樂逸烙座

外並由歌

年賀ss

丑の宴/2021

 年初にて。

 年の瀬から慌ただしかった宴会場はまだずっと、その賑わいをのこしている。年が開ければちょっとは落ち着くかもなんて思っていたけど甘かった。がくいつも、らくですら予約でいっぱいで、わたしたち小間使いは総出で働き通しで、板場もずっと何か切ったり煮たり巻いたりしてて、臨時で入っている蔵人さんたちは酒が足りないと聞いては酒造へ駆けていく。

 ここは樂逸烙座らくいちらくざ。宴会や挙式、その他諸々経営している複合施設……なんだけど、ここ最近はずっと宴会のシフトに入っているのでそのことをちょっと忘れかけている。


「お……お正月、たいへんかも……」

「なにほのか、はじめてだっけ?」

「そうなんだと思う……」


 ほらほら牛あがったぞ、喋ってないで!と板さんが華やかな色の皿を示した。永遠に角盆。質の良い、つまり重たい器をいくつも乗せて抱えることになるので少しも筋肉を休める暇がない。しなやかな腕に常々憧れているしぶきちゃんは「ムキムキになっちゃうよぉ!」と嘆いている。


「私はムキムキになる前に力尽きちゃいそう……」

「――落とすなよ? 作り直してる暇ねぇからな?」


 板さんが聞きつけてとんでもない気迫を放って言うので、神妙な返事をするしかない。料理をだめにしたら三枚おろしにされそうな勢いだ。

 みぎわちゃん戻ったよ、と誰かの声が聞こえてくる。盆を抱えながらそちらに目を向ければ、前掛けをくくりながら駆けてくる汀ちゃんの姿があった。確か今日はブライダルのシフトだったけど、合間を見て手伝いに来てくれているらしい。


「救世主ー! たぶん、そろそろ逸がやばい!」

「わかった」


 逸の宴会でやばいのはいつでも酒なので、詳細も問わずに酒燗器のあるパントリーへ走っていく。速やかに身を翻す汀ちゃんは確かに救世主然としていた。

「……ということは、いま、世界の終わりなの?」「もう終わってるよ!」終わってた。でも本当は、始まりを祝ってみんなここに来るんだ。

 だいじな年明け。この宴が、お客さんたちの一年を彩る最初の種となりますように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る