第19話 たかひろくんと会った日の描写



たかひろくんは、

二十六歳。


某大手グループのスーパーで働く、

ごく普通の会社員だ。


出会ったのは、

私が十六歳になる少し前だった。

気づいたら、

自然に隣にいて、

自然に付き合っていた。


一年間。

特別な約束も、

大げさな言葉もなく。


——それが、心地よかった。


十七歳の誕生日。

「仕事が忙しいから」

それが、別れの理由だった。


私は、

納得なんてできなかった。


大好きだったから。

さよならをしたくなくて、

お願いして、

会い続けてもらっている。


——恋人じゃない。

でも、

完全に終わってもいない。


曖昧な関係。


それでも、

たかひろくんは

会うと、必ず車を出してくれた。


遊園地。

動物園。

水族館。


デパート。

カラオケ。

美味しいご飯屋さん。


「どこ行く?」

そう聞いてくれる声は、

昔と変わらない。


私は助手席に座って、

窓の外を眺める。


——昼の街は、

夜とは別の顔をしている。


たかひろくんは、

いつも優しかった。


急がない。

触れすぎない。

私の話を、ちゃんと聞く。


だから余計に、

終わったことを

認められなかった。


——この人といると、

私は

「普通の女の子」に戻れる気がした。


それが、

どれだけ救いで、

どれだけ残酷かも、

分からないふりをして。


この日も、

楽しかった。


楽しかった、だけ。

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