白い花(番外編)
蒼衣
第1話 この世界で生き抜いていくために
十二歳のリルは、銛を左手に持ち森の奥の川の水に足を膝まで浸していた。
今日はとても天気がよく、空を見上げると、まるで誇らしいかのように青々と広がっている。
リルは、四角い、袋型の茶色の薄汚れた大きい布に、首の所と両手の部分だけ穴を空けてかぶっている。裾が川の水で濡れ、足に張り付く。
この服は、双子の兄のロイが、どこかの店先に捨ててあったものを拾ってきて、今のようにしてリルに着せたものだった。腰の所にだけ、桃色のひもを花形になるようにして結んでくれている。
このひもは、母の形見なのだ。リルは、その桃色のひもに左手の指先でそっと触れた。
「おーい、リル!魚は捕れたか?」
母の形見のひもを整えていたら、後ろの林から兄のロイの声がした。
振り返ると、うさぎを片手にこちらに向かって手を振っている。
「ううん、ごめん、ロイ。まだ一匹も釣れてないの」
リルの言葉にロイが笑う。
「いいよ、リル。今晩は、このウサギで夕飯にしよう」
リルは笑って、水しぶきを飛ばしながら、ロイのいる川岸に駆け上がった。
「お前、少しは水が飛ばないように気をつけろよ」
そう迷惑がるロイの背中に飛び乗って、リルは右手のこぶしを振り上げた。
「お兄ちゃん、このまま走って!」
ロイは、うなだれている。
「無理。お前最近成長して重たくなったし。……ああ、背中がびしょびしょだ」
その声を聞いて、リルはロイの背中から下りて、ロイの左手をつかんで林の中に向かって走り出した。
「こんなところで走ると転ぶぞ!気をつけろ」
リルは、ロイの反応がおかしくて笑った。
二人で帰った先は、森の中の茶色の大きなテントだった。
テントは、風などで倒れないようにロイが何度も慎重に張りなおしてくれている。
そこは、その森の中でも少しだけ拓けていて、空からまぶしい太陽の光が差し込んでくる場所だった。ロイと兄妹二人、ここで寝食を共にしている。
リルが火を熾していると、日が少し傾いてきた。
「リル、うまいか?」
「うん。久しぶりにお肉を食べたわ」
「力をつけたら、明日は朝から町に出て芸をするぞ。リル、歌える?」
「うん。大丈夫。曲芸もいけるわ。」
「うん。今日は早く寝て疲れをとろう」
焚火挟んで向かいに座っているロイは、その顔の半分を橙色にしながら満足そうにうなずいた。そして、笑顔の後に一瞬、暗い目の色を見せた。そのロイの表情を見て、リルもうつむいた。
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