元魔王の異世界生活~人間に転生した魔王はもう一度世界征服を目指す予定でしたが可愛い幼馴染のせいで人間生活を楽しむことにしました~
白雪ななか
第1話 目が覚めたら赤ん坊でした。くるしゅうない
「馬鹿な……こんな人間共に……」
崩れる玉座、ゆっくりと自壊していく身体。
魔王たるこの俺がまさか人間の勇者なんかに……。
力こそ正義の世界。
魔族を付き従え、世界を征服するまであと一歩だったのに……まさか最も脆弱な種族、人間風情に負けるとは……。
目の前には剣を持つ人間の勇者が立つ。
勇者の仲間達が後ろに控えている。
結局こいつらを一人も殺せなかった。
我の……選りすぐりの部下達は皆倒されたというのに。
ふ……全ては結局我に力がなかっただけか。
「殺せ、お前は強かった」
「僕は弱いよ。一人じゃお前に勝てなかった。でも仲間が僕をここに導いてくれた。魔王、お前は孤独だ。お前の仲間は誰もお前を助けに来ない」
「それはお前らが部下を全て倒したからだ」
「そうか? まだ城に残っていた奴らもいたはずだけど、皆逃げてしまったぞ。現にお前が苦戦しているのに誰もこの部屋に来なかったじゃないか」
何を言っているのだ。
魔王を助けに部下の魔物たちがやってくる?
そんなわけがない、あいつらは力の強い者に従っている部下であって、仲間ではない。
苦戦している魔王の所へは決して来ない。
「お前も今度生まれ変わったら人間になると良いな」
「人間に?」
「きっとお前にも仲間が出来て、世界を滅ぼす以外にやりたいことが出来るはずさ」
「ふん、馬鹿な」
そこから勇者は人間世界について長々と話し始めた。
「……下らん、殺せ」
「願わくば次こそはお前にも僕と同じく、苦難とささやかな祝福があらんことを」
☆☆☆
「だう!」
「はいはい、すぐにお乳あげまちゅね」
乾いた喉が潤い、空いたお腹が満たされていく。
味はないが栄養価が高い。
初めて飲んだが悪くない。
身体には魔力があるが、まだそれを解放する時ではない。
乳房から口を離すと口元から垂れた液体を拭いてもらう。
「満足ちまちたか?」
「だう」
全く、まさかな。かつて世界中に恐れられた魔王が人間のガキに生まれ変わってしまうとは。
まあいい、こうなったらあの生意気な勇者が言っていたことが本当か確かめてみるのも一興。
もしあいつが言った事が嘘偽りならば、この世界を再び混沌に変えてやろう。
「うぅ……」
「おねむでちゅか?」
甲斐甲斐しく世話をしてくれるのは、我を生んだ母親とかいう奴らしい。
やれやれ、何をするにもこいつの手を借りなければならないとは……。
魔力はあっても自分の身体を上手く動かせないのでは仕方ない。
甘んじてこいつの力を借りよう。
それにしても少し疲れたな、この体はすぐに疲れてしまう。
身体が育ったら鍛えねば。
「おねむでちゅか? 子守唄を歌ってあげましょうね」
ふん、しょうがない。たまには休息も必要だ、眠るか。
聞き覚えのない歌を聴きながらゆっくりと目を閉じた。
☆☆☆
3年の歳月が過ぎた。
人間にとっての3年は予想以上に身体を成長させる。
今じゃ普通に歩けるし本も読める。
手足が自由に動かせるというのは良いものだ。
――ということで、早速家にある本を読むことにした。
ただ、読み物としては量が少なく不満が残った。
何か他に読み物は無いかと探してみると、どうやら人間の世界には新聞というものがあり、日々起こった事柄を共有しているそうだ。
なるほど、便利だ。
これがあれば、魔王時代に重要地点を守らせていた幹部が勇者に倒されたのをいち早く知ることが出来た、もっと手の打ちようもあったというのに。
あいつらは情報を流さず、上が負けたらさっさと逃げ出す始末、情けない奴らだ。
――と、今はもう人間か。
魔物の情報共有のずさんさはもうどうでもいいな。
それよりも。
人間になって知ったが、人間の世界というのはどうも貴族と呼ばれる身分の者達が偉く、何かにつけて優遇されているようだ。
