彼氏の寝取らせ癖に悩む幼馴染みの竿役に抜擢されたんですが…うちの恋人まで何故かノリノリなのはどうしてだろう?

かくろう

第1話 理解不能な相談事

「私のこと寝取ってくれないかな…」


「ちょっと何言ってるか分からない」


 意味は分かるのに脳が理解を拒むという現象を体験したことがあるだろうか?



 幼馴染みというカテゴリが存在する。

 それは物心ついた時から同じ時を過ごすことが多かった友人であり、性別は男女どちらにも適応される。



 俺の場合は女の幼馴染みが1人いる。

 今目の前にいる『華原翔子』がそれだ。



 その容姿だけ見ても学園内で屈指の美少女だと俺も認めよう。


 清楚な見た目。絹糸のような艶の黒い長髪。主張しすぎない程良いサイズのお洒落リボンのアクセがさり気ないあざとさを演出している。


 にもかかわらず似合っているのは、それを身につけている彼女が極々自然体でそうしているからだろう。



 腰と肩は華奢で細く、しかし胸と尻は魅惑的なふくよかさを有している。



 対外的な印象としては大和撫子と評されており、俺のような性格のいも甘いも知り尽くした幼馴染みを除けば大概にして外面は完璧と認識されている才女である。


 何しろ成績は優秀で、新体操部のエースで、去年の学園祭のミスコンでは優勝。


 およそ惚れられない要素が存在しない。


 告白された人数は数知れず。だが彼女は学内の名だたるイケメン達からのラブコールを、ことごとく断っている。


 その理由を学内では俺が本命だからと誤解しているヤツが未だにいる。


 俺達はそんな色気のある関係性ではない。



 そんな彼女のハートを射止めたのは、同じ地域の大学に通う医学生らしい。俺は会ったことないけど、しょっちゅう惚気話を聞かされて大体の全体像は掴んでいる。


 なるほど。頭がよくて将来有望な年上が好みであるなら、同学年程度では歯牙にもかけないのは致し方ない。


 しかしてどうだろう。その内面といえば、よく言えば「美少女の皮を被ったおっさん」である。TS転生してきたんじゃないかと本気で疑ったほどだ。


 下ネタは平気でいうし、言葉遣いは汚いし、家では中学の芋ジャージを愛用しているし、漫画を読みながら尻を掻いていたのを見た時は思わずチョップをしてしまったほどだ。


 こいつには美少女に対する夢みたいなものが微塵も感じられないのだ。


 そんなヤツと恋人関係になんぞなれるはずもなかった。


『翔吾にお願いがあるんだ』


 そんな言葉で駅前のカフェに呼び出され、開口一番浴びせられた言葉がコレなのである。


 俺はあまりにもあんまりな言葉を吐き出す幼馴染みの言語が理解できず、思わず聞き返してしまう。


「済まないがもう一回言ってくれるか」


 だけど聞き間違いであってほしいという俺の願いは木っ端微塵に打ち砕かれる。


「だからさ、ウチの彼氏が他人棒じゃないと興奮できないへきってヤツらしくて、その竿役やってくれないかなって。いわゆる、『寝取らせ』ってヤツだね」


 清楚可憐な見た目で他人棒とか竿役とか言わないでほしい。



「なるほど。意味は分かるのに理解を拒むって本当にあるんだな。人生って奴はこれだから分からない」

「冗談でこんな事言えないからね」


 むしろ冗談ではない事が重大な問題である。


 翔子の発する言葉を、俺の脳は全力で理解に苦しんでいた。いやさ理解を拒んでいた。


「あのさ、一応言っておくと、俺、彼女いるんだわな」

「もちろんそれは承知の助だってばよ」


 念のため伝えるが、目の前の幼馴染みである華原翔子に対し、俺は恋慕の情を抱いてはいない。


 今カノとの出会いが無ければそういうルートもあったかもしれないが、いかんせん俺達はお互いの事を知りすぎている。


 コイツに彼氏ができたと聞いた時は安心感すら覚えたほどだ。


 だからよくある『BSS』的な話ではない事を付け加えておこう。



 こんなクレイジーな話を持ってくるあたり、こいつの性格はお察ししていただきたいところだ。


 つまり思春期に入った男子が異性として好きになるには非常に困難な要素を隠し持っている。


