会社のお局ポジやってるけど、なんか部下の女子社員に好かれてる気がする。
mono-zo
会社のお局ポジやってるけど、なんか部下の女子社員に好かれてる気がする。
地道にキャリアを積んでいると実感する。
仕事が楽しくて、会社に忠誠心もある。入社当時は「とにかく仕事をする」ことで精一杯だった。
しかしいつの間にか会社のみんなが好きになって、会社も好きになって……「会社をどうすればより良く出来るか」ばかりを考えていた。それで働いているといつの間にかいわゆる『お局』となってしまった。
上からも少し厳しいと窘められることがある。
たしかに私はきつい物言いをしてしまうし、睨んでいると言われるぐらいには目付きが悪い。
ただ、私は会社のためを思って行動している。
社員の所作や言動、成長のためには出さなくて口も挟む。会社で良くない部分があれば有耶無耶にはしない。いつの間にか会社の経営方針や、会社のためになる情報を集めたり、資格を取ったりして仕事が楽しい仕事人間になった。
そうして多くの部署で成果を上げて課長にまで成り上がった。
――――ただ、やっかみも多い。
課長という役職にしては若く、それでいてきつい。
妬みや嫉みは仕方がないかもしれない。上司という立場になれば部下に仕事を割り振り、部下は仕事に嘆くものだ。となれば上司の愚痴の1つや2つや3つや4つは言いたくもなるものだろう。
上司として部下に100%寄り添った仕事の割り振りなんて出来るわけがないし、何処かで割を食うのは部下である。
ただ私は仕事の責任は自分で取る。「無能な上司の成果横取り」なんて反吐が出る。責任を取るのは上司の仕事だし、会社のため部下のためならいくらでも頭を下げよう。
今日もお茶を自分で淹れ、職場を見渡す。
会社には人が来て、彼らは彼らなりに働く。
仕事に対するスタンスは様々、自分のため、家族のため、遊びのため、将来のため……私のやりがいは仕事で、仕事にこそ真摯でいたい。
仕事人間、会社に住んでいる、会社人間、バリキャリ……そして『お局』そんな呼ばれ方をしている私だが……最近、異変が起きている。
部下の日菜子の様子がおかしい。
彼女は私と違って明るく、朗らかで……いるだけで空気が和らぐような雰囲気の女性だ。
「どうかしましたか」
「なんでもない。楽しんでいますか?」
「はい!秋野さん。唐揚げとベーコンポテトサラダ。それと枝豆です」
「う、うん」
「あ、店員さーん。焼酎水割りお願いします」
「はーい」
「ですよね、秋野さん!あ、マヨネーズと七味です!」
「……うん、ありがとう」
なんでそこまで把握してるんだろうか。
私は唐揚げにマヨネーズと七味が好みだ。唐揚げの肉汁にマヨネーズの酸味と七味の複雑な辛味、そこに焼酎の水割りで流すと個人的に至福の一時である。
嬉しいけども……そこまで日菜子に話した記憶はない。
彼女の新人時代、私が教育係として教えていた。
専務に「貴重な女性社員だから優しく」とか言われて面倒を見ていたのだけど……彼女は何でもメモを取ってそつなくこなしていた。
何でも素直に言うことを聞いてくれて、頑張る彼女に部内の雰囲気は良くなったように感じた。私がいても背筋を正すばかりの男ばかりなのにな。
悲しいことに彼女はトラブルに巻き込まれやすい体質である。
ポワポワとしたゴールデンレトリバーのような雰囲気で和むこともあるが、たまに仕事のミスをしたりうっかりもあった。
たしか取引先でトラブって私が謝りに行ったことはある。上司がこの子にセクハラかましてやがったから私がそいつをトバしたことはある。
新人はミスをするものだし、それをカバーするのは私の役目だ。
面倒を見ていたが……部署が変わっても、何故かこの子のいる飲み会には呼ばれ続けている。
この子もいい歳で、もはや会社の立派な戦力だ。
私は必要なことしか話さないし、物言いがきつい私は当然のように人に避けられている。だけどこの娘だけは常に話しかけてくる。そして色々世話を焼いてくる。
「なんで私にそう構うんだ?」
つい飲みすぎて聞いてしまった。
私が飲んでいるだけでニコニコこっちを見てくるのが不思議に思って。
「秋野さんは私の憧れなんです!いつか秋野さんみたいになりたくて!」
ふんすと胸を張る日菜子は可愛い。
「……私みたいになっちゃ駄目でしょ」
「え?」
「私は物言いがきついし、いるだけで空気が悪くなっちゃう。私みたいになっちゃ駄目でしょう」
