【ネコを拾ったら魔族になったったオハナシ】〜ジョリの冒険〜

とんじる

第1話

その後のノトク村


 この2年でノトク村はすっかり様変わりした。兄のジョンが村長を継ぎ、畑や養鶏が軌道に乗ったおかげで村は飢えることがなくなった。行商と僅かな畑と狩猟で成り立っていた村だったが、荒れていた畑を村で買い取り、村営の畑となった。全ては我が主人・カッツの影響だ。魔王の影響下にある村に悪心を抱く者は現れず村内には静かな時間が流れている。


「先生、おひるごはんだよ」


 呼びにきたのは10歳の女の子だ。昨年できたこの学校と主人が名付けた施設で体術と棒術の稽古をつけている。狩りと弓の稽古は兄がつけていて、たまに帰ってくる大人たちは臨時講師として行商の旅の間に見たこと聞いたことを話したりする。村は学校を中心に運営されていると言っても良い。朝は学校に集まり何班かに分かれて畑や鶏小屋を担当する。畑も鶏小屋も村民みんなで管理している。


 主人はこの仕組みを作る時に、


「まさか共産主義の真似事をすることになるとは……」


 と独り言を言っていたが、私にはよく分からない。

 

 私と言えば、言葉遣いを直された。コボルトでも魔王の血を引き継いでいるには違いがなく、一人称が、アッシはおかしいからとやんわりルナヴェル様に言われた。ミレディア様からアッシと言う度に痛く無いおもちゃのハンマーで、ピコン!と叩かれるゲームをしていた。。痛く無いはずなのに魔力を込められているから多少、痛い。アッシは主人と旅するとき以外は封印だ。


 ◇


 食堂には村人のほとんどが集合していた。コボルトの中に1人だけ人族がいる。我が主人が推薦して農業の指導員のような立場で畑の作物全般の指導をしている。名前をルイスと言う。はじめは主人の紹介だからお客のような扱いだったが、学校ができてから午前中は農業指導、午後は子供達に混じって棒術の訓練に参加している。


 ルイスは人族にしても戦闘能力は高いとは言えず、子供のコボルトにも負ける。でも、へこたれもせず、卑屈にもならず時間を見つけては午後の訓練に加わっている。そういう所から村の長老はじめ子供たちにも人気があった。


 ルイスが強くなりたい訳は、村人なら皆知っている。彼は村の近くの丘陵地帯を切り開き葡萄酒を作りたいのだ。そのために、村の農業を振興し、食べるのに困らないようにして、葡萄園で働いて貰いたいというのがルイスの夢である。ルイスは口下手で、あまり多くは語らないが、訓練に参加するのも将来葡萄園を守るためなのだ。


「ジョリさん、ここ、空いてますよ」


 珍しく大きな声で呼ばれたのでルイスのそばに座る。配膳係の男の子がトレイに乗せた昼食を運んでくる。黒っぽいパンと蒸したジャガイモ、目玉焼きが2つだ。ジャガイモにはボア肉の燻製が僅かに付け合わせてある。ジョリは目玉焼きの黄身を割り、白身に黄身を纏わせて食べる。最後に皿についた黄身をパンで擦り取るようにしてきれいにいただくのだ。


 ◇


 この村のコボルトは卵に特別な思い入れがある。主人がこの村で初めて養鶏をはじめたからだ。私も行商で訪れた街で何度も食べたことがあったが、自分たちで鶏を育てるという発想すら浮かばなかった。慢性化した栄養不足の村人を救うには栄養価が高く、比較的速く成長する鶏がぴったりと主人は言っていた。主人が作って振舞ってくれた卵雑炊の味を村人は今も忘れていない。


 そんな卵も1年前までは卵は配給制で決められた量しか行き渡らなかったが、鶏の数が増えて、今では、毎日2つ食べれるようになった。1人に2つである。栄養失調気味の子供たちも喜んだが、その親が主人を神のように崇めはじめた。主人は、目立つのが苦手な魔族で、自らを拝むの禁止させた。

 

「ルイスは、午後の訓練に参加するのかい」


「えぇ、もちろん。ボアを追い払えるようになるまで強くならないと……」


「何でボアを」


「この辺りで1番強い魔物だからです。」


 ルイスの目標はしっかりしている。誰かを打ち負かしたいのではなく、葡萄園を守れるだけの強さがあれば良いのだ。


「そうすると、対魔物に特化した戦術が必要かなぁ」


「んんっ」


 パンを食べかけていたルイスが慌て過ぎてむせてる。


「ジョリさん、そんなの、あるんですか」


「そりゃ、こっちの方が頭を使うとかあるだろうよ」


「教えて、教えてくだざいよぉ」


「分かったから……食うか話すかどっちかにしてくれ」


 ◇


 昼食後、訓練所にルイスはひとりやってきた。別メニューをやるぞと伝え、その他の子供たちには型稽古をさせる。


「ルイス、お前は別メニューだ。」


 簡単な突きを出してみるとルイスは器用に受け止めた。


「これは、どうだ」


 踏ん張りと回転を棒に加えた。この突きも受けたが押し込まれ尻餅をついた。


「ルイス、ボアの突進と今の突き、どっちか強いと思う」


「……ボアの突進」


「そうだよな。更にボアの牙は2本、真っ直ぐな突きじゃない、棒で正面から受けるなんて正気じゃないよ」


「じゃぁ、どうしたらいいんでしょうか」


「……どうするか考えてみて」


「……受けないで、躱す」


「そうだね。それが最も怪我しない」


「ルイス、今まで教えてきたのは型だよ。でも、型にハマっちゃダメなんだ。型ができるようになったら、そこから自由にならないといけない。」


「型が想定している敵は、人族だ。同じ棒を持った。魔物を相手にするなら相手に合わせて、こちらも変わらないといけない」


「跳んじゃうとか……ですか」


「それもいい。ボアをいきなり倒すんじゃなくて、フォーンで試してみるのもいい。いっそ、自分の力でじゃなく、堀や穴で対策するのもありじゃないかな」


 ルイスは考え込んでいる。真面目なだけに考え方が真っ直ぐすぎるのだ。


 ◇


 次の非番の日、ジョリとルイスは村を出て丘陵を目指した。遠くにフォーンの群れが見えた。ジョリが弓矢を持って攻撃すると一頭が怒ってこちらへ走り出した。


「ルイス、やってみろ」


「はい」


 ルイスは構えているが脚元が固い。フォローが近づいてくる、


「ルイスッ、脚元は柔らかく、雲のように軽くだっ」


 とたんに膝が落ちたように力が抜けた。フォーンがルイスに突進したのとすれ違うようにしてルイスは自ら左前方に跳んだ。瞬間ルイスは長巻のような武器でフォーンの右前脚を斬った。フォーンは前脚を片方失いバランスが取れずに地面に激突した。


「とりあえず、第一段階は突破だな」


 放心状態のルイスは大きく肩で息をしている。ジョリは手慣れた手付きでフォーンにトドメを刺した。


「ルイス、手伝え。結構な大物だよ」


 我に返ったルイスが慌ててこちらへ走ってきて、1度大きく転んだ。


 ◇


 ノトク村では大物が捕まったと宴が催された。ルイスが仕留めたことを説明すると村人たちは驚きつつも、ルイスの葡萄園が実現に近づいたと話した。焚火に照らされたルイスの顔はどこか誇らしげだった。


 (やっと次の段階に進めるな……)ジョリは揺らめく炎を見ながら酒をぐいっと煽った。

 

 

 


 

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【ネコを拾ったら魔族になったったオハナシ】〜ジョリの冒険〜 とんじる @tonjirua1

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