異世界テキサスホールデム~スキルぶっぱなしてくるけどこれポーカーだよな?~【第2.1稿】

Cランク治療薬

プロローグ~名もなき遊び~



「チャイニーズアルティメットポーカーはいやだー!!」

「いやだー」

「こら遊都ゆうと! 鄙野ひなの! 飛び跳ねるんじゃない」

「いやだー」

「いやだー」


 平和な日常だ。よくある家族の団らん。年末の取るに足らない時間の有意義な使い方。幼かった頃の暖かかった記憶。よくあると言ったが、囲んでいるのはこたつではない。ポーカーテーブルだ。子供の頃はこの馬鹿でかい十人座れるテーブルがどの家庭にもあるものだと思ってて、それが普通ではないと気が付いたのは小学校の高学年にもさしかかった頃だった。



「だから遊都! これはチャイニーズアルティメットポーカーじゃない」


 キッチンカウンターから見えるお母さんが料理の手を止め、嬉しそうに親父に尋ねた。


「あなた。正式名称は何だったかしら」


 目線を読まれないように愛用しているサングラスを額に押し上げ、親父がドヤ顔して一息で言い切る。


「ジョーカーアルティメットパイナップルオープンフェイスチャイニーズポーカーだ」



 競馬場のトラックのような緑の表面にドリンクホルダーが9個ついている。そんな大きなテーブルの周りをぐるぐる、ぐるぐると走り回りながらクソ長いチャイポ(チャイニーズポーカー)の正式名称に幼い俺はツッコミを入れる。


「なーがーいい」

「ながいっいー」


 俺の妹の鄙野がきゃっきゃいいながら、俺に続いて走り回りながら叫ぶ。


「あーもうっ、子供にはまだ早いか、面白えんだがなあファンタジー入りしたら特に……まあまだ幼いし、仕方ねえか」


 髪を掻きながら親父が席に座る。ゆっくりと人数分シャッフルしたデッキからトランプのカードをめくっておく、キングのスペード。3のスペード。5のクラブ。ダイヤの8。ディーラーボタンを置く位置を決めるその仕草は始まりの合図だ。


「いつものやるーっ」

「やるーっ」



 名もなき遊びだ。



 手元にハンドが6枚配られる。

「待ってこれむずいー」

「むずかしー」

「ドロードローに賭ける」

「ちょっと待って洗い物片付けてから行くわ」

「ハンドはキルで」

「キルキルっ」

「キルーっ」


 親父が慣れた手つきで不正防止の為に1番上のカードを裏返しのまま、テーブルに伏せる。バーンカードってやつだ。


 場にカードが3枚開けられる。これをフロップ。最初の3枚は特別で……テキサスホールデムではこれがめくられて何もできなければ終わりだと言うプロもいる。次のカードをターン、その次をリバーという。聞いたことあるかな?

ターンとリバーは伏せられていて、三組のフロップ、ターン、リバーの場のカードが配られる。誰でもこのテーブル中央に開けられた一組5枚のカードは使って役を作っていいことからコミュニティカードという。


日本人なら正月としてはありふれた光景。ただ、伏見家では……家族麻雀ではなく、家族ポーカーをやっていた。




  $  $  $




「どうしたの? 遊都?」

「いや、少し昔を思い出していた、俺が……ポーカーを教える側になるなんてな」

「そう……あんまり難しいルールじゃなきゃいいんだけど。この世界ポーカーが出来ないと生きにくそうだし」

「巴、じゃあやろうか。テキサスホールデムに入る前の準備運動みたいなものなんだが」

「なんて言うの?」

「さあ、なんだろうな、風の便りに大昔、日本にカジノが出来る前、アミューズメントポーカーで流行った名もなき遊びらしい」


 地球で誇張もなく、競技人口1億人以上とされるテキサスホールデムは、日本でも本格的なカジノが出来る前から、日本でのプレイ人口は270万人もいた。テキサスホールデムというポーカーはそれこそ人を引きつけて止まない魔力を持っている。


