第3話 勇者。

加藤子鉈が委員長キャラを獲得したのは、文化祭実行委員にして学級委員だった僕の幼馴染である渡美沙が、そこまで委員長らしい見た目ではなかったことが大きいだろう。転校生キャラというのが何かと不便だと感じた子鉈は、すぐに黒縁メガネを掛けて委員長っぽく振舞った。


キャラというのはお笑いだけでなく普段のコミュニケーションにおいても強力な武器になる。子鉈は序盤にあった転校生キャラのスタートダッシュと、委員長キャラに転身してからの安定感で、ウチの学校にお笑いブームをもたらした。そのお笑いブームの終わりを告げたのは、文化祭のあの伝説のステージで間違いない。


みんなのお笑いへの熱が冷めていくのを感じながらも、子鉈とコンビを組むことになった僕は、とある日曜日、子鉈に呼ばれて都内某所にある大型ショッピングモールのフードコートを訪れた。フードコートの端っこの方の席に子鉈は座っていて、ストローを加えていた。おそらくシェイクのような飲み物を、ちゅー、と吸っていた。


子鉈は休みの日にも黒縁メガネをかけている。

委員長キャラって学校の外でも通用するのだろうか。


「待たせたか?」


声をかけると子鉈はストローから口を離してこちらを向いた。子鉈は僕の私服を品定めするように眺めていたが僕が着席したところで「全然」と答えてくれた。子鉈も急に呼び出して慌ててやって来た僕に何か文句を言うほど性格が悪くない。基本的には良い奴だったけど変に下ネタが好きだった。


「それよりもネタは覚えてきたかな?」

「もちろん覚えて来たけど……何をするつもりなんだ?」

「ふっふっふ」


僕が聞くと子鉈は得意気になる。何か良い作戦でもあるのだろうか。僕と子鉈は正式にお笑いコンビを組むことになったのだが、それ以降のことは何も決まってはいなかった。ただ子鉈からチャットで台本が届き、わたしがボケで佐々木くんがツッコミだから、とだけ言われていた。


「まずは佐々木くんの意見から聞こうかな。君も色々考えられる人だと思うから」

「コンビ名を決めるところからじゃないか?」

「なんともう決まってます。でも佐々木くんには教えません」

「え、そんなことある?」


これから僕だけコンビ名を知らないで活動していくってこと? 

そもそもそれって可能なのか? 

 

「そんなことよりわたしが佐々木くんに聞いているのは、わたしたちが今後どうするかってことだよ。目標とか。目指すべきところとか」

「……まあ、高校生でお笑いコンビを組むってなったら、まず目指すのは高校生漫才グランプリだろうな。全国テレビに出れるから名前も売れるし、優勝したら養成所の入学金が免除って聞く」

「無難な目標だね。でも、難が有ってこそ、有り難い人生なんだよ」


そんなゴルゴ松本、命の授業みたいな。


「わたしは勇者になりたいんだ」


勇者。


子鉈は真っすぐ僕を見つめるようで、どこか遠くを見ているような目をした。それが真剣な表情だって分かるから、無駄に茶化したりはしなかった。


「色んな作品で勇者と表現される人物を見て思うのは、現代を生きる人たちは勇者の解釈が生温い。わたしは現代で勇者と呼ぶべき人たちがいるならそれは漫才師だと思うんだ」


勇者になりたい子鉈はだから漫才師になる。


「いまから始まるのはわたしたちが勇者になるための旅。この大型ショッピングモールに併設されたヘイヨーホール2525劇場では本日、漫才カップの一回戦が開催されているの。とくに今日の2525劇場には若手で力のある芸人さんがたくさんエントリーしてる」

「それに僕たちもエントリーしようってこと?」

「ちっちっち」


子鉈は指を振って甘いねとジェスチャーをした。


「これからわたしたちは外に出て、すぐそこにある広場に立って漫才をする。もちろんわたしたちは漫才のネタが一つしかないわけだから、同じネタを何度も何度も繰り返す。まずはたまたまその場を通りかかった漫才カップの一回戦を見に来たお客さんや、出場している芸人さんの足を止めることが目標だね。で、最終的には2525劇場よりも多くの人を集めるの。伝説でしょ?」


子鉈が語ったのは絵空事のような作戦だった。そうだな。たしかに伝説だ。


「伝説の勇者だな」


僕の言葉に子鉈は満足そうに頷いて立ち上がった。


「よし。じゃあわたしは朝からシェイクを飲んでお腹が痛いから、まずはうんちをしてから作戦開始だ」


 

 

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勇者たち。 フリオ @swtkwtg

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