第3話 スーツと魔石と銃とイチャイチャ
第三話 スーツと魔石と銃とイチャイチャ
「この道も駄目ね……」
二人は順調に日本基地を目掛け車を走らせていき、山口市内のとある町まで辿り着いた。
だがそこで、事件は起こった。
――町から先に進めなくなってしまったのだ。
町から福岡方面へ通ずる主要な道路が、倒れた電柱や民家等の瓦礫に閉ざされ、通行できなくなっていた。
その後、数時間を費やして迂回路を探したものの通行可能な道は見つからず。
「山道を通るルートなら通行はできると思うけど……」
「危険だよな……」
山と海に囲まれるような形でこの町は存在している。
海側の道がダメなら山側で、ということなのだがこの案には一つ欠陥がある。
もうすぐ台風が上陸するのだ。
台風の中で山道を走るのはあまりに危険というほかない。
「まだ雨はそんなに降っていないのよね?」
光の問いかけに呼応し、恒星は窓の外を眺める。
道路の溝等に少々の水溜まりがあるが、そこでもぽつぽつと水しぶきが上がるぐらいの様子。
現時点では小雨程度の雨しか降っていないようだ。
僅かに残った街路樹も、そこまで風に靡いてる様子はない。
そのことを光に伝えると、
「じゃあ行けるわね」
自信満々な答えが返ってきた。
「いやいや、危険でしょ」
現時点で雨風が弱い状況であるだけで、時が進めば猛烈な豪雨と烈風が襲ってくるはずだ。
そんな状況になればスリップや土砂崩れの危険性が非常に高くなる。
誰がどう考えても危険だろう。
「でもここで台風が過ぎるのを待っていたら、山道が通れなくなっているかもよ」
「まぁ、確かに……」
尤もな指摘だ。
台風の影響で土砂崩れが発生すれば山道は通行できなくなる。
もしもそうなればこの町から先に進めなくなってしまう。
それは絶対に避けなければならない。
来た道を戻り山陰にある道路を使用すれば進めなくはないだろうが……時間がかかってしまう。車の燃料が持つかも分からない。
「それに私、自分で言うのも難だけど車の運転は超得意なのよ。山道くらい余裕だわ」
「そうなの……?」
光は恒星と同い年の一七歳。
車の免許を取得できるのは一八歳以上のはずだが……その辺りはWGSPの団員ということで特別措置が取られているのだろうか。
――光は車の運転が得意……。
恒星にはあまりイメージが浮かばなかった。
「天気が荒れる前に山道を抜ければ大丈夫よ」
「そう……じゃあ、信じるよ」
恒星は現在、光に文句を言える立場ではない。
故に不安を抱えながらもその案を了承した。
「じゃあ、飛ばすわよ……」
山道を走ること二時間。
窓から空を見れば徐々に暗い雲が増え始めている。
水溜まりの様子を見るに、現在は雨が降っていないようだが、それも
「降りるわよ」
光は道中にあった小さな集落で車を止めた。
何の変哲もない、ザ・田舎の集落といったところだ。
集落の周囲は、高い松などが生い茂る林に囲まれている。
「急ぐんじゃなかったのか?」
「もう直ぐで山道を抜けられるから、その前にやっておきたいことがあるのよ」
二人はワゴンからゆっくりと降車し、周囲を見回す。
「こんな山奥でもゴブリンどもは発生するんだな」
「そうみたいね」
この集落も人間の姿はなかった。
ぽつぽつとある民家も瓦が道に散乱していたり、障子が倒れていたり、コンクリート製の塀が崩れていたり、集落全体として見るも無残な様相を呈している。
その民家に隣接する形で存在する田畑までもが、奴らに踏み荒らされたのか、無惨に荒れ果ててしまっていた。
「恒星、これを着て」
光はどこから取り出したのか、一枚の青い服を恒星に差し出す。
「何これ?」
「WGSPの団服よ。私と同じやつ」
恒星は光から団服を受け取り、袖を通す。
「いいのか? 俺が着ちゃって。俺、WGSPの団員じゃないぞ」