 確かに見た目はかなりいい。


 が、俺は彼氏ではない。


「それで? 具体的にはどうしてほしいわけ?」

「引き受けてくれるの?」

「とりあえず話だけは聞いてやる。内容が内容だけに余所に話を持って行かれるのはなんか気持ち悪いからな」


「そうだねー。それじゃあ生々しい話はレンたんが来てからってことで」



 ちなみにレンたんというのが俺のマイハニー、『篠浦恋歌』である。


 ミスコン準優勝の実績が示す通り、彼女も相当な美少女だ。


 俺的には翔子よりも恋歌ちゃんの方が優勝に相応しいのにと思ってしまう。


 明るく元気で裏表のない天使な性格は、文字通り俺のエンジェルなのだ。


 さて、俺のエンジェルについて小一時間ほど語りたいところだが、目下の問題はコイツだ。


 俺がフリーだったら条件次第で引き受けても良かったが、幸いなことに彼女持ちの現在では実現は困難だろう。


 だから自分の彼女を他人に抱かせるという、そのイカれた彼氏にはなんとか改心してもらうしかないと思っている。


 俺だって幼馴染みのコイツに不幸になってほしいとか思ってはいない。寝取らせなんて絶対不幸しか生み出さない。


 幼馴染み生活十数年。ようやく訪れた彼女の春を応援したいと思うのが人情だ。


 だけど肝心の彼氏がそんなイカれポンチであることには驚きと共に憤りすら感じてしまう。


 もしも引き受けるとしたら、その彼氏とは絶対に別れさせる方向で動くだろう。


 それは最終手段だ。


「だいたいお前、なんでそんな平気な顔で恋人外の男に抱かれようとしてるわけ? 普通はイヤだろ」


「そりゃもちろん、私だって最初は断ったけどね。だけどさ…」


 翔子は内緒話をするように顔を寄せ、「ちょっと耳貸して」とか言ってくる。


 ちなみにここは駅前のカフェなので下ネタを大声で言える場所ではない。


 こいつなりにその辺のエチケットはわきまえているらしい。大分遅いが…。


「初エッチの時にさ、彼、エレクチオンしなかったのよ」

「なんだと?」


「だから、男の人のアレがスタンダップしなかったんだってばさ」


「それは分かる。それと今回の話とどういう関係があるんだ。単純に緊張してて上手くいかなかったのではなく?」


 俺だって初めての時は緊張したし、上手くいかなくてヒヤヒヤしたものだ。


 同じく未経験にもかかわらず、恋歌ちゃんが二人三脚で俺を励ましてくれなかったら苦い思い出になっていたかもしれない。


「うーん。私も色々と頑張ったんだけどね。アレしたりコレしたりソレしたりと。未経験なりにさ、それはそれは健気に頑張ったわけよ」


「それでもダメだったと?」


「そう。そんでさ。女としては自信失っちゃうとこだったんだけど」


「まあ一般論でいうなら、お前のツラでボッキングハイマックスにならないなら相当な特殊案件だろうな」

「えへへ、美少女って褒められた~♪」


「言ってねぇよ。話が逸れるからそれやめような」


 こいつのペースに任せると話が前に進まないな。


 それにしても、さっきも言った通りコイツは非常に優れた容姿をしている。


 まさかデブ専とかブス専とかそういうヤツだったんじゃないんだろうなとも思ったが、そういう話でもないんだろうな。


 俺も知識の上でしか知らないが、予想するに相手が好きじゃなきゃ他の誰かに寝取らせる事に興奮はしないはず。


 そもそもが好みでなきゃ付き合ってもいないわけで…。


「うん、まあそんでさ。とうとう彼から告白されたのさ」

「つまり恋人が他の男と"おせっせ"してるところじゃないとバーストできないと?」


「ザッツライト。だから私は決意したんだよ」

「なるほど。んでその竿役が俺なんだな。じゃあそんなヤツとは別れろ。以上、話は終わりだ」


「待って待ってってばっ」


 非常にウンザリする話であったが、翔子は立ち上がろうとする俺の手を取って引っ張ってくる。


 わざわざ隣に移動してくっ付いてきやがるから柔らかぼよよんマシュマロが腕に当たって形を変えた。


 うーんマンダム。


(体は最高なんだよな)


