【外伝】好き!好き!モーモーちゃん

松本章太郎

第1話

 今日は、パパがママとの出会いを話してあげよう。君も知っていると思うけれど、ママは大学時代にモーモーちゃんの着ぐるみを着ていたよね。ママとの最初の出会いはそれだったんだ。

 パパの通っていた大学で、地域の大学の交流イベントが開かれたんだけど、そこにモーモーちゃんが出演したんだ。パパは暇だったのでちょっと覗いて見たら、ステージの上でモーモーちゃんが踊っていたのさ。跳ねるように走り出てきたモーモーちゃんは、可愛いかったし、愛嬌があったけど、それよりも全身から“やる気”が噴き出していてすごい迫力だったんだよ。

 蹄を振り上げて「モー!」とやると、見ている学生たちが息を揃えたように「モー!!」と返すんだ。モーモーちゃんのミニライブだね。

 ステージの上を縦横無尽に駆け回り、跳ね回り、倒れ込みそうなほどの動きを見せながら、それでも観客の声に応え、全身で「モー!」と叫ぶその姿にパパはもうクラクラだ。

 こんなキャラクターを演じているのはどんな女性なのだろう、その女性はきっと素晴らしい女性だ、見てみたい、会ってみたいとまで思う始末さ。でも、キャラクターショーの後に楽屋に行って中の人に会わせてと頼みに行くなんて、あり得ないし、「おとといおいで」だよね。でもそんな子供じみたことを舞い上がっていたパパは本気で考えていたんだな。

 幸いなことにパパの大学もママの女子大も小さな大学、世間がとても狭い、必死に友達の友達と訪ね歩いて、ずいぶん恥ずかしい思いもしたけど、会う約束ができてしまった。

 というわけで、カフェで三人の女の子と会った。もちろんママがそのなかにいたんだけど、なぜ三人なのかなあと不思議に思った。そうか、着ぐるみは三人の女の子の交代なのかとパパは早とちりをしたけど違った。

 会いたいと言われたママは恥ずかしがってグズグズしている、それを見かねた友達が一緒に行ってあげるからということだったんだ。その時もママはめちゃくちゃ緊張して、下ばかり向いてほとんどしゃべらなかったんだよ、あのママが!

 パパは本当にガッカリしてしまったんだ。元気のかたまりみたいなモーモーちゃんの中の人だ、光り輝く夢のような女性と勝手に思い込んでいたから、目の前にいる女性はつまらない平凡な女子大生にしか見えなかったんだ。もちろん本当は素晴らしい女性だったのにね、ママに聞かれるかもしれないから、ここは強調しておかないといけないね、そこを見抜けなかったパパの目は節穴ということだ。

 パパは地味な女子大生だった、会う価値はなかったと思って落ち込んでしまった。もうこれは一つの失恋だった。

 これでもう終わりと思っていたら、ある日、突然「来週の地域商店街イベント、モーモーちゃんが出動するんですが、どうしてもサポートできる人が見つからないのです。もしよかったらお願いできませんか?」という連絡が入ったんだ。よく考えてみると一度会っただけの、それもそんなに盛り上がったわけでもないのに、パパに頼んでくるなんて不自然な話だ。どうもママはちょっとパパのことが気になっていたようで、今でいうキニピだね、それを見た友達が仕組んだことだったらしい。

 その時のパパは、ああ、あの地味な女子大生ね、でも暇つぶしになるかなと思って、出かけることにしたんだ。

 その日のママはすごかったんだよ。気合い入りすぎてるファッション、ケバい化粧、君にも見せたかったなあ、一体何しに来たんだろうという感じさ。本当にうぶで真っ直ぐだったんだよ、あの頃のママは。

 いよいよ、変身なんだけど、着ぐるみの胴体に入ったママの後ろに回って背中のチャックを上げようとしたときのことさ、強烈な臭いに襲われて、体育館の用具室の臭い、古い汗の臭いにゴムとワックスの臭いが混ざったような臭いというのかな、思わず顔を背けてしまったんだ。

 着ぐるみは洗えないから臭うらしいけど、こんな強烈な臭いと戦いながら、ママはモーモーちゃんになっているんだと、思わず尊敬してしまった。

 そしてパパの目の前にゆっくりと動いているモーモーちゃんが現れると、ステージで見た気持ちがよみがえったのか、急に輝いて見えだしたんだ。

 しずかにたたずんで気持ちを集中、モーモーちゃんになりきろうと心を整えているそんな気持ちがひしひしと伝わってきてさ、それだけで感激してしまったよ。

 パパに手をひかれながら、ゆっくりゆっくり足元を確かめる気持ちで前に進むモーモーちゃん、その息づかいが感じられるし、そしてステージにあらわれると、一気にはじけるように動き回り、ダンスをし、あのモーモーちゃんの大活躍だ。

 あのモーモーちゃんはママなんだ。ママが素晴らしいんだともう体全体でぶち上がってガチ恋さ。

 パパはステージの横で見ているだけだったけど、その後のパレードの時にはしっかり、モーモーちゃんを支えた。

 子どもたちは“モーモーちゃーん!”と走り寄ってくるんだ。

「はいはい、順番ねー!押さないでくださーい!」

「モーモーちゃん握手中でーす!次のお子さんどうぞ!」

「ほら、モーモーちゃんも嬉しいって」

 午後にはジャンケン大会があったんだ。

「モーモーちゃんチョキ出しましたー!」

「わあ! モーモーちゃん勝ったー!」

 こんなふうにパパも頑張ったんだ。

 やがて、モーモーちゃんの大活躍も終わり、ママは帰ってきたけれど、もう汗で髪の毛はぐちゃぐちゃだし厚く塗っていた化粧はドロドロだったけれど、そして疲れ切ってはいたけれど、本当に輝いていたよ。

 パパがスポーツドリンクを差し出すと嬉しそうに受け取ってくれ、一気飲みをしたママだったけれど、その時の素敵な笑顔、パパは一生忘れないと思う。

「あー、暑い……」

「お疲れさま」

「……ありがとう。いやもう、死ぬかと………」

「でも、すごい人気でしたね。小さい子も大人も、みんな笑顔になってましたよ」というような会話をしながら、二人で「モーモーちゃん」をやり遂げたんだ、一緒に頑張ったんだとお互いに感じていたんだ。

 二人で気持ちを一つにして目標に向かって頑張る、これほど二人を結びつけることはないみたいだね。

 もう二人は離れられなくなちゃったのさ。

 その後もいろいろドラマもあったし、それはそれで、全部、パパとママの大切な宝物だけどね、周りの人から見れば、ありふれたよくある話だと思うよ。だから、もう勘弁してもらうけれど、最初の出会いはこんな感じでちょっと面白いだろ。

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