【全作品のネタバレを含みます】大晦日ショートストーリー【輸送艦オリオン主人公】

黴男

000-星たちよ、新たな年を共に祝おう

赤く、そして仄暗い宇宙を、一隻の宇宙船が飛んでいた。

その船の名はオリオン。

輸送艦である。

赤く塗装された艦体には、しっかりと「O R I O N」の印字がされていた。

そのブリッジで、退屈そうに腕を組む女がいた。

豊かな胸をコンソールに押し付け、その上に腕を載せる格好である。


「どうしてこんなに怪しい依頼を受けたんだろう」

『怪しいでしょうか?』

「そもそも、何で受けたか思い出せないんだよ」


彼女たちは、バカンスに向かう途中であった。

輸送艦に積まれたジャンプドライブを用い、ジャンプした直後に舞い込んできた輸送依頼。

まるで導かれるように、指定座標に置かれていた荷物を回収したオリオンは、さらに指定された座標へと向かう。

そこにあった、古い放棄されたゲート。

コードを入力するとそれは起動し、どこかへとオリオンを飛ばした。

その後の指示は、とある宇宙ステーションへとワープし、その荷物を届けろとの事だった。


「ワープ終了まで残り二分ですよ、リリー様」

「ありがとう、ペルソナ」


ペルソナと呼ばれたアンドロイドが、座席ごとブリッジに上がってきた。

オリオンの一部となる集中モードを解除したのだ。

この未知の星系を分析するために力を尽くしたものの、何も得られなかったという訳だ。

ワープトンネルを抜けたオリオンは、徐々に速度を落としていく。


「わ、大きい船」

「どこの艦船でしょうか…」


そして、ステーションが見えてくる。

横に長いステーションには、幾つもの大型艦が係留されている。

中でも目を引くのは、超大型艦である〈AVALON-3〉。

とある任務を帯び、第四エスカリアから宇宙へと出て飛んできたのである。

オリオンは、ステーションへ入港申請を出す。


『ようこそ、バロスニア第八ステーションへ』

「バロスニア?」

「知らない国名です」

「星系名の可能性は?」

「データベースにもないですから」


ペルソナは、高性能なお手伝いアンドロイドである。

そのため、知識の中から情報を索引する能力も高い。

そんなペルソナが見つけられなかったということは、それは存在しないはずの名前ということだ。

入港申請が通ったことで、オリオンはステーション内部へと入っていく。

格納庫内部は明るい。

建材そのものが発光しているのだ。

そして、その光に照らされ、入港している数多くの艦船が二人の目に入る。


「…すごい」

「ええ」


全てが戦闘艦であり、工業船の姿はない。

まるでこれから戦争でも始めるような状態であった。

オリオンはステーション内の桟橋に横付けする形で入港し、荷下ろしを自動で開始する。

三本腕の作業用ドローンが、反重力で飛行しながらスラスターで姿勢制御、カーゴスペース内にある荷物を降ろしていく。


「ステーション側から、降りて欲しいとの要請がありました」

「なんで?」

「直接会いたいそうです」

「......どうする?」

「制圧ボットを待機させます、それから私も」

「...大丈夫かな」


不安がる二人だったが、唐突にその脳裏に声が響く。


『不安に思う必要はありません』

「な、何!?」

「リリー様!」


次の瞬間、二人は寒さを感じる。

暖かいブリッジから、涼しいステーション内の桟橋に移動していたのだ。

一瞬で。

ペルソナは周囲を素早く観察し、自分たちの下に消えゆく光文字が書き込まれていたことに気付いた。

それが何かは、彼女には分析できなかった。

その猶予もなかった。


「ようこそ、輸送艦オリオン...そして、その艦長であるリリー・シノ殿」

「あなたは....誰?」

「私の名前は黒騎....否、今は黒神騎士と名乗っております」


その口調に、リリーは違和感を感じる。

かつて名乗ったことがあるような口調だ。


「どこかで会ったことが?」

「ええ、......いや。まだ・・でしたね。初めまして」


引っかかるものはあったが、リリーは特に言及しなかった。

唐突に現れた机に、三人は腰掛ける。


「茶をどうぞ」

「私だけ....いいんですか?」

「ええ。私は...そちらの人形と同じようなものですから」


ペルソナの方を見る黒神騎士。

リリーはペルソナを人形と呼んだことに特に腹を立てる様子もなく、話を進める。


「それで、あの荷物は何ですか?」

