逆襲皇帝 ~滅亡寸前の魔蒸気帝国を襲撃する亡霊モブ兵だった俺が、サキュバス・スキル『魅了の王』を得たばっかりに〜

エネ2

ep1 impurity soul(不純物の魂)


 ep1 impurity soul(不純物の魂)

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「現時点をもって、貴様を我が虚兵術から解呪――”追放”する。

 もっとも、”空っぽ”の貴様では、すぐに消滅するだろうがな!」


 それが俺に与えられた最初の命令であり、最後通告だった。


 要するに。

 俺は不良品だから、追い出されたってことだよな?




 ▷ ▷ ▷ ▷ ▷ ▷




 ――カラダが アツい――


 右手を。左足を。

 地獄の熱さに耐えきれず、夢中で動かす。

 だが、鉄の塊の中にいるみたいで全く動けない。


「 ァ ァ ア ァ ア 」


 たまらず喉を震わす。

 でもそれは、声にはならず。

 ひどい雑音を鳴らすのが精一杯。


「何だ? 気持ちの悪いヤツがいるな。

 ”空っぽ”の癖に吠えるとは。

 ふん、まあいい。

 不良品が一匹いた所で、俺様の勝利は揺るがぬ」


 自信満々にそう言ったのは、燃え盛る火のオーラをまとう男。


「さあ行け! 爆弾歩兵ボムズ・ポーンども!

 水の姫もろとも爆死して砕け散れ!!」


 じゃらんと鎖が繋がる剣を振りかざし、燃え盛る火のオーラをまとった男が、号令をかける。


 その数、およそ20。

 ガシャン! ズシャン! と。

 からっぽの鎧から炎を吹き出す亡霊兵達が、鋼鉄の音を立て、ある一点を目指す。


「おのれっ……! よくもお父様を!!!」


 女の叫びがホールを満たす。

 その声は、炎の亡霊兵に囲まれた中心からだ。


 ここはどこかの城だろうか?

 高い天井にシャンデリアが輝き、赤い絨毯じゅうたんが玉座へと続く。


「将軍! 我々は参加しなくても良いので?」


「これは俺様が世界皇帝になる為の前祝い、つまりは記念すべきディナーだ。

 俺様が新しく得た虚兵召喚術で、極上の姫を美味しく調理する。

 部隊長、お前は部下とともに外で見張っていろ」


「では、おこぼれは無しですかい?」


 部隊長と呼ばれた大柄な兵士が、ゲスな笑みを浮かべる。


「ふん、物好きなハイエナが。

 姫を生け捕りにした後はお前の好きにしろ。

 もっとも、五体満足に身体が残っているかは分からんがな!」


「はっ!! ありがとうございます!!」


 大柄でゲスな男は、大げさな返事をして去る。


「くっ――下郎どもがっ!!

 絶対に……許さぬ!!」


 水の姫と呼ばれた女の声に、憎しみがともる。


 女の肌は白く、その顔立ちとスタイルは、この世の美女をぎゅっと一つに束ねたように美しい。

 ”太ももがよく見える”青い軽装鎧には、気品ある装飾。

 なびく金髪のポニーテール。

 短く尖った耳はエルフというより、魔族っぽい。


 そう。


 一言でいうなら、老舗しにせのファンタジーゲームみたいな世界が本当にあって。

 それに出てきそうな金髪美女健全なエロス


 身体はこれっぽっちも動かないが、それを認識できるぐらいに視界は明瞭。


 ん?

 ”ゲーム”? ”ふぁんたじー”?

 何だそれ?


水蒸装填リロード――」


 水の姫が静かに唱えると、胸元から小さな宝石らしき物を取り出す。


 ガシュン!! ボォァー!!!


 姫はその石を、豪華な獲物にぶち込む。

 同時に、弓の背後からブルーの蒸気が激しく噴出し、ジェットの羽根を描く。


氷河の矢グレイシア・アロー!!!」


 ジュイィィィイン!!!


 姫の必殺の声とともに、水の激流が矢の先端へと一点集中。

 次の瞬間、圧縮された水球から無数の氷刃が射出される。


 ドジュゥーーーーンッ!!!


 強いて言うなら、青のホーミングレーザー。

 青い光の尾を描いて一匹残らず亡霊兵を撃ち抜くと、亡霊兵達が跡形もなく崩れさる。


「ほほう。

 さすがは水の国随一の最高戦力――水蒸魔の弓姫すいじょうまのきゅうき

 歩兵ポーンでは、歯が立たぬか」


 ”俺”に飛んで来なかったのは。

 恐らく一歩も動けていないから、認識ターゲットから外れたのか。


「つまり。

 その誉れ高き英雄を討ち取る叩きのめすという事は。

 まさにこの俺様が、火の国で最強最高の将軍である証!!」


「ぬかせッ!!!」


 男の高揚をかき消すように、金髪の姫が猛ると、再びブルーホーミングを撃ち放つ。


「おぉっと」


「なっ!?」


 姫が驚くのも無理はない。

 必中必殺のホーミングを弾いたのは、重装兵の巨大な盾。

 身長3メートルはあろう重装兵は、男を守るようにして、陽炎かげろうのように現れる。


「クックックッ!!

 足りない足りない、あー足りない。

 俺様を仕留めるには、もっとデカいのをくれないとナァ?」


「ぅぐっ――!?」


 その巨躯きょくに見合わないスピード。

 炎の重装兵が一瞬で姫の懐へ入ると、バカでかい戦斧で姫を叩き斬る。


 姫は咄嗟とっさにガードするも、石床の上を派手に吹っ飛んだ。


「うぅっ……、おの……れ……!」


「イイねえッ!! その表情!!!

 任務は生け捕りだが、やはり俺様の偉大な功績を称えるには、その気高い身体をズタズタにして飾るしかない!!

 その綺麗過ぎる血をワインにして添えようではないか!!!

 ヒャハッ!! ヒャハァッハハハハハ!!!」


 ゲス過ぎるテンプレ。

 どう考えてもこの男は害悪。

 吐いた血で床を染める姫を見て、あざけ笑うのだから間違いない。


「――――告げる」


「ア?」


氷闇ひょうえんの眠りにとらわれし、破滅の……御霊みたまよ――」


「なんだ。何をする気だ?」


「我が声を門となし……――かはっ。

 青き深淵の底よりなんじを……迎えん――」


 詠唱。

 それも恐らくは、極大の禁忌。


 何故なら。

 姫がその呪詛を吐くたび、血の海が黒い蒸気となって姫を包むからだ。


「なっ、なんだこの魔蒸気マジョウキ量は!?

 貴様一体何をした!!?」


 魔蒸気?

 魔力か、何かだろうか。


「私がただ、何も準備せずに来たと思うか。

 2000年かけてなお、浄化されない邪神の力……。

 その身で、とくと味わうがいい」


「――まさか!? あの馬鹿げた邪法が実在するだと!?」


 ドス黒い蒸気が放つ、禍々しい邪気。

 それは底なしの死の気配となって、火の男をあぶる。


「チィイイッ!! この小娘があぁあ!!!」


 男が姫に向かって、ファイアボールを乱れ撃つ。

 だが、弾幕はすべて黒い蒸気でかき消される。


「古(いにしえ)の盟約に従い、我が元に顕現けんげんせよ――」


 時間が。


 すべての事象が凍りつく。


「――氷闇ヒョウエンの女神――アルヴェリエ=グラキエス!!!」


 パシィイイイイイン!!!


 姫の全身に青の幾何学模様が走る。

 さながらそれは、魔力刻印か。


 光に包まれた姫が、妖艶な姿へと変貌する。

 ついでに肌の露出もアップデート。


 なんだろう。

 あえて言うなら、ちょっとエロいスーパーヒーロー的な。


滅氷ブレイク・アイス


 妖艶な姫が拳を振った瞬間――ズシャン、と。


 男を守っていた重装兵の三倍はあろう、巨大な氷が空間から現れ、重装兵を木っ端微塵にし潰す。


「バっ……バカな!!

