第3話

 ──俺がタイムリープしてから数週間が経過する。俺はその間、鈴原さんをずっと見てきた。今もこうして、隣の席で読書している鈴原さんに目を向けている。


「今日はミステリー小説を読んでるの? 昨日はファンタジーだったよね?」


 俺が話しかけると、相変わらず鈴原さんは眉間にシワを寄せる。でも最近、その顔も可愛いなと思うようになってきた。俺は変態なのかもしれない。


「気安く話しかけないでくれる? それに何? 私を監視してるの?」

「監視だなんてとんでもない。興味があるだけだよ」

「……あ、そう」


 鈴原さんはそう答えて、プイっと顔を背ける。態度が冷たいようだけど、本当に冷たい人は相手にもしてくれない。俺はそれを社会人になって経験している。だから鈴原さんは優しい方だ。


「さて……」


 タイムループは起こるかな? ──よし、起こらない。ここ数週間でやってきたことは他にもある。鈴原さんに何か話しかけて、タイムループが起こるか試していたのだ。その結果、鈴原さんにとって不愉快? な言動があると、タイムループになる条件が成り立って《フラグが立って》、数秒後にタイムループが発生する仕組みだと分かった?


「……まだこっちを見てるの? 気になるから、もうやめて」

「あ、ごめん。分かったよ」


 1つ気になってる事がある。フラグが立った後に数秒の余裕があるのは何故なのか? もしかしたら、その数秒間に行動を起こせば、タイムループは無くなるのでは? そう疑問はあるものの、証明する方法が分からなくて、まだ解決は出来ていない。まぁ……そもそもリセットされるんだから、そんなこと考えなくても良いか……。


 ※※※


 数日後の朝。俺はいつもの時間でのんびり一人で通学をしていた。


「……何のんびり歩いているの? 邪魔」


 後ろから鈴原さんの声が聞こえ、俺は後ろを振り向く。そして「鈴原さん、おはよう。あれ? 鈴原さんっていつもこの時間だっけ?」


「違うわよ」

「今日はどうしたの?」

「……寝坊」

「珍しいね」

「……」


 俺は鈴原さんが黙り込んだので、先に行きたいのかと思い、道を譲る──でも、困ったような表情? を浮かべながら珍しく先に行くことは無かった。


「あ!」

「なに?」

「珍しくなかった。昨日も一緒の時間だったよね?」

「……昨日も寝坊!」

「そっかぁ……残念だ。俺はてっきり鈴原さんが俺の通学時間に合わせてくれたのかと思ったよ」


 ここ最近、鈴原さんと会話する機会が増えてきて、弄る余裕も出て来た。もちろん、鈴原さんがそんなつもりがないと思うからこそ、言えるセリフではあるが……


「た、たまたま一緒だったからって、調子に乗らないでよ!」


 鈴原さんは、そう声を荒げるとスタスタといつもの様に俺を置き去りにして行ってしまった。


「えっと……」


 もしかして動揺してた? いやいや、まさかなぁ……俺はそう思いつつも、タイムループが無かったから、ウキウキと心臓を高鳴らしていた。


 ※※※


 ──それから更に数週間が経過する。鈴原さんとは、たまに一緒に登校するぐらい仲が良くなってきていた。鈴原さん曰く、たまたまらしいが……。授業が終わり、机に教科書をしまっていると、山本君とその友達が、俺の周りに集まって来る。


「貴幸君、今度の日曜日、一緒に勉強しようぜ」

「うん、良いよ」

「テスト終わったら、カラオケしようぜ」

「いいね」

「じゃあ、女子も誘っちゃう!?」

「女子って誰?」


「適当に声を掛けてみるよ。楽しみにしてくれ、じゃあ!」と山本君は言って、慌ただしく自分の席の方へと帰っていく。


 ふと視線を感じた俺は、隣に視線を向ける。すると鈴原さんが不機嫌そうに頬杖をついて、こちらを見ていた。


「ごめん、騒がしかったね」

「別に……それより佐藤君、最近、楽しそうだね」

「!」

「……なに? 鳩が豆鉄砲を食ったよう顔して」

「あ……いや、名前で呼ばれたのが初めてだったから……」

「そう? 別に名前で呼んだっていいじゃない」

「あ、うん。そうだね」

「それより、テスト終わった後に女子とカラオケ行くんだって? 良かったじゃない」

「あぁ、そうなんだよ。鈴原さんも一緒にどう?」


 俺がそう言うと、鈴原さんはプイっと顔を背ける。そして「行かない」と、あっさり断って来た。


 これは失敗だったか? ……と、様子を見ていると案の定、景色が途切れる。山本君との会話から戻ってしまった。俺は途中まで同じ回答をして話を進める。


「それより、テスト終わった後に女子とカラオケ行くんだって? 良かったじゃない」


 フラグが立って数秒後にタイムループするから、会話の直前がダメだったかどうかは分からない。だけど、きっとこの後の会話がマズかったんだ。


「友達とカラオケに行くのは良いけど、別に女子は山本君や他の男友達目当てだよ? 俺には関係ないと思うけど」


 ドヤッ! と、様子を見ていると、鈴原さんはさっきと同じ様にプイっと顔を背ける。そして「あ、そう」と言っただけだった。


 でも……よっしゃ! タイムループは来ない! 何回もタイムループを繰り返してきたから、何となく鈴原さんの性格も含めて掴めてきたぞ。タイムリープとタイムループのおかげで、勉強もコミュニケーションも本当の高校時代に比べて出来るようになったし、最高だな。


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