第3話 安全の象徴が、実は一番怖かった(続)



——後から知った。

あの人は、警察官だった。


夜の街で、

一番信用してはいけない人が、

一番最初に現れた。


名前は聞かれなかった。

その代わり、年齢を聞かれた。


「いくつ?」

少し間を置いてから、

彼は自分の年齢を先に言った。

「俺は23だよ。」


私は、

ほとんど聞こえない声で答えた。

「……17です。」


——その時、

止まるはずの時間は、止まらなかった。


タクシーに乗った。

行き先は、私が決めたわけじゃない。

聞かれもしなかった。


車内は静かで、

逃げる理由を探すほどの隙もなかった。


連れて行かれたのは、

防犯カメラのないカラオケだった。

窓はなく、

外の時間が分からない部屋。


お酒が出てきた。

断る理由は、

頭の中にはあった。

でも、口からは出てこなかった。


——怖かった、と思う。

でもそれより、

「逆らってはいけない」

という感覚の方が強かった。


警察官。

その言葉が、

ブレーキじゃなく

拘束具みたいに作用していた。


——今なら分かる。

年齢を知った時点で、

止まるべきだったのは

私じゃない。


止める責任があったのは、

大人の側だった。


あの夜、

私は判断力を失っていたわけじゃない。

判断を奪われていただけだった。

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