キャンプピングカーで行く異世界放浪〜旅のついでに魔王を倒す事に〜

暁 とと

第1話 キャンピングカーと異世界に


俺は、25歳の佐藤築さとう・きずくだ。

大学卒業後、IT系の企業に就職したものの、つい最近、その会社を辞めた。


 最近辞めた会社は、いわゆるブラック企業だった。終電を逃すことも珍しくないほどの残業が日常で、それを三年間も続けていた。


 なぜ、あんな環境で辞めずに働き続けていたのか……今となっては、自分でも不思議でならない。


残業が常態化し、疲れ切った日々を過ごしていたせいか、振り返ってみれば、これまでの給料の使い道といえば家賃と食費がほとんどだった。

遊ぶ時間も、遊ぶ気力もなく、気づけば通帳の数字だけが順調に増えていった。


なので、思い切って前々から欲しいと思っていた中古のキャンピングカーを購入し、こうしてキャンピングカーと共にキャンプ場にやって来た。


しばらくは就職せず、このキャンピングカーで気ままに旅をしながら、ブラック企業で擦り切れた心と体を癒すつもりだ。


「よし、夜ご飯の準備でもするか」


ナタで薪を割り、焚き火台に組んで火をつける。

パチパチと弾ける音が夜の静けさに溶けていき、それだけで少し報われた気がした。


キャンプといえば、やはり定番はカレーだろう。

道中で立ち寄ったスーパーで買ってきた食材を適当に切り、鍋に放り込んでいく。


薪を使っての調理は初めてだった。

いつもの感覚で作ってしまったせいか、野菜には少し芯が残っている気がしたが、初めてにしては上出来だ。


ご飯も鍋で炊いてみたが、米はビチャビチャ。それでも、不思議と美味しい。


湯気の立つ鍋を前に、俺は静かに満足感を噛みしめ、後片付けを済ませてキャンピングカーの中で眠りについた。


♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


翌朝。

残りのカレーを温め直して食べようかと思い、外に出た瞬間、違和感を覚えた。


「あれ……ここ、どこだ?」


辺り一面、木々に覆われた荒れた森。

昨日まであったはずの焚き火台は影も形もなく、整備されたキャンプ場の面影はどこにもない。


しばらく、カレーの入った鍋を持ちながら、その場で呆然と立ち尽くしていた。


「……夢、だよな」


まだ夢の続きなのかもしれない。

そう思い、キャンピングカーに戻ってもう一度布団にもぐり込み、再び目を閉じた。


だが、目を覚ましても景色は変わらなかった。


これはもう、確信するしかなかった。


「異世界転生……だよな。やっべーな」


状況を確認しようとキャンピングカーを降り、森の中へ足を踏み入れた、その時だった。


緑色の肌に、木の棍棒を持った小柄な人型の魔物であるゴブリンが現れた。


「グギャアアアアアア!!」

「うわぁぁぁ!!」


 目が合った瞬間、叫び声を上げて俺目掛け走ってきた。


 俺は一目散にキャンピングカーへと逃げ込んだ。


「ハァ、ハァ……あれ、ゴブリンだよな……。間近で見るとマジで怖ぇ……」


追いかけてきたゴブリンは、キャンピングカーを見るなり逃げ出した。

未知の魔物か、巨大な鉄の怪物にでも見えたのか、森の奥へと消えていく。


だが、安心するのは早かった。


「……うわ、遠くでまだ見てるよ」


ペットボトルの水を口に含み、荒い息を整えながら窓の外を覗くと、ゴブリンが仲間を連れ、木陰からこちらを監視している。


外に出るのは、明らかに危険だ。もし、ゴブリンどもが何日もあの場所を動かなければ、食料調達ができない。そうすると、キャンピングカーの中にある食料だけでは……せいぜい三日が限界だろう。


 そうなると、餓死してしまう。

 

 そんなことを考えながら、どうやってこの状況を切り抜けるか悩んでいた。

 あ〜この部屋が勝手に動いてくれたらいいのにな、と思っていたその瞬間、俺は自分がいま何に乗っているのかを思い出した。


「あ、そうじゃん!俺、乗ってるのはキャンピングカーじゃねえか」


 異世界に来た衝撃で、完全に失念していた。


「よし。移動しよう。ゴブリンとか、怖い魔物がいなさそうな場所へ」


 エンジンをかけ、荒れた道を慎重に進み始める。

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