ことほぎ
古杜あこ
本編
全然眠れなかったような気もするし、少しだけうとうとしたような気がするし。
重い体に鞭うつように、浴室の洗面台へと向かう。
洗面台両手を付き、鏡に写る自分の姿を確認すれば、憔悴しきった顔の中にある虚ろな目がぼんやりとこちらを見ていた。
まるで死神に憑りつかれた人のようだ。
弱いのに飲んだ酒による二日酔いのせいもある。だがそれだけではない。
誰もが祝福している中、わたしひとり不幸を願ったからかもしれない。
そんなことを思い浮かべて小さく笑う。
だからと言って後悔なんかしない。
日曜日だ。家にいても気が詰まるばかりだったので、外出することにした。
ひどい顔は化粧である程度隠れる。その辺りを歩いている一般人程度のレベルまでには到達しているはずだ。
歩きやすいようにスニーカーに足を通し、玄関を出る。
昨日、ハイヒールを履いて歩いたせいでまだ足が痛む。
苦行でしかないのに、どうして行ってしまったんだろう。
昨日は、結婚式だった。
わたしの恋人――だったはずの男と、わたしの友人の結婚式。
わたしに招待状を送ってきたのは、多分嫌がらせのつもりだったのだろう。
そっちがそのつもりならば、こちらだって嫌がらせだ、と参加したのは完全に間違いだと気づいた時にはもう遅かった。
奴らは、わたしの顔を見ても全く動揺することなく、あふれ出る幸せオーラを笑顔で周囲に振りまいていた。
その時点で負けていた。
誰かの幸せは、誰かの不幸によってつくられる。
奴らの幸せは、わたしを踏みつぶすことによって存在している。
随分日は高く昇っているけれど、まだ朝と言っても差支えのない時間。
わたしがどんなひどい顔をしていても、どんなに不幸でも、日の光は眩しいし道行く人は普通に歩いている。
わたしを置いたまま、とめどなく時間は流れていく。
世界にわたしの心情など考慮しない。まるでわたしなど存在していないように。
奴らに祝福じゃなく恨みを向けていても、あの場にいた大多数の祝福の声に押しつぶされ、奴らに届くことは永遠にないのだろう。
あの場にわたしがいた痕跡なんてなかったかのように、奴らの幸せな生活はこれから続いていく。
わたしにあったはずの未来を塗りつぶした奴らなのに。
お祝いは強い。しめすへんを口に変えて呪いにしてしまいたい。
心の中は真っ暗なわたしを照らすのはいつもと同じ太陽だ。
幸せだと思っていたわたしを照らしていたのと同じ。
世界はキラキラしていたと思っていた。でも今は眩しすぎてムカつく。
同じなのに、心が違うだけなのに違う風景に見える。
いつもの通勤路を辿っているだけだから見知った景色のはずなのに。
ああ、気持ち悪い。
この状態から脱したいのに、世界中のだれよりも、祝福を憎んでいるわたしには、きっと幸福はやってこない。
ことほぎ 古杜あこ @ago_t
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