 そして……その魔力は、異世界でも同じらしい。


「さあ、楽しいポーカーの時間だ」


 その光景は異質だった。


 俺がポーカーテーブルを挟んで、向かい合って座っているのは、徳川巴という二十歳になったばかりの女性だ。俺と同じく異世界に迷い込んでいた。十八歳とはまた違った線引きで、成人したばかりという象徴的な晴れ着に、ハイトーンカラーの長髪を風にたなびかせているのに、合うとも合わないとも言えない俺は歳をとってしまったらしい。恐らく今の若い子は派手な髪色に和装をしても、そんなに違和感はないのだろう。髪留めはゴブリンともみくちゃになっている時にどっかにいってしまったらしい。テーブルの横には和傘ならぬファンタジーですか? と問いかけたくなる長剣が立て掛けられている。素人が乱雑に入れたチャイナ服のようなスリットから見えるのは艶めかしい足でも草履でもなく、鈍色が光る脛当て、そのちぐはぐな格好は、嫌でも俺達が異質なものであることを再確認させられる。俺はとっとと、着ていた服を売っぱらい。現地の中世ヨーロッパのような旅装束を着ている。その巴のちぐはぐな格好はまだこの世界を夢と思えてならないような葛藤を感じた。巴と俺に交互に配ったトランプが怖いものであるかのように触れようもしないので、めくるよう促すと、渋々巴は両手で抱えるようにトランプをめくった。


「最初だからオープンにするぞ」というと巴はハンドを表に並べて見せた。


https://kakuyomu.jp/my/news/822139842312144980


《巴・ハンド》

クラブのクイーン、ダイヤの8、ハートの8、ダイヤの10、ハートの4、ダイヤの3。


「あんまくれてなかったかな?」思わず自分のハンドを見てぼやく。

《遊都・ハンド》

ダイヤの7、クラブのA、スペードの7、クラブの2、スペードの2、ダイヤの2


一枚捨て札バーンカードを置いて、コミュニティカードを3組つくる。


《コミュニティカード1組目》

ハートのK、ハートのQ、ダイヤの9、ターン?、リバー?


《コミュニティカード2組目》

クラブの6、クラブのK、スペードの9、ターン?、リバー?


《コミュニティカード3組目》

スペードの3、クラブの3、ハートの2、ターン?、リバー?


「6枚のハンドからコミュニティカードに対してそれぞれ2枚あてるんだ。一組目を見るとハートが2枚落ちてるからハートの4とハートの8を使ってフラッシュを狙いにいってもいいし、Qのペアを使っても良いな、ダイヤの8

とダイヤのTを使ってストレートかフラッシュを狙っても面白いかもしれない。これは人数がいたら面白いんだがな、まあいい……でどうする?」

「ダイヤの8とTを使ったらQがもったいない気がする……」

「そうか、じゃあQは1組目だな、ダイヤの3は3組目にするか?」

「うん、そうする」

「そうしたらスリーカード……3枚そろってトリップスというやつだな」

「あとはどうしたらいいかわからない……」

「俺ならダイヤのTを1組目にする。ストレートが狙えるし、ターンとリバーで同じマークが5枚そろうフラッシュが狙えるかもしれない。ターンとリバーでフラッシュを完成させることをランナーランナーフラッシュとも言うな、ストレートを狙えるって意味で数字が近いものを合わせるといいかもしれない」

「じゃあこうね」


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


《コミュニティカード1組目》

ハートのK、ハートのQ、ダイヤの9、ターン?、リバー?


【巴手札】

クラブのQ、ダイヤのT


@Qのワンペア


《コミュニティカード2組目》

クラブの6、クラブのK、スペードの9、ターン?、リバー?


【巴手札】

ハートの8、ダイヤの8


@8のワンペア


《コミュニティカード3組目》

スペードの3、クラブの3、ハートの2、ターン?、リバー?