 重装炎兵アーマー・フレイムが一撃だと!!?」




 ――あ。


 これは勝ったな。水の姫が。




「クソがぁあああ!!!!」


 半狂乱になった火の男が、鎖の剣を振り回してはデタラメに炎を撃ち放つ。




 これ以上の長居は無用だな。


 どうせ俺は捨て駒みたいだし。

 面倒くさいから、戦うフリして逃げよう。


 ……とはいっても。身体は相変わらず、鉛のように動かない。




「――――ウゥ……――かはっ――!」




 ――だが。


 外を向いた俺の足が、ギリギリの一歩を踏み出した所で、姫が倒れた。

 完璧と思われた妖艶な姫が、自らの血しぶきで赤く塗り替わる。


 姫の反撃生命は。

 始まりと同時に終わりを迎えていたのだ。


「っ――あ? 何だぁ?!」


 火の男が反応する。


「ははははは!!!

 おいおいオォイぃいい!!!!?

 やっぱり未完成だったのか!!?

 糞な術を使って自ら自爆したのか!!?

 脅かしやがって、このクソビッチが!!! ヒャハァア!!!!」


 男は歪んだ笑顔を浮かべ、血濡れの姫の頭を、足でグリグリと何度も踏みつける。


 何度も。何度も。




 ――。


 ――。


 ――――――やめろ。




「あん?」


 重い。


 相変わらず、この身体は鉛のように重い。


「おい、何だ貴様。

 矛先を間違えているぞ」


 だが。――今だけは。


 この瞬間だけは。


「おいおいオイ。ふざけるなよ?

 たまたま一匹残ったカス歩兵不良品が。

 まさかこの俺様に”逆襲”でもする気か?」


 ”俺”のすべてが砕け散ろうとも。


 俺は、”俺のカラダ”を――全力で動かす。


「はははははっ!?

 空っぽの鎧だから、身体が重いのか?

 剣先がブレブレじゃないか!!

 ようやく動いたと思えば、いきなりあるじに牙をくとはな!

 このガラクタやろうが!!」


 ドドドドドブァンッ!!!!!!


 男の手から連射されたファイアボールが、俺を無惨にも吹き飛ばす。


 そのどれもが灼熱地獄。


 ああ。

 ただでさえ、地獄のようにアツいのに。


 地獄に地獄を重ねた熱さは。

 生まれた事を後悔するには、十分過ぎる苦しみだ。




 ――アツ、イ。




「もういい。

 現時点をもって、貴様を我が虚兵術から解呪追放する」




 オレ、ハ。死ヌ――ノカ。




「もっとも、貴様のような”生きる身体が無い”空っぽのゴミカスは、すぐに消滅するだろうがな!!!」


 男がそう言って手を振ると、”空っぽ”といわれた俺の身体が、にわかに軽くなる。


「さあ、お姫様。

 メインディッシュの続きといこうか――ああ?」


 男が踏みにじる姫の身体から蒸気が噴き出し、床へとこぼれる。

 それはやがて、ヒトに似た異形の形を取る。


「なっ、なんだ!?

 邪神の残りカスか?!

 クソがっ、消えろ!! 消えろっ!!!」


 男が慌てて距離を取り、ファイアボールを乱発。

 だが異形の蒸気はそれらすべてを飲み込み、消える気配がまったくない。




 ――アア。


 ――メンドクサイ。


 コノ熱サカラ――逃レタイ。




 オレ――ハ。


 タダ、自由――二――生キ――タイ。




「※※%※。

 ※$※※※#※、※&※※※※$%※※※」




「っぐぅッ!!?」


 突如、火の男が耳を押さえて悶絶する。


 何故なら。

 この世のものではない、恐ろしき音声を。

 異形の蒸気が発したから。




 ――アア、ア。


 冷、タクテ。


 気持チ。ガ、イイ――。




 それは一瞬だった。

 音を置き去りにする速さで、黒の蒸気が床を泳ぐと、俺の身体を丸ごとすっぽり包みこむ。


「なっ――!?

