第8話 疑惑

「ロイ、昨日のあの人たちはなんなの?」


 翌朝リルは、テントの中で、朝食に昨日の夕方ロイが町で買ってきたパンを口にしながら、昨日の事を問い詰めた。


「お前、覚えていないのか?」

「……なんのこと?」

「あの男が!俺たちの父と母を殺したんだぞ!」

「……」

「なんだ、お前、固まって。動揺しないのか」

「……そうとは限らないんじゃない?」

「なんだと?」

「なんとなくだけれど……振り返った時に見えたあの男の人ではない気がするの」

「……」

「……」

「お前は、一体どうしてそんなことがわかるんだ?俺たちは!確かにあの顔をこの目で見たんだぞ」

「ええ。でも、殺しているところを本当にその目で見たの?」

「それは……。でも、あの現場で、顔に血をつけて立ち去って行ったんだぞ。誰が忘れるものか。あいつに間違いない!」


 リルは、首を振る。


「お兄ちゃん。人の命を奪うということはとても大きなことなの。でもそれが誰の手によって行われたかは、案外と的が外れるものよ。もっと慎重にならないと」


「……リル。お前、本当に父さんと母さんの子か?お前だけ、その血が通っていないんじゃないか?お前みたいなのを『冷徹人間』というんだぞ?知っているか?」


 リルは、大きくため息をつく。


「はあ。お兄ちゃん。だから、さっき言ったでしょう。身内に手を掛けられるということは大きなことで、感情が大きく揺さぶられることだから、見る目を誤って大きな過ちを犯すって。お父さんがよく言っていたじゃない。お兄ちゃんを安易に罪人にしないために、妹のわたしが代わりに冷静になって聞いているんじゃない」

「……。いや。お前、やっぱりおかしいぞ。大丈夫か?寂しさで心を失くしているんじゃないか?それとも……」

「何?」

「あの男に一目ぼれでもしたのか」


 バチンと、ロイの頬を打つ大きな音がテントの中に響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る