幽霊スマホと狼女がでるんだって。

梛猫ブラン《勇者774》

幽霊スマホと狼女がでるんだって。

「ねえ、謡太ウタタはさ、幽霊スマホって知ってる?」


 十歳とお近くも年の離れた僕の又従兄イトコの、アキさん――同じく又従姉(といっても、こっちは僕と同学年だからほとんど同い年と言っていい。向こうはいちいち年上を強調したがるのだけれど)のゆきのお兄さん。


 そんな彼が、電話の相手に向けた「身に覚え」があり過ぎるキーワードに、僕は飲み込みかけていたコーラを、口から噴き出しそうになった。


 慌てて、愛読書を放り出して、

「むぐ」

 反対の袖口で口元を覆う。 


 アウトか? や、ギリセーフ。黒いニットだから少なくとも見た目じょうは大丈夫。


 ⋯⋯⋯⋯のはずだったのだけど、斜め向こうで朱色の表紙の入試の過去問とにらめっこしていたゆきには、そんなことはなかったらしい。


 魔法で「見な」くても分かるくらい、不機嫌そうな目つきが、こちらを睨んできた。

 切りそろえた前髪のすぐ下で、眉根を寄せた険しい表情。


「ショウ」


 あ、これお決まりのやつ。僕が思うと同時に、ニャア。ゆきの後ろからやけに大きな猫の声。それでも振り向かないゆきに向かって、もう一度響くにゃあ


「アジト。お姉ちゃんは、勉強中なんだけど?」

「にゃあぁ! にゃっ!」

「⋯⋯ごはん?」

「にゃあーん!」


 根負けしたのか、もう、仕方ないんだから。毒気の抜けた呟きとともに、ゆきがこたつの縁に手をかけた。


 よいしょっと。


 そんな、小さな掛け声を口にしながら、立ち上がる。


 よかった。僕に火の粉は振りかからずに済んだ。さすがアジトさん。ゆきの扱いが板につきすぎている。僕がそう安堵を心の中で噛み締めて、再びコーラを口にすると⋯⋯


「はァ!? オオカミおんなぁ?」


 アキさんがスマホに向かって吼えた、最悪に唐突な声。


 バカなのお前、そんなセリフに被さるように、僕の手のひらで防ぎきれなかった、褐色の飛沫しぶきがゆき愛用のツートンカラーのペンケースに直撃。


 生成りとピンクのキャンバス地が備えていた、気休めみたいな撥水効果をあっけなく突破して、名状しがたい“まだら模様のステーショナリーセット”が天板の上に爆誕する。


「あのな謡太。そんなジョークよせよな。俺、これでも獣医師のタマゴだぞ? 狼男の、それも、メスゥ? ありえなくね? 馬鹿も休み休み言えよな。――それで? ソレ、どんくらいマジな話?」


 アキさんが張っていた声が、いきなりひそめられた。リビングの隅の定位置で、アジトさんへ猫缶の中身をほぐしていたゆきがチラ、とこちらを見た。


「俺にわざわざ直電してくるくらいだし、知恵先生に繋ぎつけたりせにゃならん感じ――あれ、笙真。どうした? 悪ぃ、謡太、ちょっと待ってて。むせたの? 大丈夫か? ゆきー、お前のノートとか問題集、ヤバいことに――布巾フキン⋯⋯なあ、笙真。アレ相当オカンムリだぞ。おとなしく一緒に怒られよっか?」


 あっけらかんと言ってのけたアキさんに、僕は生理的な理由で浮かんだ涙目のまま、こくこくと頷いたのだった。


 その幽霊スマホと、狼女が師匠ん家にいるとも言えないまま、僕がアキさんと二人してアジトさんを膝に乗せたゆきからコンコンとお説教を喰らった上で、もらったばかりのお年玉から新しいペンケース代を捻出するために、ゆきに連れられて駅ビルまで連行される羽目になったのは――まあ。また、別の話。


(......to be continued?)

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幽霊スマホと狼女がでるんだって。 梛猫ブラン《勇者774》 @naginagi22

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