お前の「武器」は、俺の「武器」 ~最強スキルも何もかも模倣して、家族のために全部ぶっ壊す~

千春

第1話 武器模倣は、お手の物

 暗闇から鉛のような瞳が男を見ている。男は尻餅をついて後退りしている。


 恐怖が、男の首筋や手足に流れるのは、目の前の俺が悪いんだ。よく知っている。


 俺は男の震えた手で向けられた銃口を見ている。


「く、来るんじゃねえ……」


 ガタガタ揺れる歯、顎、体。見ている方が辛いと思う。


「なんで、なんで……俺なんだよ」


 右手の人差し指をトリガーに置いて男は聞く。


「さあァ?」


 右手の人差し指をトリガーに置いて俺は言う。


 突然現れた、に、男は狼狽える。


 思わずニヤつきながら俺はさらに口を開く。


「1900年代のマグナムリボルバ。装填数は全部で六発」


 俺はカートリッジを開いて、わざとらしく球を抜く。


「俺に向かって、お前は二発打ち込んだ、そうだよな?」


 もう一度、銃口を男に向ける。男は覚悟を決めたようにトリガーに強く指を押し当てる。


 バァンという心地よいほど一辺倒の発砲音が鳴り響く。


 男はあまりの痛みに銃を手から滑らせて、悶えるように叫ぶ。


 俺はすぐさま再装填。今度は男の喉元に弾を直撃させる。


「そうそう、死ぬ前にお前を殺す理由。聞きたかったんだよなァ? 聞かせてやるよ」


 クルクルと指先で銃を回す。円を描くように回って、回って、回って。


 また、空の薬莢が落ち、カートリッジは回る。


「ケモノだからァ!」


 ギャハハハッ!!と笑い声と、毛むくじゃらのその肌に、一辺倒な音がまた、暗闇で鳴り響く。


 *


「そんで、その後はどうなったんだい?」


 俺は襟を掴まれて、まるで子猫のように空中に浮いている。


「うーんと……まあ、やっぱり愛犬殺されて覚醒するシーンは絶対入れたいっすよね……」


 そう真面目な顔で言うと、鬼教師は俺を宙からいきなり離して、尻餅をつかせる。


「馬鹿なこと妄想してないで、力学を学べ」


 今は「超常力学」の授業中。今日も今日とて怒鳴られる日々が続いている。


「えー、アホのせいで中断しちまったが、いいかー? 簡単にまとめるとだな、この私たちの住む町、『スオウ』は」


 超常の街、だ。昔からみんな口を揃えてスオウと聞くとそう言う。


 この町は、超能力者の生まれる確率が異常に高い。例えば、日本の首都「東京」で生まれる超能力者の割合は例年、2%にも満たない。


 が、スオウの割合は驚異の99.6%! ならないほうが難しいってものだ。


 まあ、それに伴って、俺たち人間の大半が嫌う、「獣人」の移民率も高まっているわけだが……。

 

 とりあえずそれが、俺たちの住む超常都市、「スオウ」。


 空を見ると、変わらず飛行艇が何機も飛んでいる。


 *


「レオ、飯食わへんの?」


「今日はいいやー。便所行ってくる」


 最近は気に入っている飯スポットがあるのだ。クラスの天才アホカスにバレれば荒らされるので、秘密にしている。


 廊下に出て、教室を何個か見送ると、左側にある小さな部屋。


 開けると、埃の匂いで包まれる。ここは物置だ。


 俺はさっさと歩くと、さらに奥の窓を開ける。


 ひょいと体を翻し、窓の外の壁に取り付けられた梯子を掴む。


 錆びた鉄の感触が気持ち悪いが、我慢して下に降りる。


 そう。ここが俺の秘密基地。もう使われていない、焼却炉の管理小屋だ。


 これがまた心地よい場所なんだ。窓には段ボールを貼っているし、誰にもバレることはない。


 ふと、さっきまでは見えなかった青い空から声がした。


 「年々、その超常を消しつつある、超常能力ユニーク・スキル。本日は、そんな超常能力ユニーク・スキルを持つ、ある男性に話を――」


 俺は、五月蠅くて仕方なかったので、手をスピーカーにかざす。ちょうど掌でスピーカーが見えなくなった時。


 手を握れば、スピーカは見えない何かにひねりつぶされ、丸まって壊れた。


 俺は余韻にも浸らず、背負ったバッグから鍵を取り出し、勝手につけた南京錠を開ける。


 扉を開けると、ようやく素晴らしい俺の基地が――。


 なぜか、空の明かりが部屋に充満していた。窓は閉じているのに。


 俺のお気に入りのマッサージチェアは、見るも無惨に屋根に潰されている。


 その上には、ぬいぐるみのような何かが置いてある。


 呆然としていると、突然ぬいぐるみが動く。俺は腰のホルダーに手を置き、体制を整える。


 ゆっくりと近づくと、俺は驚愕した。これは、生き物だ。


 もふもふで、丸っこくて、長い耳がついている。


 ちょうど昨日の、のような短い尻尾も。


 俺がじっくり観察していると、その生き物は目を覚ました。


 どうやらこの生き物は、天から降ってきたらしい。よく見れば、小屋のトタン屋根が崩れて、そこから光が漏れていた。


 ぱっちりした目元に少し驚く。美しい紅色の瞳が、俺を見る。


 なんのつもりだろうか、俺はエサの一つも持っちゃいないが。


 ひょいと瓦礫から飛び降りて、てちてちと足元へ歩いてきた。


 正しく人形のような姿は、ゲロ可愛いの権化のようだ。


「たすけて」


 俺はその生き物に、そう確かに言われた。


「は?」


 俺は反射的に返してしまう。その生き物は、それでも俺を見つめながら必死に言い続ける。


「たすけて」と。

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