銃士の合成者

アリス

第1話

暗い暗い檻の中、聞こえるのはいつもの嫌な靴が地面に擦れ、歩く足音と、扉の開閉音。そして稀に聞こえる風の音。その風の音だけが、唯一の救いだった。

傷だらけの少女は未来を望み、神の祝福スキルを呪った。


毎日のように魔物の体を移植される。

絶叫が響き、拒絶反応で体が暴れても、その度に押さえつけられる。

そしてスキルは魔物の一部を受け入れて再生し、自らの一部となる。

日常化してきたさらに泣いても無駄だと涙は枯れた。しかし、せめてもの抵抗として、睨むようになった。


ある日、いつもの白衣の人間が大喜びで私に近づいてきた。


「喜べ!今日はガルダの翼だ。知っているか?ガルダは炎の怪鳥でな。それでいてガルダ自身は冷気を溜め込むという相反する性質を持つのだ。その討伐難易度はミスリルだ!」


大喜びでそう告げながら、刃物で体を切り付ける。麻酔無しの手術であり、当然泣き叫びながら暴れるが、無力と言わんばかりに押さえつけられる。

抉り取られた右肩に燃え盛るような真紅の片翼を植え付けられ、肉体は、スキルはそれを自身の一部として昇華する。体そのものを作り変えられる激痛。

何度されても慣れることのない痛み。


毎日、毎日、毎日、毎日…拷問紛いのソレに耐える。


そして今日も、また移植されると、そう思っていた。


ドンッ!という大きな音と共に天井が砕け、光が見える。


「おっ!当たりだな。お前らー!見つけたぞー!」


天井を砕いたと思わしき人物はそう口にして、こちらを見下ろしてくる。

数年近く見えなかったその希望に私は大粒の雫を流した。


「大丈夫か?」


いつのまにか降りてきていた男性が、そう告げてきた。物語のようなイケメンではなく、いわゆるおっさんだが、その人物は私にとって、まさに物語の王子様のようだった。



◆◇◆◇


「あなたのおかげで、私は今日まで生きて来れた。ありがとう。…でも、寂しいよ。————それじゃあ行ってきます。師匠」


少し盛り上がった土の上に木の棒を刺した簡素な墓の前で、その少女は涙を流しながら手を合わせる。

少女の姿は異常だった。月白のような淡い青色のかかった白銀の髪に、右はルビーを思い起こすような赤、左はサファイアを思い起こすような青色の瞳をしている。

腰の左右には2丁の拳銃が携えられている。

平均より少し高い身長にしなやかで無駄のない完璧と言っていいほどのスタイル。

青いトップスに黒いショートパンツを履いており、両手には前腕まで伸びる黒の手袋をしている。青いトップスは胸部までしか隠しておらず、お腹も見え、ショートパンツは太ももの半分近くしかなく、そこからはレッグホルスターに、いくつかの薬品が収められている。その服装に、寒くないのかと疑問に思うほどだ。

いわゆる絶世の美少女だが、その美貌ですら隠しきれない異常が右肩に見える。

その異常とは、右肩に翼があることだ。

右肩に存在するその片翼は燃え盛る炎のような真紅の翼である。


「スキル『合成獣キメラ』対象———幻想鯨」


幻想鯨、空を漂う巨大生物であり、『幻影転送』という能力がある。

今回使用するのもまた、『幻影転送』である。


「————発動」


魔力が淡い水色に変化し、自身の体の輪郭になっていく。そして、その変化した魔力は周囲にも出現し、その直後——変化した魔力は全て消えた。何事もなかったかのように。ただ、その中心にいた少女を消して。


途端にその場所にその少女が現れる。

酒場のように見えるが、ここは冒険者組合だ。

『幻影転送』———その能力は、転移である。しかし、転移という破格の能力にも——いや、だからこそ制約がある。


「ライラ様ですね。確か今日は冒険者試験の日ですね。」


そう告げてくる。受付嬢は私の過去について知っている。というよりも古参の冒険者やその弟子は私の過去についてある程度知っているし、私の師匠と仲が良かった。


「ええ。ちゃんと適正年齢だからね。」

「はい。頑張ってくださいね。」


適正年齢。冒険者というのは誰もがなれるという訳ではない。このミートナス国の成人は12歳だが、冒険者は各国に配属されており、配属されている国の平均である15歳までは見習いとして仮の冒険者になる。そして15歳を超えると冒険者となり、死なない為に試験が実施される。


「それにしても…成長に合わせてその羽も大きくなるんですね。ひんやりしてて夏は気持ちいいんですが」

「あ、カーラ。そうなんだよね。やっぱりスキルの影響かな…」

「どうでしょう…」


カーナとは友人であり、毎年夏になるとこの羽で涼しむ為に芝生の上で寝転がる間柄だ。この羽にも冷気を溜め込む性質が宿っているのだと思う。


「あ、そろそろ時間だ!」

「頑張りなさいよ」

「はい。行ってきます」


そうやって急いで集合場所に走る。試験の内容はダンジョン攻略の為、ダンジョン前が集合なのだ。


「あの子…昔のクールさはどこに行ったのかな」

「私は今のあの子の方が好きですよ?」

「昔はすごく無口で相手を睨むような目だったのよ?」

「そこまで酷い時期は知らなかったです」

「あら?そうだっけ?」


ミーナと先ほどライラと会話していた受付嬢がライラのことを温かい目で見つめながら会話する。

その手には一冊の資料があった。


「はい。言われた通りガルフさんがまとめてた報告書です。それと、ライラを頼むという遺言ですね。」

「はぁ…あのバカ。そんなことしなくても引き受けるに決まっているのに…」


ミーナはそう呟きながら資料を受け取る。

『邪教による人体実験被験者No.1』

そう書かれている報告書にはライラの血液、誕生日、性格と言った一見関係さなそうなものから

故郷、記憶、スキル、得意武器、役割クラスという重要なものまで書かれていた。


「特に役割クラスなんて重要なものを教えられるほど仲良くなったのね…」


ミーナはその報告書を読みながら涙を流し、報告書を握る力が強まる。


「あんたは立派な父親をしてたわよ。ガルフ。」


誰にいうでもなく、星となった親友にミーナはそう語りかけた。



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銃士の合成者 アリス @Kento0916

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