現状分析 01
(……本当に、戻ってきたのか。あの地獄の淵から)
目覚めてから数日。カムイは混乱を論理的に切り分け、現状を「1999年」という過去のデータセットとして確定させていた。
まずは、身の回りの「ログ」の整合性を確かめる。ITコンサルタントとしての習慣だ。主観的な感情を排除し、客観的な事実との照合を開始する。
彼は自室の隅にある雑誌や新聞をひっくり返した。
1999年8月。新聞の日付、テレビのニュース番組の質感。
ブラウン管の中では、キャスターが「ノストラダムスの予言、外れる」と、まるでシステムの致命的なバグを見逃したテスターのように、無知な歓喜に沸いている。
「……当時の事件、企業の動向。整合性は取れている」
ノートを開き、2029年で得た「歴史のログ」を書き出していく。
山一證券破綻の余波、モノクロ液晶の携帯電話、iモードの普及……。2029年のクラウドもAIも、影も形もない。
だが、カムイが最も警戒すべきは、表層のニュースではなく、世界の裏側で走っている「目に見えないロジック」だった。
(一回目(2029年まで)の人生で、俺は『孤高』というポジションに固執しすぎた)
鏡の中の自分を見据える。
限界まで追い込み、筋繊維の一本一本までを鋼のように鍛え上げた17歳の肉体。周囲を寄せ付けない冷徹な視線。
かつてのカムイは、誰とも群れず、誰にも干渉させない「独立したノード」として教室にいた。格闘技の腕がある自分に絡んでくる馬鹿はいなかったし、自分もまた、周囲の有象無象を背景グラフィック程度にしか思っていなかった。
「……だが、その無関心が、あの日、隣の席から始まった『エラー』を見逃す原因になった」
2029年の終焉。すべてが消え去る間際に脳裏に焼き付いたのは、後悔という名の巨大なバグだった。
なぜ、あの時。なぜ、もっと早く気づかなかったのか。
「……調査が必要だ。まずは、この世界の『非論理』を言語化する」
その断片を、当時の自分は「オカルト」と呼んで鼻で笑っていた。
(今度は、笑わない。……たとえそれが、どれほど不条理なソースコードであってもな)
そこから、彼の「目に見えない敵」に対する、孤独なデバッグ作業が始まった。
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