第2話 初めての人間

 しばらく走ってみて、嫌というほど理解した。

 この森には、ゲームなどでおなじみのゴブリン、オークキング、スライムといった魔物が普通に存在している。

それはもう、ここが日本ではないという現実を、これ以上ないほど突きつけられた。


 それにしても、一時間以上は走り続けているはずなのに、いまだに森を抜けられない。

 舗装などされていない道を無理やり進んでいるせいで、車体は常にガタガタと上下に揺れ、その振動がじわじわと尻にダメージを蓄積させてくる。


「……尻が痛い!」


 さすがに尻の限界だったので、俺はキャンピングカーを止めた。

 そういえば、朝から何も食べていない。

 ここらで休憩しよう。そう思い、ガスコンロを取り出してカレーを温め直そうと準備を始めた。


 その時だった。


 ――バキバキッ。


 外から、木をへし折るような重い音が響いた。

 続けて、腹の底にまで響く雄叫び。


「グオォオオオオオオ!!」

「えっ……?」


 慌てて運転席に戻り、音のした方へ視線を向ける。

 そこで目にしたのは、巨大な熊と白髪で鎧をまとった女性が戦っている光景だった。


「人間が、いたぁぁぁあ!!」


 一時間以上走っても人里に出られず、この世界に人間が本当に存在するのか不安になっていた俺にとって、声が出るほど嬉しかった。


「グギャアアアア!」


 白髪の女騎士は、熊の振り下ろす一撃を間一髪でかわし、剣を振るって反撃する。

 しかし、その斬撃は分厚い毛皮と肉に阻まれ、致命傷には至らない。


 しかも、かわしたはずの一撃が直撃した背後の大木は、いとも簡単に薙ぎ倒されていた。

 あれをまともに食らったら、ただじゃ済まない。


「おお……ファイアボールかな?」


 女騎士は剣だけでなく魔法も交え、必死に応戦している。

 俺はキャンピングカーという安全地帯から、その戦いを固唾をのんで見守っていたが、次第に彼女が押されているのが分かってきた。


「……だ、大丈夫か?」


 反撃はしている。だが明らかに苦しい。


 熊が放った、先ほど大木を薙ぎ倒したのと同等の一撃。

 女騎士は受け流しきれず、そのまま弾き飛ばされ、キャンピングカーの横に立つ木へと叩きつけられた。


「マジかよ……!」


 地面に崩れ落ちた女騎士は、そのまま動かなくなる。


「グルルル……」


 勝利を確信したのか、熊は低く唸りながら、ゆっくりと近づいていく。


「殺されてたまるか!うぉおおお!!」


 初めて出会った人間を、目の前で殺させてたまるか。その一心でエンジンをかけ、アクセルを床まで踏み抜いた。


 車が壊れる覚悟で、俺は巨大な熊の横腹に突っ込んだ。


 ――ドンッ!


 大きなクマは二、三回転しながら吹き飛び、立ち上がるも、大きくよろけながら、そのまま森の奥へと逃げ去っていった。


「今だ……!」


 俺はキャンピングカーから、急いで外へ飛び出すと、女騎士を抱え上げてキャンピングカーへ乗り込んで、その場を離れた。


「……大丈夫だよな」


 十分に距離を取ったあと、助手席に乗せた女騎士の生存確認を行なった。


「良かった。生きてる……」


 あれほどの攻撃を受けてもただ、気絶をしているだけだった。

 その強靭な肉体に、俺は思わず感心してしまった。


「さすが異世界の人だな……頑丈すぎるだろ」

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