房飾りの少女:野獣画家と凶刃の娼婦~路地裏の家族~

@KumaT

1618年7月2日 ヴィア・デイ・ボルゴニョーニ

”フィリデ様、お体の具合はどうですか?何か必要なものがあれば”

”ああ、フランチェスカかい。少しうとうとしてたみたいだけど、今回のはダメだね。あたしの悪運もここまでってことで、後はまかせるよ。ちょっと窓を開けて風をいれておくれ、それと、その絵を持ってきておくれ。”

フランチェスカが開けた窓からローマの喧騒が、さわやかな初夏の風と共に室内に流れ込んできて、いくばくかの死の気配を打ち消した。その絵は黒い衣服を身にまとい、少しあきれたような微笑と好奇心旺盛な猫のようなまなざしをした肖像であった。フィリデは手に取ると懐かしく・眩し気に眺めた。

”なんだか、普通の肖像画としては華やかさとかが足りない感じはしますけど、お気に入りですよね。”

”そうだねえ、あたしがあたしだったことがわかるからかな。死んだら哀れなジュリオに管財人が来る前に渡しておくれよ。奴なら安心して託せるからねえ。教会のごうつくばりや兄さんには渡せないからね。”


”それって本当に例の野獣画家が描いたものなんですか?ミケ兄でしたっけ?”


”そうそう、最初はただの変な奴でね、あたしら家族が故郷での飢饉でどうしようもなくなってローマに移ったころの、そろそろ冬って頃合いだったかな、川のそばの悲惨な路地裏、ここからは見えないけどねえ、で出会ったんだよ。”

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