドオドした鼠の大長老が二人を止める。

「まぁまぁ。お客人の前でございますし、落ち着いてください。あ、こっちに魔術打たないで・・・あわわわ・・・」

鼠人族大長老、チュードル・アングール。アングール商会の十四代目会頭。商会の初代会頭、チューズ・アングールが建国資金を提供して加入した過去を持つ一族。

大宴会のような大喧嘩をしている。どの種族でも関係がなく言いたいことが言い合える。とても素敵な共和国の一部が垣間見えた気がする。

すると今まで静かだったドワーフ族の大長老、ウダン・ドガンが声を荒げる。建国の際、建物や中央会議場を精力的に建設して加入した過去を持つ一族。

「バッカ野郎!ここで喧嘩しとる場合か!問題が先送りになっただけで元凶が絶たれたわけじゃないんだ!ルデンテ王国と密接に連携協力を仰ぎ、民にも安心な生活を送らせなければいけないんだ!」

まともに会議が進められる人がいた。そう思った矢先、ウダンは続ける。

「その昔、世界を恐怖に陥れた大魔王が勇者に倒されるまでワシらドワーフ族は、民が自分で身を守るための武器依頼が毎日舞い込んできて、彫刻師が剣を、装飾師が矢尻を、建築士が盾や砦を作らにゃいけなくなった。お前らさんもそれぞれ嫌なこと、辛かったことを強制させられる苦労をご先祖から聞かされてこなかったか?それより規模が小さくてもここで迅速に手を打たないと、いずれ民に不安が伝播すれば国は揺らいでしまうぞ!」


男の目は過去を見ていた。

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