「あれは、あの宇宙でしか採掘できない特殊な鉱物です、我々がこれから始める戦いに必要なため、持ってきていただきました。あのゲートを通過できる船は限られますので」

「鉱物? 戦い?」

「貴方が知る必要のないものです。外に集結した戦力を見たでしょう?」


これ程の戦力をもってしても、まだ鉱物を必要とするほどの相手。

情報を思わず欲したリリーだったが、にべもなく断られた。

輸送艦など必要ない――――即ち、情報を渡す必要もないと。


「残念ですが、我々は――――」


黒神騎士は頭上を見上げる。

遥か上を、レールに載って何が大型の機体が吊られて運ばれていた。

それを知るものなら、Chronusと答えただろう。

シークトリアで開発された、超技術をベースに作られたロボット兵器である。


「我々の戦力は充分に足りています。貴方様を戦わせるほどの相手ではありませんよ」

「そうですか......」


落胆するリリー。

その様子を、ステーション内部の食堂の一室から見る青年がいた。


「ナユタ、何を見ているの?」

「ん? いや、黒神騎士が客を招いたらしい。珍しい事もあったもんだなってな」

「それは珍しいわね....」

「僕たちの超先輩らしい」

「へぇ....」


黒神騎士の人となりを知る彼らは、それ程の相手なのかと気になり見に来たのだ。

へりくだるリリーの姿を見て、興味を失ったのか席を立つ。

それを、興味深げに見る人物がいた。


「ねえ、お兄ちゃん。黒神騎士がお客さんを招いたんだって」

「いつもの事だろう、理解に苦しむ鉄屑だ」

「ねえ、エリアス姉さんも何か言ってよ」

「誰だか知れば、驚くことになるだろう」


エリアスと呼ばれた女性は、誰が招かれたか知っている。

それ故に、茶を一気に呷ると席を立った。

質問者の妹は、兄が興味を示さないためすぐに話題を変えてしまい、そしてそのまま窓の外へ目を向けることはなかった。

――――向けていれば、驚いていたかもしれないが。


「クルス、何を見てんだ?」

「いや、見たことない形の輸送艦だなって」

「色んな世界から来てるんだろ、当たり前じゃねえの」


そして、また視点は移る。

係留されたオリオンを、下から見ている人影が三人。

人、といっても二足歩行というだけで、その身体は人類とはかけ離れていたが。

尻尾を地面に叩きつけつつ、その中の一人が呟く。


「アディブの母船よりちょっと大きいくらいかしら」

「ああ、輸送艦だろうな」


そのまま三人は、流線型の宇宙船に乗り込み、ステーションの外へと出て行った。

談笑を終え、リリーとペルソナは席を立つ。

椅子と机を消した黒神騎士は、二人を真っすぐに見る。


「今はこの意味が理解できないかもしれませんが、あなた方の道はいずれここへと通じます」

「.......よく分かりませんが、報酬を頂けますか?」

「既に積まれておりますよ」

「そうですか、ありがとうございます」


一礼するリリー。

黒神騎士は二人を「転移魔法」でブリッジの中へ飛ばす。

暫くして、オリオンはステーションとの係留を解除。

外へと向けて進み始めた。


「黒魔騎士、どう思う? あれがあの女神だと思う?」

「時系列が異なりますから。それよりユカリ様。...外は冷えます」


それを、ステーションの外で見ている女性がいた。

流れるような黒髪、その双眸は濃茶に染まっている。

宇宙であるというのに、平然と立つその女性はまるで神話の女神のように――――


「ディエゴ。......ナレーションはいいけど、見えてるよ」


おっと失礼。

彼女は去っていくオリオンを目に映す。

時は違えど、その道はやがて交わる。

彼女が作った世界が、多くを救った。

この世界を作ったのは、あの世界の別の世界線だ。

だが、その創造主が「この方がよかった」と述べるほどのよき世界。

それを作っていくのは、リリー・シノ自身だろう。


「ディエゴ。まだ増えそう?」


ああ、今年は増えるだろう。

私はそう呟き、目を閉じる準備をする。

輝ける星は、多ければ多いほどいい。

あれ・・と戦うためには、空の神結晶だけでは足りない故に。

この場には恥ずかしいなどと言って来ていないが、あの船乗りもいずれは輝ける星となる。

その日を、我々はただ待つのみだ。

年が過ぎる。

次の年も、共に歩もう。

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