「大丈夫大丈夫。そのへんWGSPは緩いから」
「そう……なのか?」
「それよりもその服、実は私の予備なんだけどピッタリなようでよかったわ」
「馬鹿にしてるよな?」
「してないわよ」
光は手を振りながら小さく笑う。
恒星は己の身長を百七十センチ弱、と自称している。細かく言えば百六十九センチ。
女性で百六十五センチある光とは四センチしか差がないため、服のサイズもピッタリだ。
それは恒星がまあまあ気にしているところであったため……少し効いた。
「その服を着ていればゴブリンストロング……ゴブリンの十倍以上あるデカい版に遭遇してもどうにかなると思うわ」
「ゴブリンのデカい版……そんなのもいるのか」
あの小さなゴブリンですら恐怖を感じたのに、その五十倍の大きさがある巨大なゴブリン――。
考えるだけで身の毛が
「ヤツはその巨大な体躯に加えてめっちゃ力が強いのよ。それこそ腕を一振りするだけでビルを崩壊させられるくらいにはね」
「マジで……」
「それよりも厄介なのはヤツは咆哮をすることで周囲の人間をどこかに転移させる力を持っているの」
「そんなの……遭遇したら終わりじゃないか」
デカくて、力が強くて、周囲の人間をどこかに転移させる能力を持つゴブリン……絶対に出会いたくないし、もしも出会ってしまったら一巻の終わりだろう。
「実は恒星を助ける前、私も遭遇したわ」
「マジで……大丈夫だったのか……?」
出会ってる人いました、と恒星は心の中でツッコミを入れる。
「まぁね」
光はどこか誇らしげに自らの胸を叩いた。
「このWGSPが作ったスーツのお陰でね。このスーツは着るとゴブリンストロングの転移攻撃を無効化することができるの。逆を言えば来ていないと転移させられちゃうから気を付けてね。一緒にゴブリンと戦った自衛隊の人たちはこのスーツを着ていなかったからヤツに転移させられちゃったから……」
「すごいな……WGSP」
恒星はスーツの左胸に刺繍されたWGSPの紋章を一瞥する。
今まで名前すら知らなかった組織なのだが、どうやら高い技術力を持っているようだ。
「物理耐性はほぼ皆無だからそこは気を付けてね」
「分かった」
流石にそこまで期待するのは
恒星はゴブリンストロングに出会わないことを
「そこに赤い石が落ちているでしょう」
「赤い石?」
光が指をさした地面を見ると、河原にある小石程度の大きさの赤い石がポツリと煌めいていた。
灰色の小石や砂利、雑草などで構成されている周囲の地面とは、明らかに異彩を放っている。
光は徐に赤い石を拾い上げると、スーツの腰ポケットに押し込んだ。
「この赤い石は魔石と言って、ほら、アンタを襲ったゴブリンにも付いていたじゃない」
「……あれか」
恒星はあの時襲ってきたゴブリンの額に赤い石が嵌め込まれていたことを思い出した。
「魔石はゴブリンを倒すと稀に落とすの。さっきのスーツとかの材料になるから、町へと出る前に集めておこうと思って」
「なるほど」
町は死角が多いからそこで集めるといつ襲われるか分からないから危険だ、と付け足すと、光は周囲をぐるりと見渡した。
「どうやらこの集落の人は結構ゴブリンに抵抗したみたいね」
光に倣い、恒星も周囲を見渡すと所々地面が赤く光っている箇所があるのに気付いた。
恒星は少し歩き、その中でも比較的手近な魔石を拾い上げて光に見せる。
「これを集めりゃいいんだよな」
「そうよ。柔らかいから扱いには注意してね。それから、原理は分からないけど覗き込むと頭痛がするから、絶対覗いちゃダメよ」
光の注意をしっかりと聞いた恒星は思考を始める。
――絶対に覗き込んじゃダメ。
これは……フリというやつなのではないだろうか。
恒星は一七歳……男子高校生だ。
高校生と言えば、人生で最もバカなお年頃である。
――そう、やるなと言われたら、余計やりたくなってしまうような……。
