私は外に出られないんだ。

山下 不帰

私は外に出られないんだ。

私はテレビを見ていた

芸人たちが集まって、色々な話題に関して喋る番組だ


突然、テレビと部屋の明かりが消えた

私は眼の前が真っ暗になって賑やかなテレビの音が消えた

ああ…死んだんだ……。

しかし体が動くことに気がついた

生きているらしい。

死んでいれば良かったのに。


なんだかとてつもない不安が体中を駆け巡った

あんなに楽しかったのに私は独りだ。

独りだったと気付いた。

ずっと独りだった。

ずっと。

ずっとだ。

テレビの笑い声のおかげでそれを忘れていたのに。


テレビの電源ボタンを何回も押すが、テレビつかない

小走りでブレーカーに向かう

ブレーカーは落ちていない。

嫌な気分だ、とても嫌な気分だ。

停電か、ああ、普通というものが嫌いだ。


スマホを探す。

ない。

この前にむしゃくしゃして川に投げたんだった。

ああ、なんであんなことを。

もう嫌だ。

ベッドに倒れ込む


まだ午後8時だ。

ぜんぜん、寝る時間じゃない。

ああ。

もう。

静かだ。

外が嵐なら良かったのに。

不安だ。

…。

…。

なんでこんな人生なんだ。

ああッ。


なにか、楽しいことを考えよう。

きっと気を紛らわせないと狂ってしまうから。

本当にそうか?

本当にそうなんだろうか?

本当には、狂わないけど。

狂ってしまった方が幾分か幸福なんだろうけど。

ああッ。

ああ……。


停電だから、そうきっと…きっと夜空はきれいだろう。

きっとそう。

多分、月が見えて、よく見えるだろう。

なあ。


なら外に出れば良いのに。

外に出るか。


どういうわけか体が動かない


体が動かない。

星を見るために外に出るべきだ。

頭ではそんなことわかっている。

よし、外に出よう。


体はベッドにあるままで、少しも動かない


論理ではわかっていても、感情はそうは思ってない。

想像の中の外はいいところだけど、外に出たくない。

外は嫌だ。

もしや外に出たら失敗するかも知れない。

なにを失敗するのかわからないけど。

それに停電したから外へ出る時のマナーがわからない。

初めてだし。

お隣さんに笑われるかも知れない。

笑われないだろう、笑われる訳ない、もちろんそんなことわかってる。

三流の言い訳しかできない。

ああ、私はカスなんだよ。

臆病者なんだ。

もはや精神病かも知れない。

意味のわからないことを思っていることは理解しているんだ。

私が精神病だったら。


……。

しかし何も変わらないだろう。

きっと精神病は私の免罪符にはならないだろう。

きっと、無意味だ。

無意味で無いといけない。

精神病の患者だから仕方がないとか言う、他者からの慰めで、憐れみで、救われたくない。

論理が、プライドが、私をいっそう苦しめる。

馬鹿で臆病であることを認められない。

ああッ。


結局、外に出れば良いんだ。

そうすれば全ての問題は解決するんだ。

誰かに笑われるなんていうのは、妄想だ。

SNSの冷笑だかが、それを加速させたんだ。

しかし、愚かなことに、孤独から逃げるために、そんなSNSとか言うつまらないドラッグに逃げたんだ。

スマホは捨てれば変わると思ったのに、テレビとか言うドラッグにまた逃げた。

ああッ、臆病者だッ。


外に出ないと。


ベッドにあるその体は動かない


私は外に出られないんだ。

ああッ。

だがなんで外に出るんだ?

別に外に出たって曇ってるだろうな。

星なんて見えないよ。

それに外に出たくもないし。



また逃げている。

まただ。

ああッ。


楽しいことを考えよう。

きっとみんな困っているだろうな突然の停電できっと困っているだろう。

停電によって、退屈しのぎによって、現代社会の家族間のディスコミュニケーションのいくつかが解決するかもしれない。

逃げるな、逃げるな、逃げるな、逃げるな。


外に出ないと。

臆病者であることを否定するために。

考えろ。


私が苦しむのは、世界が壮大であると思っているからだ。

きっと外に出たって誰もいないし、何も変わりはしない。

世界がつまらないというのは、十分に知っているはずだ。

だから外に出よう。


当然、体は少しも動かない。


アプローチが違うんだきっと。

きっと。

こう、私の体が動かないのは感情によるものが原因なんだ。

逆説的だが考えない方が良いんだ。

人が常に思考していたら、きっとドラッグなんてものに手を出さないだろう。

習慣化され、思考の外に出されているんだ。

それで、ドラッグの恐怖を克服できるんだ。

それで、任意の不合理を受け入れているんだ。

考えるな、考えるな。


体は動かない


立ち上がれ、立ち上がれ、立ち上がれ……。


体は動かない


足でもって、足でもって、足でもって……。


足が少し動いた、そしてベッドを少し掻いた、しかし立ち上がれはしなかった


ようやっとだ。

もう少し細かく、意思というもの省いてプログラミングするんだ。

立って歩く。

両の足で、地面を蹴る、頭を持ち上げる、手でベッドを押して、体を起こして、それで足を動かす、扉に向かって。


体は動かない



足、手、足、足、押す、手、押す、足、手、押す、押す……。


体が立ち上がった


足、足、足、足、足、足……。

扉に向かって歩く


前に、前に、前進しないと。

扉に近づく


ああッ。

扉を開ける


空を見る


夜空には、数多の星が煌めいている

それだけだ

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私は外に出られないんだ。 山下 不帰 @fuki0yamashita

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