ACT.1 庄林かなと大竹

 2週間後――朝の熊本の空は、夏の匂いを含んだ青色で、

 うちはエンジンをかけたGTOの振動を胸で受け止めながら、助手席の"飯田ちゃん"こと飯田覚に笑いかけた。


「今日もバイト行くばい。……飯田ちゃん、眠か?」


 飯田ちゃんはツインテールを結び直しながら、制服風の灰色コーデの胸元を整えて、ふわっと息を吐いた。


「眠くないわよ。昨日課題してたから少しだるいけど……虎美、スピード出しすぎちゃダメよ?」


「出さんて。……状況による」


「あなたまでお父さんの真似しなくていいから!」


 うちは笑ってシフトを入れ、

 朝の日差しの中をGTOで出発した。


 プールへ向かう国道

 阿蘇の方から吹き下ろす風が、GTOの車内を涼しく撫でる。


 飯田ちゃんはピンクのタイツをくいっと整えながら、窓の外の景色を見つめていた。


「今日混むかな。プール、夏休み前なのに利用者多いし……」


「うちがおる日だけ混む気がするたい……」


「虎美が“声量デカい救急笛”みたいな顔するからじゃない?」


「褒めてないやろそれ!」


 飯田ちゃんは笑いをこらえて口元を指で隠した。


 背後から――不穏な白。

 国道を走り、プールのある住宅地へ向かう途中だった。


「虎美……後ろの車……なんか速い」


「ん?……白いSUV?」


 バックミラーの奥で光るヘッドライト。

 車体は白いフォレスター。

 しかも――やたら車間が詰めてくる。


「わ、わわ……すごく近い! なにこの距離!?」


「煽りよるやん……なんでうちに……?」


「虎美、安全に走って! ぶつけられたら嫌よ!」


(なんね……熊本来てから、うち煽られてばっかやん……前は鹿児島のAE101に追い抜かれ、今日はフォレスターか……うち、カモなん……?)


 白いフォレスターがさらに距離を詰めた。


 その瞬間――フォレスターの運転席の男が、ニタァッと笑ったのが、ミラー越しに見えた。


「……笑ってる。なんで笑ってるの……あれ……?」


「知らんけど……うち、嫌な予感しかしとらん……」


 加速するしかない


 飯田ちゃんはハンドルにしがみつくように身を寄せた。


「虎美……逃げて……!」


「任せんしゃい……!」


 アクセルを踏み込む。

 GTOのツインターボが吠え、背中に強いGが押しつけられた。


 ブースト1.4!


 ドオォォォォン!!


「きゃあっ!? は、速い!! 速い速い!!」


「GTOの本気たい!!」


 それでも白いフォレスターは――ついてくる。


「うそ……4WD……加速が化け物……!?」


(なんやあいつ……うちが全開にしとるのに……まだ詰めてくる……!)


 再びミラーを覗く。

 白いフォレスターのドライバーが――笑いながら、スマホで“こっちを撮影していた”。


「撮ってる!? なんで撮ってるの!? 取材!? え、いや、危ないでしょ!!」


「なんねんあの人……!」


 フォレスターは鼻先を揺さぶりながら、さらに接近してくる。


(この距離……ぶつけられる……! 飯田ちゃんに怪我させるわけにはいかん……!)


「飯田ちゃん、しっかり掴まっとって!!」


「つ、掴んでる! がんばって虎美!!」


 住宅地へ入る手前、GTOのトラクションが路面を噛み――一気に引き離した。


 フォレスターが少し遅れ、そのまま旧国道へ消えていった。


「はぁ……はぁ……やっと……離れた……」


「なんやあの白……ありえん速さやった……」


 飯田ちゃんは胸の前で両手を握りしめて震えていた。


「虎美……あの運転手、絶対普通じゃなかった。なんか……目が笑ってなかった……」


「うちも見た。あれ、たぶん……“ただの煽り”やなか。なんか目的があったばい……」


「撮影……? 取材……?」


 その時、飯田ちゃんが思い出したように顔を上げる。


「……あのフォレスター……車種……どこかで…………あ。“民放の取材車”って言ってた……大竹って人……有名よ……熊本では……」


(大竹……? あの笑い方……撮影……GTOを煽って、反応を見るつもりやったと……?)


「どっちにしろ……許されんたい。飯田ちゃんを怖がらせた……。うち……絶対あいつと話つけるばい」


「虎美……でも危ないわよ……!」


「危険運転されたら言うべきやもん。しかも……“面白いね~”って笑いよるタイプのやつやろ? うち、ああいうの……大っ嫌いたい」


 GTOは市民プールの駐車場に入った。

 飯田ちゃんは小さく震えた手を握りしめながら――


「虎美……ありがとう。逃げてくれて……」


「当たり前たい。飯田ちゃん守れんGTOなんか……乗っとる意味なかもん」


 覚は胸まで赤くして、そっと目をそらした。


 その頃――白いフォレスター


 国道の別れ道。大竹はハンドルを軽く指で叩きながら、ミラーに映ったGTOが遠ざかるのを見て笑った。


「面白いねぇ……熊本にも“速い子”がいるじゃあないか。取材、しがいがありそうだ」


 フォレスターの500馬力ターボが、低い唸りを上げる。


「……次は、もっと近くで撮ろうか」


 笑みは――完全に“獲物を見つけた捕食者”の顔だった。


 エアコン止めても平気なくらいの風が吹く時間帯。

 うちはGTOを峠の入口に停めて、深く息を吐いた。


(バイト終わった……飯田ちゃんも疲れとるやろうし……ちょっと峠流して帰るか……)


 助手席に座る覚は、制服風コーデを直しながら言う。


「虎美、夜の峠……本当に行くの?」


「大丈夫たい。軽く流すだけやけん」


「“軽く”って言葉、信じていいのかしら……」


 うちは笑ってエンジンをかけた。

 GTOのツインターボが、夜の闇に溶け込むように鳴く。


(お……あの色……)


 対向側の休憩スペース。

 街灯を浴びて浮かび上がったのは――


 ライトブルーのAE101レビン。


 そして、アロハシャツ姿の女が、

 ボンネットに腰かけて星を見ていた。


(やっぱりあの“水色”……間違いなか。あんとき、うちを抜いた……)


 車から降りると、その女がくるっと振り返った。


 赤いショートポニー。

 水色アロハ。

 黒タイツに青ホットパンツ。

 南国みたいな雰囲気で、

 なのに毒舌が似合いそうな顔。


「あんた、あのノロマGTOじゃん。自分の名前、庄林かな。写真家やってるぜ」


「の、ノロマ……!?」


 飯田ちゃんは吹き出しそうになりながらも、ぴたっと口を手で塞いだ。


「ふ、ふふ……ぷっ……」


「飯田ちゃん!?  笑うなや!!」


 かなさんは飯田ちゃんの方を見ると、表情が一瞬で柔らかくなった。


「うわ~~可愛いねぇ! そっちのべっぴんさん、名前は?」


「えっ、わ、私……? 飯田覚です……」


「飯田覚……サトリンだね。いい名前じゃん。あんたはノロマと違って気に入った!」


「待てや!!  なーしてうちだけバカにされると!?」


「事実だぜ。二週間前、ミルクロードで追いつかれたしね。あれ、“逃げた”っちゃ言わんよ?」


 ぐさぁっ。


(くっ……図星……)


「虎美、反論できないわね……」


「飯田ちゃんまで敵やんか……!」


 かなはポケットに手を突っ込みながら、にやっと笑った。


「いいぜ、ノロマ。走り教えてやるから。――あ、来た」


「来た? 何が――」


 ……白いフォレスター


(まさか――)


 遠くで、白いライトが揺れる。

 いやな気配が風に乗って背筋をなでる。


「……虎美。あれ……」


「……フォレスターやんか……!」


 出勤時の煽り。

 あの“笑った男”。


 フォレスターが近づき、

 停めた三台の横にずずっと寄せる。

 ドアが開き、

 長身の男が降りてきた。


 口角だけが妙に笑っている。


「面白いねぇ……再会するとは」


「あなた……!」


「俺は大竹。民放の取材班の者でね。ちょっと、話をしてみたかったんだよ。君――GTOの子」


(嫌な予感しかせん……)


 うちは一歩前に出た。


「なんね? 用件言いなっせ」


「単刀直入に言うよ。――君と走りたい。バトルだ」


「ダメ!! 絶対ダメ!!」


「負けたら、君を“特集取材”する。走り屋高校生、ってね。話題性あるよ」


「ふざけないで! 事故ったらどうするのよ!!」


 大竹は、飯田ちゃんの必死の声に興味もなさそうに肩をすくめた。


「安全運転でやるよ。こっちはプロの撮影班だから」


(プロか何か知らんけど……うちらは“見世物”やないとばい)