「……」
恒星は思考の末、魔石に視線を合わせた。
その直後、ズキン、と強烈な頭痛が恒星を襲った。
「いってぇぇぇぇぇ」
恒星そのあまりの痛みに、思わず頭を抱えて地面に膝をつき悶える。
まるで、悪魔に脳を支配されたかのような痛み。これは……やばい。
暫くし、叫び声を聞いた光が、ゆっくりと恒星に近づいてきた。
「もぅ、馬鹿なんだから」
光はそう言い捨てると、悶え苦しむ恒星に一言半句の心配の声すらかけずに、踵を返していった。
「はい、これ」
頭痛から回復した恒星はその後、何があっても絶対に覗かないよう細心の注意を払いながら、ポケットがパンパンになるまで魔石を収集し、ワゴンへと戻った。
すると、先に戻っていた光から一丁の
「はい、これ。じゃないよ。俺、銃なんか扱ったことないんだけど」
「大丈夫よ。アンタ、バトルナイト得意じゃない」
バトルナイト……それは恒星がこよなく愛する大人気HPSゲームの名前である。
恒星はこのゲームを毎日のように日が昇るまでプレイしており、その腕前はプロと遜色ないと言っても過言ではないほどである。
だが所詮、それはゲーム内の話。
ゲーム内で銃の扱いが上手だからといって、リアルでも上手だとは限らない。
「ゲームと現実は違うだろ……」
恒星が呆れ気味に返すと、光は小さく笑った。
「これゴブリンにしか効かない奴だし、出てくるのも液体だから多分大丈夫よ」
「いやいや扱い方もわからないし」
そもそも恒星はリアルだとエアガンすら触ったことがない。
精々、幼少期に地元の祭りの景品の銃のおもちゃで遊んだか、くらいのものだ。
対人用ではないとはいえ、急に銃を渡されても、どこをどう持てばいいのかすら分からない。
だが、そんな恒星の思いをよそに光は言葉を紡ぎ続ける。
「大丈夫よ。すぐ慣れるから」
光は強引に恒星の胸に銃を押し付ける。
「全く、光は昔から強引なところがあるよな」
恒星は苦笑を返し、仕方がなく銃を受け取った。
「……そんなことないわよ」
「嘘つけ、あの時だって……」
あれは、中学三年生の冬休み。
自宅で間近に控えた高校受験の勉強を行っていると、光からスマホに一通のメッセージが届いた。
『星夏も誘って三人でカラオケに行かない?』
恒星は当時、焦っていた。
夏休みに受験勉強を怠けていたため当時の担任に、このままじゃ志望校(偏差値四十)は厳しい、と言われていたからだ。
恒星は、カラオケという受験生にとって最強の誘惑に一度は屈さず、断りの返信を送った。
だが結局、光の、カラオケで勉強すればいいじゃん、という甘い言葉に釣られて了承してしまった。
そして、当然、カラオケにきて勉強なんてするはずもなく……。
結果的にはギリギリで志望校に受かったから良かったものの、もしも不合格であったら……間違いなく戦犯ものである。
「そんなこともあったわね」
光は軽く笑うと、恒星の目と鼻の先まで歩み寄った。
「取り敢えず、使い方は……」
光は恒星が持つ銃を片手で掴みながら、もう片方の手で恒星の手に触れ、正しい持ち方や発砲の方法など一通りレクチャーした。
「……なに顔赤くなってんのよ」
レクチャーを終えた光は、
頬がほんのりと赤く染まっている恒星に光はほくそ笑む。
「なってないから」
恒星は光から顔を逸らす。
「なってるわよ」
「なってないったらなってない」
必死に否定する恒星と、からかい続ける光。
傍から見れば、カップルがイチャイチャしているようにしか見えないその光景。
時にそれは、誰かの怒りを買うことになることを、二人は知らない。
・・・・・・
「絶対に……捕まえてやるから」
僕らの夏のゴブリン戦争 らびぬい @rabinui
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