30代からのダンジョンダイエット ~レベルが上がれば基礎代謝も上がる!~
王子ざくり
第1話 ダンジョンダイエット
「はい、崎田さん! どうぞ!」
言われて俺は、剣を構える。
ダンジョンの窓口で貸し出される、鉄製の剣だ。
「ぐきゃっ! きゃきゃっ!」
相手はゴブリンで、歯を剥きだして俺を威嚇してくるのだけど、構わないっていうか構うんだけど、やるしかない。
「うわ”っ! うわ”っ! うわ”っ!」
悲鳴とも気合いともつかない声を上げながら2度3度と剣を叩き付ける俺。「ぐぎょっ! ぐへっ! ぶひっ!」崩れた土下座みたいな姿勢で倒れ、そのまま消滅するゴブリン。
「お見事で~す。グッジョブですよ崎田さ~ん」
「椚さんが弱らせてくれたからですよ」
「いえいえ、たいしたものですから」
椚さん――彼女はフィットネスインストラクターで、俺は月に2回、彼女の指導を受けている。
数ヶ月前、会社の健康診断で肥満を指摘され、若い頃なら気軽にスルーしてただろうけど俺ももう30代だしというわけで、俺――崎田康平32歳は、ダイエットプログラムを受けることになった。
そうしていくつもあるプログラムの中から俺が選んだのがダンジョン探索で、そこで俺の担当になったのが、椚さんというわけだった。
ダンジョンが現れたのは、20年ほど前だ。世界中が大混乱に陥り、それを乗り越える中でダンジョンが資源や科学的発見の宝庫だということがわかった。
当然、それらをダンジョンから持ち帰る探索者を増やすのが国の方針となり、企業の研修や、いま俺も受けてるダイエットプログラムとかいった形で、人々の生活にダンジョンが絡んでくるようになった。
「いつも言ってますけど、レベルが上がったら基礎代謝も上がりますからね――そしたら標準体重なんてあっという間ですから! がんばりましょう!」
何故ダンジョン探索がダイエットになるかというと、そういうことだった。ダンジョンでモンスターを倒すと経験値が得られて、レベルが上がる。そうすると基礎代謝が上がって、痩せやすくなる。
みんなレベル0からスタートして、この時点では、まずモンスターを倒せない。だから同行の探索者にモンスターをボコボコにしてもらって、とどめを刺すところだけ自分でやって、経験値を得る。
でもそれだと、1人で斃した場合よりも得られる経験値は少なく、レベル1に上がるまでにモンスターを何十匹も倒す必要がある。当然、何度もダンジョンに潜ることになり、そのたび、同行してくれる探索者を探して、お金を払わなければならない。
俺の場合、今日で7回目の探索だが良く続いてる方だと思う。というのも理由があって、費用の半分を会社が補助してくれること、仕事が暇な時期だったこと、それから単純に、椚さんの教え方が上手だったからだろう。
椚美咲――年齢は22歳で、プロの探索者。まだ稼ぎは少ないけど、実家暮らしだからそれでも大丈夫なんだそうだ。配信者活動もやってるけど、そっちは探索者よりも更に稼げていないらしい。
「それではちょうどいい時間ですし、今日はここまでにしましょう」
というわけで、ダンジョンのフィールドを出て、受付の向こうのカフェスペースに移動する。
最後は、そこでダイエットの進捗確認をするのが、毎回のルーティンだ。
「うんうんうん……データも見かけも、いい感じで落ちてますね~」
「でも体脂肪率が落ちてないんですよ」
「あ、そこは気にしなくていいです。体脂肪計なんて基本デタラメですから。前に言いましたよね? ダイエットで信じていいのは、体重と、鏡に映った自分。それから――」
「これ、ですか?」
「これ、です」
目を合わす俺も椚さんも、指で『C』の形を作っている。これがどういうことかというと、つまり指でつまめる脂肪がどれだけ残ってるかが大事ということだった。
「よし! 分かってもらえてて嬉しいです。大丈夫ですよ。﨑田さんの場合、探索も続けられそうですし、あとはいまの食生活をキープできれば勝手に痩せていきます! がんばりましょう! 私もがんばってサポートしますから!」
椚さんは背が高く、身長180センチ近く。でも人並み外れてるのはそこだけで、あとは顔もスタイルも人並みよりちょっと整ってたり、出てたり、くびれていたりに留まり、しかしそれが逆に彼女を微妙、いや絶妙にいそうでいない感じの美人に仕立て上げていた。
そしてそんな彼女に拳を握りしめ『がんばりましょう!』なんて言われてしまうと――
「はい! がんばります!」
――彼女の期待を裏切ってはいけない! と、使命感にも似た思いを抱いてしまう俺なのだった。
まだ仕事が残ってる椚さんと別れ、最後にゲートで荷物のチェックを受けて施設を出る。
武器やダンジョンで入手したアイテムは、外に持ち出せない。だからゲートで、職員さんに荷物を確認してもらうのだ。
簡単なボディチェックの後、職員さんがリュックの中身を取り出していく。
「救急セットに、予備のプロテクター……これは自前? レンタルじゃないよね? それと探索者協会のガイドブックに……」
その様子を眺めながら、後ろめたいところのない俺は、職員さんの胸の身分証に目を取られていた。
(この人……入社して10年くらいかな……身分証の写真も入社したときに撮ったんだろうな……写真より老けてるからな……入社した頃は……まだ髪の毛が残ってたんだな……)
と、そんなことを考えていたのだが。
「ん?」
職員さんの手が止まった。
「?」
怪訝そうな顔になる職員さんに、俺もちょっと身を乗り出す。
「…………うん。ま、大丈夫か」
説明もなく頷いて、再び職員さんの手が動き出す。
「???」
それから何も咎められることなく荷物チェックをパスし、俺はダンジョン施設を出た。
職員さんの表情の理由が分かったのは、家に帰ってからだった。
リュックの中身を出して、中に入り込んだ砂を拭き取ったりしてたら、底の方に、ふにゅっと妙に柔らかい部分がある。
(さっきの職員さんも……)
職員さんが変な顔をしたのも、これだったのかな、と思ってたら、その柔らかさがいきなり立体的になって、手を包みこんできて、慌ててリュックから手を出したら、そしたら、そこには――
「きゅきゅー」
スライムがいたのだった。
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