閑話〈1〉 実行前夜
時は少し遡る
それは、第60階層の激戦〔0.5秒〕を終えた夜のこと
勇者ヒイロが寝静まったのを確認し、
戦士のルド
魔法使いのマリー
支援術師のリリィ
の三人は、宿のロビーの隅で密談を行っていた
議題は――『勇者の追放について』
だが、
その空気は陰湿なイジメの相談などではない
まるで余命宣告を受けた患者の家族のように
重苦しかった
「……わたしはね」
マリーが膝を抱え、ぽつりと語り出す
「ヒイロの勇姿はずっと見てたいんだけど……周りからの『大魔法使い』っていう過大評価を埋めるために必死に練習して、唯一まともに使える上級魔法を! 本来の実力を証明するために、今日こそは見せつけてやろうって思ってるのに……!
ヒイロが瞬殺するせいで、杖を振り上げたポーズのまま戦闘終了するの!
『我が深淵の……あ、終わったんですか、お疲れ様です』って杖を下ろす私の気まずさ、みんな分かる?」
「……いや、確かにそれは酷いな、見てる俺たちも、正直どこを見ていいか分からなかった」
ルドが沈痛な面持ちで頷く
すると今度は、
リリィがテーブルに突っ伏して唸った
「それ言うなら私だってそうだよぉ!
擦り傷一つでさえ、私が杖を構える前に『
傷ついたヒイロを私が癒して、『ありがとう、楽になったよ』『いいえ、これくらい当然です』って見つめ合うイベントが一度も発生しないじゃない!
私の存在意義どこ!? って感じだよいつも!」
「まー確かに……て言うか、それ言うなら俺もだな」
ルドは重い溜息をつき、天井を仰いだ
「アイツって昔から器用でさ、ほんと何してもすごいんだよ
いつも後ろをついて歩いてた俺なんかより、よっぽどすごいよ……
はぁ……俺らみたいな足手纏いのせいで、アイツはもっと輝けるはずなのに、俺たちに合わせてレベルの低い階層に付き合ってくれてるんだ」
三人の間に沈黙が降りた
彼らはヒイロが嫌いなわけではない
むしろ大好きだし、尊敬している
だからこそ、自分たちが彼の枷になっている現状に耐えられなかった
「……こうして話し合いしても、アイツのいいところしか出てこないよな……」
ルドが頭を抱える
「追放の時、なんて言えばいいんだ! 『お前が凄すぎて俺たちが惨めだから出て行ってくれ』なんて、情けなくて言えるか!」
「私、嘘は無理ですよ
ヒイロの真っ直ぐな目を見たら、
罪悪感で心が痛すぎて軽く死ねます」
「私も嫌だぜ! ヒイロを騙すなんて!」
「俺もだよ! でも……アイツ大抵のことは
『問題ない!』で流すだろ……はぁ」
嘘はつけない
だが正直に「自分たちの劣等感」を話せば、
優しいヒイロはきっと言う
「なら俺がもっとサポートするよ!」と
そして余計に張り切ってしまうだろう
完全に詰んでいた
――その時
「……それなら、みんなのさっき言ったのを、
いい感じにニュアンスを変えればいいのでは?」
誰かが、そう呟いた
「ニュアンスを変える?」
「ああ、なるほどな! 嘘はつかずに、言い方を変えるのか!」
ルドが膝を打つ
切羽詰まっていた彼らは、それが「誰の発言か」など気にする余裕もなかった
「確かにそれは使えるかも……
なら、マリーの『魔法を撃つ前に終わるから撃てない』は、『魔法が使えなくて邪魔になる』とかでどうだ?」
「……心が抉られますけど、嘘ではないですね
私が魔法を放てないのは事実ですし
ならリリィのは、そのままさっき言ってたのを端折って『勇者は使えない』とか?」
「それ私が一番ひどくねぇか!?」
リリィが悲鳴を上げるが、背に腹は代えられない
「ならルドは、リーダーとして追放宣告を担当だな! 幼馴染特権で決定な!」
「うぐっ……わ、分かったよ
俺が引導を渡してやる」
こうして、涙ぐましい「嘘をつかない追放劇」の脚本は完成した
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます