私が恋した殺人鬼 〜セーラー服のツンツンJKに恋をした〜
@yositomi-seirin
第1話 夕べ
一目惚れだった。初夏、日は傾き始めていた。
その少女のいる海辺の喫茶店に入ったのはたまたまだった。
その日、私は近くの海岸でモデルとしての撮影があった。それが案外早く終わって、手持ち無沙汰になって歩いてたら見つけた。
レストラン兼喫茶店といった感じのその店は2階に客席があった。入店してすぐ、私は心を奪われた。
その光景は絵画じみていた。テラス席、眩しいばかりの夕焼けの中、物憂げに肩肘ついて水平線遥かに沈む太陽を眺める少女。潮風に肩甲骨の下くらいまである白の長髪がふわりとたなびく。
どの名画がこの情景より優れるだろう?かつて世界中の美術館で見てきたどんな芸術品にも及ばない美がそこにあった。鮮烈な情景は私の胸に強く焼き付いた。
それで、よく見るとその少女は同じ高校のセーラー服を着ていた。さらに見てみると同じクラスの子だった。
私はその景色に立ち入るのに少し躊躇して、でもそのテラス席に歩み寄った。
「ここ、いいかな?」
その少女、
「やだ」
「……」
即座に示された拒絶の意思。まあ、そうだよね。元より清華は1人を好むことは知ってる。学校でも常に1人でいる。孤立というよりは孤高。
「けどここしか空いてないからさ」
私はそう言って多少強引に座ってしまった。空席が無いっていうのも言い訳であり事実でもある。海沿いのおしゃれな喫茶店、それも夕暮れ時なんて人が押し寄せるに決まってる。実際、私も入店時に店員に満席ですって言われた。
「それに同じクラスなんだしさ」
私の名前、覚えてる?なんて私は軽く首をかしげる。そんな私に清華は目と口を歪ませた。うわ、めんどくせぇ、って。
それで、その歪ませた表情のまま私にさっさと立ち去れと無言の圧力をかける。そんな敵意を滲ませた顔なのに、思わず綺麗だなんて思っちゃうんだからズルい。
自分で言うのもなんだけど、私だって優れた容姿の持ち主だと思う。日本、イギリス、ロシアの血が流れ、白い肌に金髪、左目は赤、右目は青のオッドアイ。モデルに応募したら即日採用になったくらい。
そんな私より、清華は綺麗だった。綺麗というより『美』という概念が具現化したようだった。
「まあま、私が奢るからさ」
両手で押し留める動作をして私はなんとか離席を免れる。いやまあ実際清華がどう思ったのかは知らないが、私に離席の意思が無いのを見てとると丸っ切り無視した。
おすすめのメニューを聞いてもガン無視されたからレモネードとチーズケーキを注文した。
それで、私はただ清華に見惚れていた。清華の横顔はまばゆい輝きを放つ夕陽に照らされていた。
切れ長な目、柔らかそうな唇。柔和な笑みを
寄せては返す潮騒はまるで歌。静かな夕べに歌が聞こえ、また遠くなる。
私は心奪われた。
太陽が水平線に隠れると、今度は残照を見ていた。太陽が沈んだばかりの空は未だ明るく、西の空は緋色に染まってる。視線を頂上に段々と移していけば薄く紫になる。
やがて完全に日が暮れて、ようやく視線を正面に戻した。首凝ってそう。
まだいたんだ?みたいな目を向けてくる。思わず苦笑い。ついさっきまでの柔らかな微笑みはどこへやら、清華の表情は天空遥か、峻烈な峰々のような冷厳としたものになっていた。
「あー、そんな邪険にされると悲しいんだけど……。ほら、私達同じ女子同士でクラスも同じなわけじゃん?」
「私と貴女は違う」
何から何まで、それこそ生物としての枠からして違うのだ、とでも言うような否定ぶりだった。
実際、清華には威容とでも称すべきか、確かに一般人とは違う空気を纏っていた。凛とした姿はどこか超然としていて、同時に畏れを感じさせる。
「いや同じだよ」
私達は同じ女の子に違いないよ。
私の必死の反論虚しく、清華はさっさと席を立った。私の反論を聞いてかすら怪しい。目線で追う先、清華はそのまま会計をして退店してしまった。私に
テラス席から歩く清華の背が見えた。海沿いを歩いて帰るらしい。歩く速度は早い。急かされている、というより元々そうみたい。腰近くまである長い白髪が闇夜に揺れる。
私は1人ポツンと残されて、急に寂寥感とでも言うべきものに襲われた。あるいは単に肌寒いだけかもしれない。初夏とは言え海のすぐ傍、それも日が暮れた後となれば寒くもなる。
ふと、ぴったりな歌が脳裏に浮かぶ。
「Если б знали вы, как мне дороги
Подмосковные вечера.」
私があなたをどう思ってるか、知ってくれたら。もっとも、ここは日本の海辺で、モスクワではないのだけど。
無意識ではあったけれども、この一節だけはそっと、丁寧に歌った。潮風にさらわれて、すぐに流されていった。
×××××後書き×××××
本文中の補足をば。
歌は『モスクワ郊外の夕べ』です。だからもっとも、ここはモスクワではない、と言ってたわけです。
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