第2話

 バブル。

 それは突発的に生まれるダンジョン。


「自警団はいねぇの?」

「出払っているかもしれない」

「ツイてねぇなぁ」

「もし攻略可能なバブルなら、バーの他にも秘密基地ができるかもね」

「そりゃ、宝くじ当たりますようにって祈るようなもんだ」


 バーを出て、コンクリートに覆われた住宅街を駆ける。

 最寄りのコンビニまで徒歩10分。スーパーまで徒歩15分。用途制限のせいで商業施設のないコンクリ漬けの住宅街は、森よりも静かだ。


 走ること数分。

 生臭い鉄の香りを感じながら、何本目かの路地を曲がった先で、少女が立ち止まる。


 その先には、血溜まりの中で剣を構えているひとりの男と、その近場に積み上がった魔物の群れが見えた。

 魔物は、相変わらずエイリアンのような姿をしている。牛を模しているようなやつ、ワニのようなやつ、そのほか諸々エトセトラ。


 植物系の魔物はいなそうだ。

 と、死体の分析をしていると、バーに来た少女と戦う自警団との会話が始まる。


「す、スズカ……なんで戻ってきた!」

「あなたを置いて、逃げられるわけないじゃない!」

「…っ!(息を飲む音)ば、バカ野郎!お前が戻って来ちゃ、俺が戦う理由がなくなるじゃねぇか」

「そ、それって…!?」

「い、言わせるなよ、バカ野郎…っ!」


 イッチャイッチャとハートマーク飛び交う若人のラブコメディを眺める。

 くっちゃくっちゃっと空気を食んでペッと唾を吐く。


「あとは僕たちに任せて、ふたりは下がって!」


 どこぞの勇者のように、クリンが前に出る。

 人助けなんてしても、今のご時勢リスクでしかない。

 好きで他人を助ける人間なんて、酔狂な狂人だけだ。


 とはいえ今回は……?

 ふむ、と俺は魔物が出てきた先を見る。

 ぷかり、ぷかりと宙に浮かぶ球状の『バブル』。

 泡の中にはスノードームのように中の世界がなんとなく見える。

 本当に、雪が降っている景色が見える。


「雪……雪か。雪ね、いいね」


 雪降るバブルの中から、ずちゃりと巨大なオオカミみたいな魔物が出てきて、周囲を見渡し、俺と目が合う。

 灰色の毛皮、よだれ滴る牙、ヒグマのようにぶっとい腕と脚。

 いずれも異形の様相だが、所詮は地に這いつくばるタイプ。


「ま、まずい。おじさんたちは離れてて!」

「誰がおじさんだ!」

「言ってる場合じゃない、ジロー!」


 やいのやいの言い争っている間もなく、オオカミ型の魔物が飛びかかる。

 ぴょん、と見事なジャンプ。

 んだその襲い方。

 オオカミよりも高く飛び上がり頭を踏みつけ、そのまま地面に叩きつける。

 死体の山プラス1。


「え……こ、このレベルの魔物を一撃で!?一体、どれだけのローンを……」


 男のほうから驚くような声が漏れる。

 ローン、その言葉を聞くだけで胃が締まる。


「先に言っとくが、もし攻略出来たら俺の手柄だからな」

「え、あ、ああ……はい」


 タダ働きにしないよう、しっかりと釘を刺し、3連単の万馬券を握りしめたような思いで、バブルに足を踏み込んでいた。

 ああ、あのバブルは金になるかな。ならないかな。

 一攫千金の香りを嗅ぎつけ、心臓にアドレナリンを注射されたような気分になった。

 

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ローンプレイング ナ月 @natsuki_0828

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