「そんな!秋野さんは私の――――「こんな年齢イコール彼氏ゼロ、友人ゼロ。空気を悪くするような会社人間、目指すもんじゃないって」
言葉を被せて遮った。
長く会社にいると、その人の適性や進路を考えることがある。
新入社員なんかは顕著だ。「自分がどう見られているかわかっていない」「他責思考」「能力にそぐわないほどの自信過剰」なんかは良く見られる。謙虚に指導係の言うことを聞いてくれる子が多い中、そういう子はちらほら居て……私の出番となる。
私は一人前の社員に育成するのが得意だ。これまで生意気だった子も私が立派な社員にした。
そういう社員一人ひとりにそれぞれの進路がある。
本人にあった部署に配属できれば信じられないほどの力を発揮してくれることもあるが……やはりうちの会社にあわなかったり別の部署で働くこともある。
女性社員に多いのが「寿退職」だ。
女性は子供を生む。それは人生で素晴らしいことで、会社で働くよりも優先する人もいる。それが幸せだと言う人もいる。だから日菜子にもそういう道はあるはずだ。
寿退職でなくとも少なくとも私のような会社人間・仕事人間になって、厳しく指導して、愛想がなくて嫌われてるような女になるなんて……日菜子には似合わない。
「それでも私は、貴女のことがっ好きなんです!!」
「――――ん?」
あれ?なんだこれ。
日菜子は顔を赤くしてこちらを見ている。
お酒でちょっと言い方を間違えただけだろう。尊敬してるとか、多分そういう言い間違い。
「あぁはいはい、これからもよろしくな」
まぁ指摘するほど野暮ではない。仕事人として尊敬されてるのはわかるし、酒の席だ。変なことを言って明日からの仕事で困るようなことがあってはならない。
軽く受け流す程度が「良い上司」だろう。
「――――はいっ!!!」
❖❖❖
いつもの会社、いつもの朝のはずだった。
荷物を置き、給湯室に行こうと立ち上がるとお茶を持った日菜子がやってきた。
「お茶です」
「ん、ありがとう。でも部下に淹れさせるような上司というのも良くないし――「これからは私が淹れますから」
「えっ」
いつもなら私の言葉を待つ日菜子が強くそう言ってきた。
「それとまだ内定ですが――――秋野課長は新設される部の部長になり、私は部長補佐となります。これからよろしくお願いします」
「…………は??」
うちの会社も大きくなってきたしそういう可能性はあるとは思っていたが私には年齢的に部長は早い。辞令はまだ出ていないと思って……まさかと思い一応メールチェックする。いつもならお茶を飲みながら見ていたが……あった。
喜ばしい反面……何故、日菜子に言われているんだ。先に話が言っていた?
落ち着くためにお茶を一口飲む。おぉ……このお茶美味しい。私好みだな。
「秋野さんの実績を鑑みれば当然ですよね」
「あ、ありがとう?」
私の後ろに回って、私の頑固な肩を揉んでくれる日菜子。
嬉しいのもあるが困惑もある。と言うか困惑でしかない。
「それと……私のことも、これからよろしくお願いします」
耳元でそう言われ、何故かゾクリときた。
ちらりと日菜子の顔を見るとその表情はとても嬉しそうで、誇らしそうで……何処か艶っぽくて。
もしかしてあの告白は本気の告白だったんじゃないか?
いやいや、それはない。
仕事一筋で私生活を顧みないダメ人間の私だ。会社でも色々口出しして嫌われている『お局』だ。陰口だって聞いたことがある。
好かれる要素なんて無いはずだ。
「おわっ!?」
私の頬に日菜子の頬が触れ、後ろから抱きつかれた。
「ストレッチですよ。はい、息を吸ってー」
腕を取られて後ろからストレッチをしてもらった。
仕事に関係のないことなど、私にわかるはずがない。
私の勘違いだったら恥ずかしいし……好きにさせることにしよう。
「秋野部長」
「まだ部長じゃない。……なんだ?」
「これから、よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
「――――はいっ!!」
花が咲いたかのような日菜子の笑顔。
なにか取り返しのつかないようなことをしてしまった気がしなくもないが……まぁ問題が起きればきっとその時の私が対処してくれるだろう。
会社のお局ポジやってるけど、なんか部下の女子社員に好かれてる気がする。 mono-zo @mono-zo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます