閑話〈2〉 追放の裏側

そして運命の追放劇が、静かに幕を開けた


場所は宿の個室

ヒイロが来る前から、三人の心臓は早鐘を打っていた


「ヒイロ

……お前を、このパーティーから追放する」


ルドは、震える声を必死に抑えて告げた


〈心の声:言っちゃったぁぁぁ!!

死にたい! 俺、今すぐ舌噛んで死にたい!

なんで俺、一番の親友にこんなこと言ってるんだよ!?〉


「なっ!?

……なぜだ? 作戦には問題なかったはずだが」


ヒイロの純粋な問いかけが、

三人の良心を、容赦なく抉る


――ここで、怯んではいけない


マリーが一歩、前に出た


「えっとですね、

正直に言うと……邪魔だからです!」


〈心の声:ちがぁぁぁう!

邪魔なのは私のプライド!

貴方は何も悪くないの!

でも、貴方がいると、私がいつまで経っても

『お飾り大魔法使い』のままなのよぉぉ!〉


「貴方が前衛にいると、私が得意の魔法を……

いつまで経っても放てないんです!」


〈心の声:ポーズだけで終わる私の惨めさを察して!お願いだから、これ以上私に恥をかかせないでぇぇ!〉


ヒイロが、はっきりと分かるほどショックを受けた顔をする


それを見て、次はリリィの番だった

彼女は半泣きになりながら、声を張り上げる


「そーそー! はっきり言って

……ヒイロってば、使えないんだよ!」


「わかる? つ・か・え・な・い!」


〈心の声:ごめんなさいごめんなさい!

神様、勇者様、ごめんなさい!

『(回復魔法の対象として)』使えないって意味だからね!?

貴方は素晴らしいの! 私がポンコツなだけなのぉぉ!!〉


三人の必死の“演技”――

いや、本音を切り取っただけの言葉は、続く


そして最後に、

ルドが、震える覚悟でトドメを刺した


「……というわけで、私を含めて全員一致の意見だ

お前がいると、我々の連携が崩れる」


「だから、さっさと出ていってくれ!」


「荷物はまとめてある……はい、それじゃ」


ルドは、用意していた麻袋を差し出した


〈心の声:これ、俺たちからの精一杯の愛だ

金貨は相場の倍、保存食は一番高いやつ

夜は冷えるから毛布も新品にした

……どうか、達者でな〉


「分かった……今まで、ありがとう」


ヒイロは寂しげに笑い、部屋を出ていく


その背中が完全に見えなくなり、

扉が――バタン、と閉じた瞬間


「う、うわあああああんっ!!」


鬼の形相を張り付けていたルドが、

テーブルに突っ伏して号泣した


「行っちまったぁぁぁ!!

俺、最低だぁぁ!!

あいつ、最後『ありがとう』って……

俺なんか殴ってくれりゃよかったのにぃぃ!!」


「ううっ……ぐすっ……」


マリーも顔を覆って泣き出す


「私、あんな酷いこと……

もうお嫁に行けない……

一生、呪ってやる……自分を……」


「勇者くぅぅぅん!

戻ってきてよぉぉ! 嘘だよぉぉ!」


リリィが扉に向かって手を伸ばすが、

もう遅い


――ひとしきり泣いた後


ルドが鼻をすすり、ゆっくりと立ち上がった


「……いつまでも泣いてちゃダメだ」


拳を、ぎゅっと握る


「あいつは、きっともっと強くなる

その時には――俺たちも、

あいつに恥じない強さを手に入れてなきゃな」


「そうね……

まずは、自分たちの力だけでダンジョンに潜りましょう」


「うん……私、頑張る」


悲しみを飲み込み、

新生パーティーが動き出す


ルドが、新たな一歩を踏み出すため、

扉のノブを掴んだ


「よし、行くぞ!」


ガチャガチャ

ガンッ


扉は、びくともしない


「……あ、開かない」


「え? 何やってるのよルド。鍵は開いてるでしょ?」


「いや、重いんだよ! ……って、そうか」


ルドは青ざめた顔で、ゆっくりと振り返った


「この宿の扉、建て付けが悪くてクソ重いんだった……

いつもヒイロが、小指一本で開けてくれてたから……

俺、気付かなかった……」


三人の間に、

新たな絶望が走る


リーダーの全力タックルでも、

魔法使いの貧弱な腕力でも、

支援術師の祈りでも――

扉は、開かない


勇者追放から、わずか数分


彼らは

「部屋から出られない」という、

あまりにも低レベルな試練に直面していた


「ヒイロォォォ!!

戻ってきてぇぇぇ!!

ドア開けてぇぇぇ!!」


その悲痛な叫びが、

勇者に届くことは――なかった

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