Photo d'existence 【フォトデギジスタンス】

@jundesukedomo

ベル・グランヴァルの場合。

第1話

「それじゃま、簡単にプロフィールなんかを」


 フランスはパリ八区。とある一軒の花屋。その店内で、来客用の木製のイスに座るシャノン・シャペルは、デニムを履いた脚を組み替えた。ついでにテーブルで頬杖。左手にはソニーのカメラ。


 雪でも降りそうな外、そこから遮断された空間。静謐で、不思議な。


 対面に座る、店のエプロンを着用した少女は戸惑いを見せる。


「あの……私……ですか?」


 左右を確認。だが、明らかに自分に向けられている。気がする。いや、絶対。だって自分しかいない。


 にひ、とシャノンは悪そうな笑みを浮かべて。


「そうそう。聞いてない? 今ねぇ、簡単に言えば色んな職業の人の写真撮って。んで、今後個展に出したいわけ。それで今回は花屋さん、ってこと。そんでここを選ばせてもらったのよね」


 とりあえず記念に店内を一枚。うん、やはりソニーはいい。キャノンも捨てがたいけど個人的にはこっち。


 彼女はパリを中心に活躍するフリーのフォトグラファー。何度か受賞もしたことがある。割と名前は通っている、と自負。レンズ越しに花を捉える。


 店の名は〈ソノラ〉。音、を意味するアレンジメント専門の花屋。ゆえに、様々な花器と花が店内を彩る。床もオスモカラーで、木の風合いが生きている。


 問われた少女は目を白黒させながら。


「でも私……まだ新人……というか、見習いみたいなもので……」


「じゃ、新人フローリストってことで。別にさほら、隅々まで調べ尽くそうとか、粗を探そうとかそういうんじゃないから。自然に、しぜーんに」


「と、言われましても……」


 少女の眉間に皺が寄る。想定外。予定外。いつも通り、店に出勤したらこんなことに。そんな表情。


 というのはシャノンにも感じられたわけで。電話対応した店主、伝えてないなと悟る。


「そうだねぇ、じゃあさ。アレンジメントお願いするよ。それならいいでしょ? そこを撮らせてもらう感じで」


 即座に切り替え。日を改めてもいいのだが、これはこれで無垢な感じで撮れる。それもまた一興。想像から外れたほうがいい写真が撮れる。

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