 正直彼女持ちになる前はオカズにした事があるくらい見た目はいいし胸もデカい。喋らなければ好みのタイプなのに、性格が終わってる。


 あんまりくっ付くと修羅場とか誤解されるからやめてほしい。


「お願い聞いてくれないと翔吾の恥ずかしい話をある事ないことレンたんにバラす」

「くっ、汚いぞキサマ」


 だからイヤだったんだコイツのお願いを聞くのは。


 そういえば申し遅れたが、俺の名前は『高峯翔吾』という。


 同じ『翔』の文字が入った名前で、響きも似ていることもあってか、翔子と姉弟と間違われることもある。しかも何故か毎回俺が弟設定でだ。迷惑な話この上ない。


 こいつには幼馴染みだけに昔の恥ずかしいエピソードを沢山握られてしまっている。


 愛しのマイハニーには格好いい自分でいたいので、そんな恥ずかしい過去は是非とも隠匿したい。


 

「分かった分かった。とりあえず恋歌ちゃんが来たら詳しい話を聞かせろ」



 俺のマイハニーである恋歌ちゃんは委員会の仕事で遅くなっている。


 そんな俺に対してこんなお願いをする非常識さを、こいつは分かっているのだろうか。


 普通に考えて彼女持ちの男に堂々と「自分と浮気しろ」と言っているようなものだ。


 頭がおかしいお願いなのはバカでも分かりそうなものだが、こいつバカだったわ。


「翔くーん♡ お待たせ~」


 そんな思考を巡らせていた頃、聞き心地のよいエンジェルボイスが俺の鼓膜を幸せに包んでくれたことに気がついて振り返ると。


「あ、レンたんだ。おーい」

「待ってたよ恋歌ちゃん」


「翔子ちゃんも一緒だったんだね。なんの話してたの?」

「例の話」

「ああ、アレかぁ」


「え? 恋歌ちゃん、翔子の相談事知ってるの?」

「うん。事前に相談受けてたんだよね。私が来るまで待っててって言ったのに、もう話しちゃったんだ」


「ごめりんこ。でも翔吾、条件次第で引き受けてもいいって」

「おいコラ。話を聞くとは言ったが引き受けるとは言ってないぞ」



 いきなり事実をねつ造しやがった翔子を慌てて止める。


 恋人の前で堂々と浮気宣言をするに等しいねつ造は冗談にしても笑えない。


 条件次第で引き受けるかもと言ったのは心の中だ。こいつエスパーじゃあるまいな?


「大丈夫、翔くんがそんな人じゃないのは分かってるから。それじゃあ改めて相談内容をまとめようか」


 恋歌ちゃんは友人の相談事に乗るつもりでいるらしい。


 幼馴染みとはいえ、他の女とそういう関係になっても平気なのだろうか?


 それはそれでショックだ。


 だが次の言葉でわりかし深刻な悩みを受け止めての事だったと理解する。


「翔子ちゃん、飄々としてるけどかなり悩んでたんだよね。それこそ泣きながら電話で相談をしてくるくらいには。だから、翔くんが承諾してくれるならってことで、一応保留にしたんだよね」


「そういう事ね…」


 そうして、この物語に登場する主要人物が出そろったことで、これから始まる俺達の奇妙な関係が幕を開けることになるのだった。


※後書き※


暗い要素なしのコメディタッチで描きます。

全12話でライトに読めちゃうお手軽作品です。

是非お楽しみください。


面白かったら下部にある☆☆☆をポチポチポチッと三回押して青く変えてもらえると嬉しいです


ご意見ご感想もお待ちしております。


(小声)どこでとは言いませんが、大人の皆さんのヤツも某所で同時に始まってます。向こうはこっちと内容がかなり違うので、探してみてください

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