 飯田ちゃんはうちの腕を掴んだ。


「虎美、帰ろう……! こんな人と関わっちゃダメ……!」


「……飯田ちゃん」


 でも――

 大竹の視線は挑発的で、逃げたら一生、好き勝手に撮られる気がした。


(それは……もっと嫌や……飯田ちゃんば、また怖がらせたくなか……)


「礼儀として、話受ける。挑まれたら、逃げん。それがうちの流儀たい」


「虎美ぃ……!」


 その時。


「じゃあ、自分がナビやってあげるぜ」


「は? なんであなたが!?」


「あんた一人じゃ、また“ノロマ”発動するだろ。サトリン泣かすくらいなら、自分が隣座る」


「虎美が行くなら、安全のため……かなさんに乗ってもらった方がいいわ……」


(うっ……飯田ちゃんにそう言われたら断れんたい……!)


「……わかりました。嫌やけど……かなさん、頼んみます」


「任せないといけないな――チェストォォォォ!!」


「虎美……絶対、無茶しないでね……!」


 うちは飯田ちゃんの頭を軽くぽん、と叩いた。


「大丈夫たい。飯田ちゃんのためなら、絶対負けん」


 大竹は満足そうに笑い、自分のフォレスターへ戻っていく。


「いいねぇ……いい画が撮れそうだ」


 夜風が冷たく吹き抜けた。


(大竹……アンタの思い通りにはならんばい。うちのGTOで、叩き込んだる……!)


 ――こうして、“夜の箱石峠バトル・GTO vs フォレスター”が幕を開けた。


 箱石峠・広い待避所。

 夜の山に、三台のヘッドライトが三角に向き合っている。

 風がひゅうっと吹いて、杉の匂いが鼻を刺した。


 うちはGTOのボンネットにもたれ、ライトブルーのAE101の隣に立っとる“かなさん”と向き合った。


 飯田ちゃんは少し離れた場所で、心配そうに腕を抱えとる。


 大竹はフォレスターの中でカメラの準備をしながらニヤニヤ。


(……あいつの顔、むかつくばい。)


 かなさんが手首を回しながら言った。


「よーし、ノロマ。作戦立てるよ。」


「ノロマ言わんでください!」


「事実だよ? あんた今からフォレスターと走るんだろ。310馬力の自分が言うのもアレだけど――相手は500馬力オーバーの4WD、しかも公道慣れした大人。普通にやったら負けるよ?」


「……わかっとります」


 胸の奥がじりじり熱くなる。


(GTOは460馬力。パワーは負けとらんけど……挙動の安定性も、荷重も、4WDの“押し出し力”も違う。)


「で、トラミンの問題点はひとつ。興奮したら突っ込みすぎる。」


「うっ……心読まんでくださいよ」


「読まなくてもわかる。GTOはトラクション強いから直線はぶっ飛ぶ。でもコーナーの初期荷重が重いから、ひとつミスったら山肌に刺さるよ?」


「ぐっ……」


 やっぱ毒舌や。

 でも言葉が全部“的確”なんだよな……悔しいけど。


 飯田ちゃんがそっと近づいてきた。


「虎美、無茶したら絶対ダメ……あなたはまだ、免許取って2週間なんだから……!」


「飯田ちゃん……」


 飯田ちゃんの瞳の揺れが、胸に刺さる。

 大竹に挑むのは、彼女のためでもある。

 あいつの好き勝手にはさせたくない。


 かなさんは、GTOを見ながら顎に手をあてた。


「――いい? 作戦はこう。」


 うちらは無意識に前のめりになる。


 かなの作戦:『箱石限定・ハサミ撃ち作戦』


「スタートしたら、最初の直線で絶対に無理しないこと。相手の加速は化け物クラス。追い付こうと踏みすぎたら、コーナーのブレーキングポイントが消し飛ぶよ。」


「……うち、そんな無茶しませんよ……」


「虎美、あなた絶対やる。」


「ぐっ……!」


「で、ここが大事。箱石峠は“中高速コーナー”の連続。直線はフォレスター、コーナー立ち上がりはGTOの方が速い。」


「……つまり?」


「“追いかける側に回れば勝てる”ってこと。」


「えっ……虎美、追いかけるの?」


「せやけど、抜こうとせんでよか。後ろでプレッシャーかけ続けて、大竹が“勝手にライン崩す”のを待つ。」


「そんな簡単に崩れるかね?」


 かなさんはにやっと笑った。


「大人はねぇ、自分が撮られとると“いい顔”しようとして崩壊する。」


「うわぁ……リアルな話。」


「確かに……あの人、絶対見栄っ張りよね……」


「で、崩したら――立ち上がりで刺す。フォレスターはコーナー出口の踏みが重いから、GTOの軽量化+ツインターボの“ドン”が効く。」


(……いける気がしてきた。)


「かなさん……意外と頼りになるやん……」


「意外とは失礼だねー! 自分は走り屋じゃなくて写真家だけど、“ドライビングは筋肉記憶”だからな。」


「虎美……本当に、勝てる?」


 うちはうなずいた。


「勝つために走るんやない。飯田ちゃんを怖がらせたあいつに、“礼儀”見せるために走るんたい。」


 飯田ちゃんは少しだけ頬を赤くした。


「虎美……あなた、そういうとこ……ちょっとだけ好きよ……」


「ちょ、な、何照れとん!?」


「はーいラブコメ休憩終わりー! ノロマのトラミン、行くよ!」


「うっさいわ!」


 うちはGTOのドアを開け、シザースドアが夜空に向かって跳ね上がる。


 かなさんが助手席へ滑り込み、シートベルトを締め、そして――。


「ノロマのトラミン。絶対ブレーキは早め。踏むなと思ったらすぐ蹴る。」


「……わかった。」


 飯田ちゃんは二人を見送りながら、

 夜風の中で震える声を出した。


「虎美……戻ってきてね……!」


「当たり前たい。飯田ちゃんに心配かけっぱなしにするわけなか。」


 GTOのエンジンをかける。

 ツインターボが低く唸り、山の闇が震えた。


大竹のフォレスターも動き出す。


(よし……作戦、忘れんように……追う側で勝つ――)


「虎美。胸張りな。あんたのGTO、誇らないでどうする。」


 うちは深く息を吸った。


「――行くばい。」


 シザースドアを閉めると、GTOの車内は一気に“密室”になった。

 夜の箱石峠の湿気が入り込んで、空気が重くて、エンジンの振動が胸に直接ぶつかってくる。


 助手席のかなは、ロールバーに指をかけながら周囲を確認していた。


「……ふむ。視界よし。ノロマのトラミンも視野は広いな。大竹のフォレスターは背が高いから、“突然見えなくなる瞬間”がある。」


「そげん怖かこつ言わんでください……」


「怖がるくらいが丁度いいぜ。」


 彼女は意外なほど落ち着いている。

 ライトブルーのアロハが薄暗い車内で揺れて、ふと、甘い柔軟剤の匂いが漂った。


(……なんやろ。この人、毒舌で変な格好のくせに、助手席座るとプロみたいや……)


 かなさんがシートベルトを締め終えると、うちの顔を覗き込んできた。


「――虎美。手、震えている。」


「は!? 震えとらんです!」


「ほら見よる? ハンドルの右手、ぷるぷるしとる。」


 ……ほんとだ。自分でも気づかんかった。


(やっぱ……怖いんよ。大竹の加速も。“負けたら取材”なんて条件も。飯田ちゃんの前で、絶対にダサい姿見せられんし……)


 かなさんは急に真面目な声になった。


「いい? トラミン。緊張しているのは、あんたが“誰かを守りたい”と思っとるからだぞ」


「……守りたい?」


「べっぴんさんの前で泣かせたくない。峠でなめられたくない。自分の走りを貫きたい。どれも立派な理由だろ」


「……かなさん、優しか……」


「優しくねーよ、自分はただ、ナビとして“勝たせたいだけ”だぜ」


 その言葉に、胸がじわっと熱くなった。


(そっか……この人、毒舌ばっか言うけど……ちゃんと“走り屋の目”で見てくれとる……)


 外では、フォレスターのライトが赤く点滅し、大竹がスマホで撮影準備しとる。


「面白いねぇ~」


 あいつの声が聞こえて、うちは奥歯を噛みしめた。


「かなさん」


「なに。」


「もし……うち、また突っ込みすぎたら?」


 かなはニッと笑った。


「その時は――助手席からおもくそ殴る。“チェストォォォ!”ってな」


「いや殴るんかッ!!」


「殴られんよう、冷静に走ればいい。」


 笑わせるんか真面目なんかわからない。

 でも、そのおかげで心が軽くなってく。


 GTOのエンジンを軽く煽る。

 ツインターボが“キュイーン”と鳴き、

 うちの背骨を貫いた。


(よし……怖い。でも、怖いだけじゃ足りん。)