魔物で言えば力が全て……と同じく、権力が全てという風潮があるようだ。
あと三歳の子供は自分を我と呼ばないらしい。
しょうがないから父親とかいう奴が言っているのに習い、俺……という使い慣れない呼び方に変えた。
まあ、人間になったのだから人間のやり方に染まるのも良いだろう。
それよりも現状だ。
俺にとどめを刺す前に勇者が言っていた話と大分違うような気がする。
誰もが平和に暮らし差別などもないと言っていたが……おかしい。
だがその理由もなんとなく分かる。
この世界だが、俺が元々いた世界とは違うようだ。
見覚えのない地名があるのはともかく、歴史上に魔王が倒された描写がなく、むしろ昔から変わらず魔王がいるみたいな書かれ方をしている。
要するに俺以外に魔王がいるのだ。
ふむ、もし俺が再び魔王に生まれ変わっていたら魔王がもう一体いるなど、ゆゆしき事態だが、今回に関しては俺に関係ないしいいか。
どうやらこの世界の魔王は大して強くも無いし世界征服の意識も低そうだしな。
「おお、ラティ見てみなよ。ゼノンが真剣に文字を読んでいる。やはり天才だ」
「ええ、カイン。天才よ、天才なのよ」
新聞を読んでいると、両親が扉の陰から顔だけ出してこっそり見ながら、天才と褒めてくる。
天才というか魔族語より人間語は簡単だからな。
俺は半年で覚えたぞ。
ともかく、ゼノンというのは俺の名前だ。
続けて父親はカイン、母親はラティという。
全員家名はない。
どうやら俺は平民の家に生まれたようだ。
カインは王都の警備隊の小隊長をしている役人らしい。
凄いか凄くないかで言えば決して凄くない。
警備隊であるカインを顎で使うのが下級貴族である。
うん、全く偉くないな。
俺はぼんやりと窓の外を見る。
ここ、ルーフ王国の王都オースタックの街が見える。
俺は人間の住む世界で最も栄えている、王都という所に生まれたらしい。
ここには王族も住んでいるし力のある貴族も住んでいる。
隣に目を向ければ俺の家が5つは入るんじゃないかという大きな庭を持った大貴族の家が見える。
名をアッシュフォードとか言ったか、恐らくだが悪いことをしているはずだ。
確か人間の世界で金を持つためには悪いことをするのが一番だからな。
その辺は魔族と変わらないはず。
忌々しい。
ちらっと両親にばれないよう扉を見てから、彼らの視界外に手を伸ばす。
左手に魔力を溜め、魔法が使えるかの確認をする。
「ふむ……」
体内に宿る魔力は、魔王だった頃の2割程度か。
この程度では世界を滅ぼすことはかなわんな。
だが赤子の頃は1割にも満たなかった所を見ると体が成長するに連れて魔力は高まっていくようだ。
確か人族の成人は15だったか。
あと12年、大人しくしていれば魔力も元に戻る……はず。
そのうち身体が大きくなったら滅ぼしてくれよう。
くく……それまではこの世界を楽しむとするか。
滅ぼしてしまっては二度と見ることも出来んだろうからな。
ぐう……。
む、お腹が空いたな。
いやはや、この身体はすぐにお腹が空くから困る。
だが、食べ物も下手な物は食べられない。
血が滴る肉でも食べようものなら、すぐに消化不良とやらでお腹が痛くなる。
不便な身体になったものよ。
「あらあら、すぐにご飯にしますからね」
こてっと倒れた俺を見て母親のラティはパタパタと台所へ走っていく。
「ほら、お父さんが運んでやるからな」
続けて父親のカインが動けなくなった俺の身体を持つ。
この二人は言わなくても俺の世話を焼いてくれる。
魔王だった頃は命令しなければ部下達は動いてくれなかったというのに。
毎日一挙手一投足じろじろと見られるのは、少々不愉快だったが言わずとも動いてくれるならば甘んじて受けよう。
全く、何も出来ないというのも存外悪くないものよ。
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