サザンクロス-イクサの魔王-
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第0話 断章-サザンクロス-
肺がどれだけ酸素を欲しても、口から入るのはカビと鉄の混じった湿気だけだ。
身体を動かすエネルギーを外から取り込む機能は働かず、身体の内側だけが燃え続けている。
全身を走る骨折の痛みはただの熱になって久しい。もし俺が客観的に自分を見れば、死体が自分の死に気付かぬまま、足を引きずって歩いていると考えるかもしれない。
暗い森の谷底は、ちっぽけな人間の生存に優しくない。姿を見せてはいないが、鬱蒼と繁った褐色の草木の向こう側で、肉食動物が死の気配を窺っていることがなんとなく分かる。
肉食動物ならまだしも、今この瞬間に『理外の化け物』に食われる可能性だってあるのだ。
救援は来ない。来る筈がない。
むしろ、こんな俺が救援に向かうべき立場だから笑わせる。
「……グゥ!?」
血と鉄の臭いでむせそうな喉を絞って呻く。精一杯歯を食い縛りながら、足を前に突き出そうとして、踏み外した。
草木に隠れて分からなかったが、わずかに窪んだ地面に足を取られ、窪地の中に倒れ込む。
新たに土の味が混ざった口内。既に立ち上がる気力がない。
分かるのは、今にも死に向かう俺を、敵から奪ったデバイスの生命維持機能が必死に生かそうとしていることだけだ。
くそ。死にたくねえ。
口に出すことすら億劫で、俺はその言葉を喉の奥に詰まらせた。
だが、俺がどれだけそう思おうと、周りの生き物達はそれを許すまい。
それでも、俺は精一杯の気力で、俺の本来のデバイスである『サジタリウス』を握った。
この瞬間に朽ちる命だろうと、ただでくれてやる気は無い。
最後の最後に諦めるのは性に合わない。
最低でも、一匹は道連れにしてやろう。
その気迫でもって、俺は身構えるが、一向に身体を衝撃が襲う事はない。
いつの間にか、俺を取り囲んでいたはずの気配が消失していた。
何故かと疑う俺の脳裏に、直接叩き付けるようなその声が響いた。
《おい坊や。生きる為に、死ねるかい?》
幻聴にしてはやけにはっきりとしていた。その脳髄まで響く、中性的で、恐ろしく厳かな声に俺は無言を返した。
暫くして、声はつまらなそうに吐き捨てる。
《……やはり、聞こえんか。ふん、分かっていたことだが期待はずれだな。つまらん。死に損ないの最後を看取る趣味等ないんだがな》
「……うるせえ、んだよ。幻聴の、くせに……」
《……!? お前》
幻聴と会話が成立してしまったらしい。どうやら、俺の命も相当ヤバいところまで来ている。
だが、悪くない。
このまま一人で死ぬくらいなら、最後に幻聴だろうと側に居てくれるのは、悪くない。
《聞こえていたなら、返事くらいしやがれよ》
「……お前は、俺に、お喋り、する、元気が……」
《そうか、死にかけか》
幻聴は俺の状況を把握した様子で、ふっ、と笑った。
まるで、鴨がネギを背負って来たのを見つけたような、喜色を滲ませて。
《自己紹介がまだだったな》
幻聴に自己紹介などされたところで、このままじゃ数分後には抱えてあの世行きだが。
ツッコム気力もないので、俺はその言葉を待った。
そして続いた名前は、今にも消えそうな意識を揺さぶるような、名前だった。
《俺様はシュウネ。人呼んで【魔王】とは俺様のことだ》
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