アラサー腐女子、お見合い相手が巨大ロボだった件/鋼鉄の花嫁ブライダラー

靖乃椎子

第1話 会社をクビになりまして

“おおきくなったら──くんのおよめさんになるの”


 そんな事を幼稚園時代に私は言った気がする。

 もはや相手が誰だったかすら覚えていない。


“じゃあさ、ぼくヒーローになる”

“ヒーロー?”

“ぼくヒーロー! ハナちゃんおよめさん!”


 あの時の彼はそう言った。


“──くんがヒーローになれたらハナとけっこんしよ”


 皆から『可愛い可愛い』とモテはやされた幼き少女の時代。

 遠い昔の、まだ何も知らなかった純粋無垢な私に言ってやりたい。


 大きくなっても結婚は出来ないぞ。


 彼はもう……。



 ◆◇◆◇◆



『プレイヤー1さんが、結婚しました。皆から1000万円もらえます』


 時刻は午前三時半。


 私こと、真橋花代(シンバシ・ハナヨ)は眉間にシワを寄せてモニターを睨んだ。

 往年の名作ボードゲームの家庭用ゲームソフトが久々に発売されたので遊んでいる。

 当然、本来は四人で遊ぶパーティゲームなのだが、深夜に一人寂しく黙々とプレイしている。


『NPC4さんが、結婚しました。皆から1500円もらえます』


「ばかだなぁ……同姓婚じゃ子供が生まれないからお金もらえないんだよ」


『ハナヨさんに子供が生まれました。皆から500万円もらえます』


 最近のゲームには男女の区別がない。なので恋愛イベントで好きな人とお付き合いする場合も異性関係なく選べる過去作には無かった仕様、これが所謂ジェンダーへの配慮って奴か。


