第9話 あの人は、誰?
リルは、なんとなく毎日気持ちが落ち着かなかった。そわそわして、気が付くと、あの日、目が合った男の人のことをあれこれ想像しながら、空想に耽っていた。
(ロイが言うように、本当にあの時の二人と同一人物なのかしら……?もし、そうだとしたら……でも、なんとなく、あの淋しそうな瞳の色が気になるのよね。妹さん、かな?お兄さんといつも一緒にいるのかな。とてもいいお家でいいご兄妹のように見えたけれど……)
いろいろと考えた末気が付くと、リルはロイがいるテントから出て、どこかへ足を運ぼうとしていた。
「リル。こんな暑い日の昼間に一体どこへ行こうとしているの?」
「うん。ちょっと、川で水浴びでもしてこようかと思って」
「……一人で?」
「そう。汗をかいてどうしようもないもの」
「お前も、もう年頃だから、一人でそういうことをするな。俺も一緒に行く」
「嫌。すけべよ、お兄ちゃん」
「なんだと?」
「年頃の女の子の気持ちは複雑なの。一人にしてちょうだい」
「お前には『教訓』と言う言葉が頭にないのか?……もういい、行ってこい。一人でどこにでも」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「でも……」
「なあに?」
「そう、嘘をついてあの男の様子でも見に行こうとするなら、お兄ちゃん、許さないからな」
リルは、ロイの圧力のある視線に一瞬動きが止まった。
「な、なに疑っているの?本当に水浴びをしたいだけよ。一体どうして、まだ遠くから一目しか見ていない人の所へわたしが行こうとするの?」
「近くの川で水浴び位なら、すぐ帰ってこられるな」
「うーん。ちょっと時間がかかるかもしれないわ。日が沈む前にはここに帰ります」
「どうしてそんなに時間がかかる」
「もう、いい年頃の女の子だもの。一人の時間も欲しいわ。いつもお兄ちゃんとばかり顔を突き合わせているんだもの」
「なんだと?」
「それじゃ、行ってきます」
リルはそう言って、その場から逃げるようにして走り出した。
自分で編んだ草履から飛び出た草が、足の裏にちくちく刺さって痛かった。
草履を脱いで、素足で土を踏んだ。途中後ろを振り返ったが、ロイが追ってくるような様子は見えなかった。
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