 何なんだ!? そのおぞましい魔蒸気量は!?

 一体何がどうなっている!!?」


 イカれた機械のように、火の男が慌てふためく。


 ――――――あれ。


 俺の中で黒く渦巻いていた”何か”が、消えたような。


 まあ。いいや。


 そんなことより。

 とにかく今は――自分のカラダ存在が気持ち、イイ。


「おぉおっ! おのれぇっ!!!」


 パニックになる男。

 ありったけの叫びで、極太の熱線を放射する。


 ――――ヌルい。


 俺に直撃した熱線が凍結する。


「アッ……が……ッ!?!??」


 凍てついた熱線を伝う凄まじい冷気が、火の男の全身を凍らせる。


「きさ……ま、なに……を――――」


 ――アア。頭が冴える。


 ――身体の底から。


 ――力が、あふれる。


 バリバリバリッグァッシャアァァアン!!!


 一筋のひび割れから始まる、崩壊。

 醜い氷像と化した火の男が、これでもかと派手に砕け散る。


「将軍殿!!?」


 異変に気づいた大柄な兵士が駆けつける。


 ――こいつは確か。

 己の欲望のために、姫をなぐさみものにしようとした奴。


「一体何がっ――ぐぇ!!?」


 ガラガラガラッバッシャァァアァアン!!!


 ……って。

 俺が軽く睨んだ瞬間そいつは凍りつき、バラバラに弾けた。


「ヒッッヒェアーー!!!? 部隊長まで!?

 全軍ッ撤退!! 撤退だーっ!!!」


 まるで、虫けらが逃げ出すよう。

 駆けつけた他の兵士達が、一斉に居なくなった。


「――俺は、一体……。

 どうなっ……た?」


 突然の静寂。


 分かっているのは、灼熱地獄から解放された事と。

 ”肉声”を今、初めて放ったこと。


「あ?」


 コツン、と。

 足元に何かがあたる。


「何……だ、女の子か。

 さっきの……金髪……の」


 横たわる姫の身体には、氷の欠片がこびりついていた。


「息は……。

 もう、ないのか」


 姫の身体は、ただ眠っているように美しい。

 だがそれは、既に死んでいる身体。


「なのに――」


 その一点に全神経が集中し、引き込まれる。


「――――コレ。

 何だか。とっても。オイシソウ」


 ピンクの唇。

 姫の唇は生々しい色で輝き、そこだけまだ生きているかのよう。


「――――あたたかい」


 冷たく固い氷では無く。

 ぷるんとした肉感。


 気付くと俺は。


 姫の唇に。自分の唇を重ねていた。


 ――access――

(接触)


「え」


 ――run the system installation――

(システムのインストールを実行)


「っ――?」


 突如脳内を駆け巡る、謎の文字と、女性の声。


(ユニークスキル:『魅了の王スピリット・スティール』)


 ――complete――

(完了)


「なっ――」


(魅了対象から、能力を抽出……)

(能力の進化を確認。コピーを開始します)


「何が起こって――」


 →スキル...「生命の波紋」を獲得

 →スキル...「水翔の翼」を獲得

 →スキル...「水魔の弓剣」を獲得


(マスターコアの書換えを完了しました)


「っ――はっ!!!」


 腕に抱きとめていた姫の身体がビクンと跳ね、叫ぶ。


「うぉおぅっ!?」


 思わず声が出る。

 何故なら姫は、”確かに死んでいたはず”、だから。


「あっ――あなた様は!!!」


 姫の目が、カッと見開く。


「いやその、これは不可抗力で……」


 そう。

 それはあらがいようのない、ブラックホール級の衝動による、キス。


 とはいえ、生きていたのなら仕方が無い。

 ようするにこれは、姫の寝込みを襲ったことになるのだ。

 であれば、話は変わる。


「うん。つまりアレだ。ごめんなさ――」


 即断で、ここは素早い謝罪を決行する。


「あなた様こそがっ!!

 水の国の――新皇帝です!!!」


「――はい?」



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