『ハナヨさんの子供が5人目になりました。ボーナスとして5000万円もらえます』


「……こんなに生むと実際、お腹とかどうなるんだろう?」


 ひたすら恋愛のマスを狙ってコマを進める。

 このゲームの隠し要素を狙うためには余計なイベントマスは不要なのだ。

 対人戦では絶対に嫌がられるだろうプレイングで、私は順位こそ最下位になりながらも、ゆっくりゴールを目指した。


『結果発表! と、その前に皆様の生涯を振り返ってみましょう』


 天使のキャラクターがプレイヤーキャラの紹介をしていく。


『ハナヨさんはフリーターを貫きましたが、沢山の10の子供たちに囲まれて生姜を過ごしました』

「持ち資金は少なくても逆転がある……結果は……」


『それでは続いて得点ボーナス! ステータスによって加算されます!』


『ハナヨさんにはパートナーボーナス5億円!』


『ハナヨさんには大家族ボーナス10億円!』


『それでは結果発表!総合優勝は……ハナヨさんです!』


 大逆転勝ち。思わず立ち上がった弾みで有線で繋いでいたヘッドホンのコードがモニターから外れ、大音量のゲーム音が深夜に響く。


『ひみつモードが現れました! スタート画面に戻ってください』


 鳴り響くファンファーレに急いでイヤホンジャックを繋ぎ直すも、一歩遅かった。

 階段を駆け上がり、ダンダンダンッ、と扉を叩く音。

 一階、真下の部屋で寝ていた人一倍物音に敏感な母が起きてしまったようだ。


「花代! 何時だと思ってるん?! はよ寝なさい!」


 うすピンクのパジャマを着た母は部屋に入るなりゲームとモニターが繋がったコンセントをまとめて引き抜いた。


「アァーッッ!?」

「聞いてんの花代っ?! 明日早いんだから、はよ寝やよっ!」


 嵐の如く現れては去っていた母の足音を聞きながら、私は暗闇の中、肩をがっくり落としてベッドに伏せた。


「……ひみつモードぉ」


 弱々しい声は枕の中に吸い込まれた。


 ◆◇◆◇◆


 それは一ヶ月前のこと。


「辞めてやりますよ、こんな会社っ!!」


 私は上司の机に辞表を叩きつけてやった。


 社内恋愛のもつれで私は九年間勤めていた会社を辞めることになった。

 元々、家から近いと言うだけで選んだ企業なので未練はないし、会社の同僚とも親しい関係にはならなかった。

 なのに何故か三角関係にいつの間にか巻き込まれて、私が相手の男を横取りしようとする一番悪いやつって事になってしまったのだ。

 はっきりいって私は全くの無関係で被害者だ。

 その男は新入社員にも関わらず、会社でも一二を争うぐらいには仕事も出来るイケメン君だ。

 凄すぎて逆に近づけない女子もいるぐらいで私もちょっと気にはなっていたが遠くで見ているだけに止めた。

 だが、そんな中でも執拗にイケメン君を狙う雌豹が二匹いる。


 仮に彼女らをA子、B子とする。


 A子は甘え上手で男子に人気の可愛い系女子だが、裏では他の女子社員を悪口を言ってライバルを蹴落とそうする策士。

 B子は逆にクール系で女王様タイプ。いくつもの男子社員を自分の支配下に置く。

 一つの獲物を得るために必死にアピールをする彼女ら。

 そんなAB子たちと新人イケメン君を狙った三角関係に何故か私が加わったことになったのた次長と課長のせいだ。

 彼等からの証言で、私とイケメン君がコソコソと裏で会っているなどと言われたのだ。

 実際は仕事の引き継ぎや伝言を頼まれたのを伝えていただけだ。


 AB子たちと私はしばらく謹慎と言う名の自宅勤務となった。


 後から知ったのが、AB子をイケメン君から引き離すため私を使ったCの軍勢による犯行らしい。

 イケメン君が誤解を解いてくれたらしく、私だけAB子よりも早く謹慎から解放されたのだが、


「でも、紛らわしい行動する真橋くんもよくないよ」

「これからはもっと怪しまれないような仕事をしたまえ」


 上司らにそんな事を言われて、思わず私はブチギレてしまった。

 適当なメモ用紙に『辞表』と書いた髪を机に叩き付けて叫ぶ。


「無実な人を疑って、謝りもしない人らと仕事なんて出来ないっ!」


 席から荷物を奪うように取って、私はタイムカードも押さずに会社を出ていった。

 家に帰るまでに何度会社や同僚から私のスマホに電話やメッセージがあったが、絶対に出なかった。



 ◆◇◆◇◆



 そんなこんなで一ヶ月が経過し、今やただの引きこもり女だ。

 よくよく考えたら事業内容が何だか宗教団体っぽい会社だったような気もする。

 会社のスローガン【地域から世界までより人々の良い社会を創る】とかそれっぽい。

 お給料は大変良かったが仕事に興味ないまま流れで長年働いている自分もどうかと思う。

 貯金はあるのでしばらくは大丈夫だと思う。


「……いつまで続くのかなぁ」


 人付き合いは得意な方ではなかったし、今の部署でも気楽でいいのだが、やりがいは感じられない。一日中、定年間際のおじさん連中が雑談してるような窓際部署だ。


「もうすぐ誕生日なのに……」


 今年で31歳になる。


 世間では子供が一人や二人、居てもおかしくはない年齢だが残念ながら真剣にお付き合いした恋人がいたためしがない。

 いや、むしろ結婚しなければいけないという考えが今じゃ古い時代遅れなのかも知れないが、そういうネットの過激派フェミニストになるつもりもない。

 次の職、探すのめんどくさいなぁ。


 つまりは、


「…………異世界転生したい。悪役令嬢になって、隣国の王子様とかを侍らせたい」


 ベッドの上で天井に向けて呟く、これが私の現実。

 縁遠い過ぎる世界をいくら妄想したところで仕方がないのだ。

 うつ伏せになり、枕を涙で濡らしながら、私の意識は夢の中に落ちた。



 ◇◆◇◆◇



 この時の私は、まさかこれから“あの彼”と再会する事になるとは知るよしもなかっただろう。


 これは私と彼の愛が宇宙を巻き込む《愛の神話》である。

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