神尾信志のB級図書室 1


 どうも私は名文、名作とは縁遠い。


 絵を見るときも同じで、名画よりは幼稚園児の絵の前で足を止めてしまいます。近所のスーパーの隣に小さな幼稚園があり、父の日になるとスーパーのレジの近くに幼稚園児のお父さんの絵が貼り出されます。首が書かれていないのは当たり前で、鼻が目と同じで黒い点だったり、頭が真っ平らだったりしますが、共通するのは口周りにヒゲの剃りあとの点点点が書かれているところ。幼稚園児のスベスベなほっぺが、お父さんのヒゲの剃りあとでゴシっとやられているんだろうな、とわかって笑ってしまいます。


 そんな私が、今回たまたま出会ってしまったB級作品は「いのりの夏」と「葬送曲」です。


タイトル   いのりの夏

作者     ルイ

執筆状況   完結済

エピソード  2話

種類     オリジナル小説

総文字数   12,703文字


ちょっと心が病んだ少女の話です。二度は読まないと理解できないところがBポイントです。

2026年元旦、再度読みました。また、涙がにじみました。狂おしい思いをひた隠しに生きている人がどこにでもいます。癒す、なんて畏れ多い。深い共感を持って生きていきたいと思いました。


タイトル   葬送曲

作者     藤堂こゆ

執筆状況   完結済

エピソード  5話

種類     オリジナル小説

総文字数   9,979文字


音楽とピアノの描写が秀逸で、A作品かなと思いましたが、読み出してすぐに仕掛けが透けて見えるところがBポイントです。それでもいいんですよ。これだけの文章力があれば、いいテーマさえ見つけられれば、B級卒業で私の手の届かない作家になるでしょう。


 私はこんなB級作品が好きです。


 ここからは毎回付け加える定型文です。何が私のB級かということを繰り返しておきますね。


 まず、文がスラスラ読めるものはA、ザラザラしていてゆっくりしか読みようがないが味があるものがB。

 ストーリーでは、読み出した瞬間にフックがあり、驚きの展開があり、話をストンとまとめて落ちに持っていくものがA、この三つのどれかが欠けていて読み返さなきゃ分からないものがB。

 読後感が、快適な時間を過ごせて楽しかったなというものがA、なんだかエグミが口に残りスッキリしないものがBです。

 この三つの基準でAAAが書籍化されてベストセラーになるんでしょうか。これに一つでもBが混ざったら、私が心惹かれるB級です。


 このB級の中でも、これを読んでしまったら、もう今までの自分には戻れないという、魂を揺すぶるものをBB弾と呼ぶこととします。BB弾は最上級の褒め言葉ではありません。できれば出会わずに静かに生きていきたい、でもB級を求めていると、地雷を踏むように、たまに出会ってしまうのがBB弾だというだけの話です。


 おまけで、私の出会ったBB弾を一つ紹介しますね。


 今回は超ド級の、夢野久作のドグラ・マグラです。

 いつもなら構成が緻密で、キレッキレの怪奇ものの短編を書く彼が、なぜこんなわけわかんない長編を書いたのかが理解できません。

 カクヨムの読まれない作家的に考察すれば、まずこの長編ありきで、予定調和といいますかテンプレといいますか、誰にでも読まれる短編を量産してフォロワーを増やし、最後に魂から読んで欲しいと思っていた長編をドカンと発表したんでしょうか。

 それとも霊界にふわふわと浮いている、この世に姿を表したいと願っている物語霊が、人気作家に降臨してついに願いを遂げたんでしょうか。

 この本を購入して読もうと思って枕元に置いてから、読了するのに二年かかりました。この間に、新約聖書は二回、旧約聖書は一回通読しています。言わんとすることは、誰にも読むことを勧めないということです。


 人を殺したらしき狂人が病院の中でウゴめくシーンから始まります。この狂人を治療するのか研究するのか分からない医師が二人現れます。

 この医師たちの発言が物語の八割がたを占めるのですが、言葉は丁寧で難しく、話はグネグネと曲がりくねってめんどくさい。熱くなっている狂人の患者を、冷たい狂人の医者が診ているといいった構成。狂気は遺伝するのか血の中に宿っているのかが、テーマ。

 しかし、物語の後段まで読み進むと、話の展開の時間軸がグッチャグッチャにずれだして、ついにこの小説を書いている作者こそが狂人だということに気づかされる。そして最後の最後に、全ての狂気をつかさどっている悪魔のシッポがちらりと影を見せて物語が終わります。

 読後の胸糞の悪さがすさまじく、数ヶ月は心が晴れなくなるでしょう。


 では、また。

 

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神尾信志のB級図書室 神尾信志 @Kamiwo-Shinji

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