幸せになる途中の話
みほ
第1話 ミスド編
朝八時のミスタードーナツは、まだ眠っている。
店内に流れる音楽も、心なしか小さい。
私はいつもの席に座って、いつものドーナツを一つ取る。
選択肢はたくさんあるのに、
選ぶのはいつも同じ。
変えないことが、今日を無事に終わらせる方法だった。
ホットカフェオレを一口飲む。
熱くて、苦くて、少しだけ甘い。
この味は、私に文句を言わない。
窓の外では、
スーツの人が足早に通り過ぎ、
制服の子が改札へ向かっていく。
みんな行き先がある。
私は、時間を潰すためにここにいる。
——この頃の私は、
「サボっている」んじゃなくて
居場所を作っていただけだったと思う。
ドーナツ一つで、八時から十七時まで。
店員さんに嫌な顔をされないか、
少しだけ気にしながら、
何杯もカフェオレをおかわりする。
ここにいれば、
怒鳴られない。
突き飛ばされない。
「働け」と言われない。
ただの客でいられる。
——今思えば、
私は“休んで”いたんだと思う。
誰にも許されなかった休息を、
こっそりここで取っていた。
夕方五時。
そろそろ帰る時間だ。
家に帰れば、
また何か言われるかもしれない。
でも今日は、まだ怒られていない。
それでいい。
今日は合格。
私は紙コップを捨てて、
ドアを押す。
外の空気は少し冷たい。
でも、朝よりはマシだった。
——この場所があったから、
私は夜まで生きられた。
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