【巴手札】

ダイヤの3、ハートの4


@3のトリップス


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::




「俺も決まったから、隣に並べるぞ、本当はそれぞれ手札を隠して伏せて並べて、同時にオープンするんだ」



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::



《コミュニティカード1組目》

ハートのK、ハートのQ、ダイヤの9、ターン?、リバー?


【巴手札】

クラブのQ、ダイヤのT

【遊都手札】

ダイヤの7、スペードの7


@現状優勢・巴・Qのワンペア




《コミュニティカード2組目》

クラブの6、クラブのK、スペードの9、ターン?、リバー?



【巴手札】

ハートの8、ダイヤの8

【遊都手札】

クラブのA、クラブの2


@現状優勢・巴・8のワンペア



《コミュニティカード3組目》

スペードの3、クラブの3、ハートの2、ターン?、リバー?

【巴手札】

ダイヤの3、ハートの4


@現状優勢・遊都・2が3枚のフルハウス



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


「それで現状負けている人が次のカードをめくるんだ、一組目俺はどうしたら勝てると思う? そう7を引くしかないんだ。ここで7を出ろっと願いながら

引くっ!」


《コミュニティカード1組目》

ハートのK、ハートのQ、ダイヤの9、【ハートの6】、リバー?


【巴手札】

クラブのQ、ダイヤのT

【遊都手札】

ダイヤの7、スペードの7


@現状優勢・巴・Qのワンペア


「惜しかった、それで現状まだ俺が負けているからリバーも引く。さあ7が出ろっ!」


《コミュニティカード1組目》

ハートのK、ハートのQ、ダイヤの9、【ハートの6】、【スペードのT】


【巴手札】

クラブのQ、ダイヤのT

【遊都手札】

ダイヤの7、スペードの7


@巴勝利QとTのツーペア


「え? 私勝った?」

「ああ、巴の勝ちだ。QとTのツーペアだな。よくポーカーバーではみんなツーピーって言っている。それでな、最下位がトップにチップを一つ渡すんだ、ほら」

「チップは何枚なの?」

「遊びだからな十枚ぐらいでいいんじゃないか、最下位が二人いるとそれぞれ渡すようにすると盛り上がるぞ、次は二組目だ。これも巴が8ペアで俺がAハイが現状だから俺が引くぞ、現状勝率四〇%くらいか」



《コミュニティカード2組目》

クラブの6、クラブのK、スペードの9、【スペードの4】、リバー?



【巴手札】

ハートの8、ダイヤの8

【遊都手札】

クラブのA、クラブの2


@現状優勢・巴・8のワンペア


「……もう一回引くぞ、おっ、引けた引けた」



《コミュニティカード2組目》

クラブの6、クラブのK、スペードの9、【スペードの4】、【クラブの4】



【巴手札】

ハートの8、ダイヤの8

【遊都手札】

クラブのA、クラブの2


@遊都勝利Aハイフラッシュ


「一勝一敗か、さっきのチップは返してもらうぞ、次3組目、俺はフルハウスが確定している……でも、まくり目はまだある。何か分かるか?

「2が三枚のフルハウスより3が三枚のフルハウスの方が強いのよね? たしか」

 俺が静かに頷くと「出てっ、3か4っ」と願い始めた巴を微笑ましく思いながら、「2でもいいぞ」と囁く。

「そうか2ならっ」と言った巴が、「それ、めっちゃ遊都強いやつじゃない」と言って、「そうだ4枚揃うのをクアッズというんだ」と笑みを零しながら答えた。

 こんな穏やかなポーカーをずっと出来たらいいのに……。全財産を賭けた勝負の前に巴にルールを教えている俺は、魔法陣が描かれている空に厚い暗雲がかかるのを見て、何か策はないか……と思考を巡らした。異世界で得た全財産を使って、借金をしてまでして、負けたら奴隷ということに影響されないようメンタルをコントロールしながら……俺は……勝ちに行く。


そういえば……とふと思う。


 事の始まりも全財産賭けたポーカーだったな、と韓国カジノでの出来事を思い出した。



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