 かなさんが静かに言った。


「――虎美。あんた、今日が“本当の走り屋デビュー”だからな。」


「……うん。」


「胸張って、アクセル踏みな。ノロマでも――“根性”はあるだろ。」


「言い方ぁぁぁ!!」


 それでも、言葉の奥には確かな信頼があった。


 メーターの照明が、うちの両手を青く照らす。


「――行くとです、かなさん」


「上等。」


 スタート地点に着くと、夜の箱石峠は虫の声すら飲み込んだように静まり返っていた。

 霧が薄く漂って、ヘッドライトの光が白い筋になって揺れている。


 飯田ちゃんがコースの先に立ち、ピンクのタイツ越しに脚を踏ん張って、スターターの腕を上げる。


「準備いい? 二人とも!」


 GTOのシザースドアはすでに閉まっていて、隣のかなさんは、マップを膝に置いたまま淡々とシートベルトを締め直す。


「トラミン。最初の一発目は“下りの長い直線”。フォレスターの4WDターボ、絶対飛び出してくる。気ぃ抜くな。」


「わかっとります……!  ばってん、あいつ絶対なんか仕掛けてくるとです……」


「仕掛けられる前に仕掛け返せ。ノロマは“反撃の準備”だけばしっかりな」


「ノロマ言わんで!!」


 そんなやりとりをしている横で、白いフォレスターのライトが不気味に揺れていた。


 運転席の大竹は、右腕を窓から出してスマホを構えながら、こっちを見てニタァ~っと笑っている。


「いやぁ~面白いねぇ! 「走り屋女子高生? ……ああ、これは数字取れるな」


(……ほんまむかつく顔しとるなぁ……)


 飯田ちゃんの細い腕が上がり、静寂を切り裂くように声が響く。


「――3!!」


 うちはハンドルに指をかけ、アクセルを半踏みにして回転数を固定した。


「――2!!」


 ターボのキュイーンという音が高まっていく。


「――1……!」


 その瞬間だった。


 白いフォレスターが ドンッ! と飛び出した。


「えッ!? まだ“ゼロ”言ってない!!」


「うわっ!? 出た、ズルやんかあのクソ男!!」


「落ち着け、トラミン。“ズル開始”は想定内! 追いかけろ、踏め!!」


「虎美!!  行って!! 追いかけないと置いてかれる!!」


「わかっとる!!」


 アクセルを踏み抜く。


 GTOのV6ツインターボが腹の底をひっくり返すような轟音で吠え上がった。


 ギャァァァァァァンッ!!


 ターボが一気に圧をかけ、車体が背中を殴られたように前へ飛び出す。


(速っ……! でも前にはフォレスターが!!)


 大竹のフォレスターは背の高い車体を左右に揺らしながらわざとラインを塞いでくる。


「面白いねぇ~追いつけるかなぁ!? 走り屋さんよぉ~!」


「クソッ……ッ!!!」


 かなが即座に叫ぶ。


「トラミン、“右カーブの手前で一瞬だけ減速”!! フォレスターはロールが大きいけん、右に重心移動した瞬間に“隙”ができる!!」


「わかりもした!!」


 ブレーキを一瞬だけタップ。

 減速したGTOの車体が前荷重になる。


 その瞬間――

 前を走るフォレスターが右に大きくグラリと傾いた。


(今や!!)


「“踏め”ノロマァァ!!」


「言い方ァァァ!!  ばってん踏む!!」


 アクセル全開。


 ツインターボが爆発したように加速し、GTOが低い唸りを上げて地面を蹴る。


 ゴォォォォォッ!!!


 視界の端で、飯田ちゃんが両手を口に当てて見守っているのが見えた。


(追いつく……! 絶対追いつく!!)


 かなが地図を軽く叩く。


「次は“S字の高速切り返し”! フォレスターはそこで絶対に減速する! こっちはロール低いから、切り返しで“差”がつく!!」

 

「任せて!!」


 前方の白い車体が近づいていく。

 ライトが背中を照らす距離になった。


「へぇ……来るじゃん。面白いねぇ~~~~!!」


(しぇからしか……! うちの走り、なめんなよ!!)


 GTOがS字へ飛び込む――


TheNextLap

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