魔界のだんじょん
楸すい
人間の召喚
あぁ、ドキドキする。
魔界に生まれて16年、こんなにドキドキしたのは生まれて初めてかもしれない。
というのも、この日、おれは父さんの書斎で生まれて初めての【召喚】に挑戦していた。
ちなみに今この部屋には、おれ以外は誰もいない。
「ふう……慎重にやれば、大丈夫だよね……」
とか、ぶつぶつ独り言をこぼしながら、書斎の床に、白いチョークで魔法陣の紋章を書き込んでいく。
余談だけど、召喚術は魔界でも【上級魔法】扱いで、実は難しい魔法だったりする。
魔界にはいろんな奴がいるけど、それでも、人間界から人間を召喚できる奴というのは、かなり珍しい扱いになる。
それをなんで普通(よりもちょっぴり貧乏気味の)おれみたいなただの魔族が使えるのか……というのは後で聞いてもらうとして、ともかく、今は。
おれはしゃがみこんで、描き終わった魔法陣の隅っこ、星のマークを示したところに自分の手のひらを置いた。
すぐそばの床に広げておいた本のページには、あとはこの星マークのところに魔力を流し込めば、召喚が完了し、人間を呼べる、と書いてある。
ちなみにだけど……その本によると、人間は狡賢く凶暴で、1人では弱いが集団になると急に強くなるとか、いざという時は魔物の肉を食うとか、なんか色んなことが書いてある。怖い。『人間』のイラストなんか、そこら辺の魔物よりも凶暴そうな感じで描かれてるし……。
「やっぱり、やめようかな……」
急に弱気になってきちゃって、いったん、魔法陣から手を離す。
書斎はしん……と静まり返っていた。
顔を上げると、父さんがいつも使っていた机と椅子が目に映る。そこには今は誰も居ないけれど、一瞬だけ、ぼんやりと……昔みたいに、父さんが座っている背中が見えた気がした。
「……がんばろう。今日こそがんばる、って、決めたんだ……!」
軽く、両手でぱちんと自分のほっぺを叩く。
そしてもう1度、魔法陣の星マークのところに手を置いて……、
「よし……!」
いっきに、手のひらから魔力を放出した。
瞬間。
魔法陣が光って、おれや、椅子や、部屋中をいっぱいに照らし出す。
やがてその光が魔法陣の中央でより強く光って、辺りが真っ白になる……。
魔界のだんじょん 楸すい @hisagisui
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