第1章-9 ガンダーラ・ニーラ
ガンダーラ国、北西部スワート渓谷。
早いもので、炭焼き職人のジャーピタの炭焼小屋に厄介になってから、1週間が過ぎた。
ジャーピタは豪快な男だが、優しい面があって、森の動物達ともお隣近所のような接し方をしている。
根掘り葉掘り聞かれるかと思ったが、詮索するようなことはせずに、ただそこで寄り添ってくれているような感じだった。
(東京にいたときとはえらい違いだ)
(名前すら聞かれない)
ā
炭焼きの仕事が一段落したジャーピタは、土間に敷いた毛織物のラグの上でゴロンと横になって腕枕をしている。
k
a
K
a
言いかけて、こんなこと言ってもどうせ信じてもらえないだろうな、という曖昧な気持ちが先行して口ごもる。
k
a
“N
N
Ni
dī
ā
a
ジャーピタは驚くと同時に、眉唾的なうすら笑いを浮かべながら、
e
大爆笑していたジャーピタの顔が、徐々に真顔に変わってきた。
h
t
“
s
----------------------------------
a
ā
玄関口は開いていて家の中を伺うと、そこには質素な造りだが間取りゆったりの空間が広がり、炭焼小屋にはなかった調度品もいくつかある。
それらの造りも華美でははないがしっかりしたもので、素材も高価なものかと思われた。
慧にはその知識がなかったが、いわゆるアンティークになったときには高値がつくような高級家具かと推察した。
khaṇ
m
アーロカは、微笑みながら家の中に招き入れた。床は土間だが、部屋の中央にはテーブルが設えてあり背もたれのない椅子が4つある。
先程、家の外から覗き込んだときに見えた調度品のタンスには、よく見ると螺鈿のようなきれいな貝殻細工が施されている。
(もしかして、結構いい値段のタンスじゃないのコレ)
部屋の中、何かいい匂いがする。
それは、今までに嗅いだことがない香りだった。
k
i
(乳香って、、確か旧約聖書と新約聖書に出てくるあれか?)
“
アーロカは山羊の乳が入った甘いお茶を勧めた。
適度な渋みとかすかにスパイシーな風味を出していてそれをヤギのミルクがやさしく包みこんでいるような、優しいお茶だった。
正面の棚の上には、変わった藍色の器がいくつも並んでいた。
e
“G
G
a
ac
p
i
u
tena
(あそうか、そうだった)
アーロカは、このガンダーラ・ニーラの藍色の製法について、慧に話した。
かいつまんでみると、隣国のKambojaからの交易品で貴重な Azure(アズレ)、それに少量の”光るAzure”、ヤシの実の灰、色の調整のために微量の海塩を使うらしい。
e
アーロカは慧を工房の奥へと招き入れた。
そこには、大小の轆轤台がいくつかあり、様々な釉薬の壺や、材料になると思われる鉱石などが積まれている。
i
id
(確かこの石、見たことある。何だっけな、名前が出てこない。ああ、こんなこと言っても笑い話にしかならんけど)
(スマホ、あったら良かったのに~)
(それにしても、ガンダーラ・ニーラか、、青い鉱石の釉薬、アズレか初めて聞くけどよく見るとすごい青だな。あっ!)
アーロカと慧が奥から戻ると、ジャーピタが言った。
アーロカは再びテーブルに着いて、お茶をひとすすりしてから尋ねた。
[BGM]
"STING - DESERT ROSE, PUTRI ARIANI COVER (Live perform in Penang)"
慧は、これまでの経緯を詳しくアーロカに話した。
アーロカはその話を最後まで真剣な眼差しで聞いていて、慧の話を途中で遮ることはなかった。
アーロカの瞳は深い神秘的な青い色をしていて、見つめ合っていると、まるで透明度の高い泉の中に沈んでゆくような、なんとも言い表せない感覚に包まれた。
a
so
アーロカは少し考えるような素振りを見せてから笑い顔で、
a
慧とジャーピタは、お茶を飲み終わるとアーロカの工房をあとにして、谷の上手にある炭焼小屋へ戻った。
-----------------------------------------------------------------------------------
【脚注】
◯アーロカのお茶
アーロカが淹れたお茶は、現在のパンジャビ・ティー。
パンジャビ(パンジャーブ)料理専門店などで飲むことができるスパイス入りミルクティ。南インドのマサラティに似ているが、比べてみると独自の風味を持つことがわかる。ただし、この時代に茶葉はまだ流通していないので、アーロカの淹れたお茶はたんぽぽや穀類などを混ぜたハーブティー。
◯乳香
『学者たちはその星を見て喜びにあふれた。家に入ってみると、幼子は母マリアと共におられた。彼らはひれ伏して幼子を拝み、宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた。』
―「マタイによる福音書」第2章11節、『新約聖書』―
◯Kamboja のアズレ
現在のアフガニスタン北東部に位置する3500m級の山岳地帯で産出するラピスラズリ鉱石。アフガニスタンとパキスタン国境に近い。そのため Conflict mineral (紛争鉱石)と呼ばれ、搬出ルートがグレーゾーンであるとされる。
また"光るアズレ" はモロッコ産出のアズライト鉱石。
◯大小の轆轤台
いわゆる陶芸用のろくろ。
古代インド・ガンダーラの時代にろくろが存在したのか?という疑問については、以下が裏付けとなる。
話し手はブッダ、場所はクル国ハスティナプル付近のカンマーサダンマ。
[DīghaNikaya]
DN22 Mahasatipatthana>kayanupassana>Anapana
{長部経典22 大念住経 呼吸の部の譬喩部分}
<原文>
dakkho bhamakāro vā bhamakārantevāsī vā dīghaṃ vā añchanto ‘dīghaṃ añchāmī’ti pajānāti, rassaṃ vā añchanto ‘rassaṃ añchāmī’ti pajānāti;
<日本語訳>
「熟練した轆轤師(あるいは旋盤工)、またはその弟子は、長く引っ張る(削っている)ときには『今、長く引っ張っている(削っている)』と知り、短く引っ張る(削っている)ときには『今、短く引っ張っ(削って)いる』と知る。」
引っ張るという動作:古代のろくろは回転軸に縄を巻き付けて、それをコマを回すときのように引っ張ることで回転動力を与えていたためこの表現が使われる。
※尚、このマハーサティパッターナ スッタ・大念処経は、ゴータマ・ブッダの教え(仏教)の核心部であり、その方法と理論の集約。
端的に内容をまとめると「瞑想方法と四つの真理の詳細」。
詳しくは、このあと辿るクル国でご紹介します。
次の更新予定
【真愛の軌跡】自分探すつもりが、ガンダーラで聖地巡礼サバイバル中の俺は誰? 真沙羅院がらむ @MasalainGaram_2025
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。【真愛の軌跡】自分探すつもりが、ガンダーラで聖地巡礼サバイバル中の俺は誰?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます