勇者になる直前の記憶がない私、なぜか魔王の側近メイドと旅をする

美堂 蓮

いつも見る夢

★☆★☆★


「ねぇ……さっきから何を悩んでいるの?」



流れ星がいくつも見える夜空の下、一面に芝生が広がり遠くには背の高い木々が点々と見える場所で、私と少女は並んで木の色が良い感じに出ている茶色いベンチに腰かけていた。



風が舞い木々が揺れ、芝生から生まれたであろう青々とした草の香りが体を包み込む。



隣に座っている濃い青のワンピースを着た少女がその長い明るい茶色の髪を風になびかせながら、初めて会った時と同じ場所で、同じように私に尋ねてきた。



――そんなにじっと見られても、何も出てこないよ



私は少女の方を振り向くのが怖くなってできなかった。

ただ少女の強い意志に当てられたのか、それとも今の自分の気持ちをどうしても吐露とろしたかったのか……

気づいた時には湧き出してくる言葉を口でふさぐことができなかった。



「前に言った私の夢、まだ覚えてくれてる?」

「もちろん!とっても嬉しかった話を私が忘れるわけがないよ」

「あのね……その夢を叶えるために勇者になるべきか、まだ悩んでいるんだ」

「でも、確か勇者になるのって……」

「来週。さすがにの日程の変更はやっぱりできないって」



一瞬、時が止まったかのように周りの音や風がピタッと止まった。



「ねぇ……どうして悩むの?」

「わからない。でも勇者になったら……これまでの大切なものを何か失ってしまう気がして……」

「……そっか」



少女から何かに落胆したかのようなしょんぼりしたような声が聞こえる。



――やっぱり話すのをやめておけばよかった。



自分自身の不甲斐ふがいなさと、思っていたことを話してしまった後悔で目をつむり、下を向いてうつむく。

私は少女が落胆していることが怖くて、少女の方を見ることができなかった。



リーンという虫のいくつもの音色だけが重なって一面に響きよく聞こえる。

少女はおもむろに立ちあがったのか、座っているベンチがカタンと少し揺れた。

無意識に顔を上げると、少女はこちらを見ずに空を見上げていた。

つられて空を見上げる。



満天の星空が広がっていた。

強い光を発している星、光が弱くほとんど見えない星、雲にかかっていて少しぼやけている星。

全く同じ星は存在せず、各々が自身の存在をアピールするかの如く輝いている。

そんな夜空に落書きするかの如く流れ星がたくさん流れていた。

ただ、唯一この世界の夜に一番光を届ける大きく丸い黄色の星にだけに雲がかかっていて薄暗い。

冷たくもゆったりとした心地の良い風が応援するかの如く私の頬を撫でた。



――何か話さないと



そう思ったものの、何を話したらよいのか頭の中でこんがらがってしまい、口を小さくパクパクすることしかできなかった。



――今の自分の気持ちを伝えたい



それでも何一つ、口から言葉が出てこない。

過ぎていく一秒一秒の時間が止まったかのように永遠に感じる。



「ねぇ、クロ」



その時間を動かしてくれたのは、私ではなく少女だった。

少女は空を見上げながら、止まっていた時間をゆっくりと動かすべく、小さく呟く。



「……なに」

「私、どうしてあなたが勇者になることを悩んでいるのか……わからない」

「ごめんなさい」

「ううん、いいの。謝ってほしい訳じゃないから」

「……」



黙ってしまう。

次の言葉が……怖い。

落胆するだけならまだいい、もしかすると責められることだってあり得る。

ただ、話してしまった責任を感じて少女の方から目線を離すことをやめた。

どんな辛い言葉であっても少女の想いはすべて受け止めると、決めたから。



その瞬間、雲が動いたのか黄色の星からの光が少女に降り注ぐ。

少女の頭には人間ではなく魔族であることを示す、黒曜石のように黒い角が二本、鈍く輝いて見えた。



「クロに……これだけはどうしても伝えておきたくて」



そう言うと、少女はクルッと振り返り、ワンピースの裾がフワッと広がる。

少女は座っていた私の両手を手に取り、その小さな両手で包み込むように握った。

透き通るようなその白い手からは想像できない、炎に手を近づけたかのような暖かなぬくもりを感じる。

私は、その手を優しく握り少女の顔を見る。




その透き通る海のような、この世で最も綺麗な青色の瞳を見つめてしまう。



少女はにこりと笑った。

その瞬間一面が一瞬明るくなるほどの大きな流れ星が夜空を彩る。




「一年前この場所で初めて出会って……この場所で修行しながら、色々な魔族の町に行けて本当に楽しかった。ありがとう!!」

「私の方こそ……ありがとう。魔族のこともたくさん知れたし、私も本当の意味で強くなれたと思ってる!」

「クロ、わたし実はね……あなたと同じ夢を目指すことにしたの!」

「えっ!?」

「あなたと同じく、……と……が、……を作る……」




言葉を言い終える前に砂嵐に覆われ、言葉は遮られる。




どうして……

ねぇ、どうしていつもここで終わるの。

この言葉は絶対に忘れちゃいけない大切な言葉。

なのに、どうしても思い出せない。



――いや、私はこの少女の名前も知らない。

会っていたハズなのに。

たくさんおしゃべりしたハズなのに。

何故か……この瞬間以外は何も覚えていない。



私は闇の中に覆われ、何も聞こえず、見えなくなった。



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