クラスの内気な女の子に巻き込まれる僕の理不尽な日常

セバスーS.P

第1話 最初の一歩

 クラスで隣に座っている、いつもいるのに、友達ができるほど打ち解けられない女の子がいるって言ったら、どう思う?


 見た感じ、誰とでも仲良くなれそうにない、一番社交的じゃない人間。

 僕にとって、彼女はまるで性別の違う鏡に映った自分のようだった。


 僕と違って、彼女は目立ちたい願望があるように見えたけど、その内気さがいつも邪魔をしていた。


 それが僕のクラスメイト、石田 雪だった。

 彼女の暗くさらりとした髪は、教室の明かりにほんのり輝き、つい目を奪われる。大きな眼鏡が、ヘーゼル色の瞳を半分隠していて、その向こうに消えてしまいたいかのようだった。


 僕の席からは、彼女が何度もクラスの小さなグループに近づこうとするのが見えた。いつも同じだった。途中で足を止め、躊躇い……そして結局自分の席に戻ってくる。決心は、決断する前にいつも霧散してしまう。


 おそらく、隣に座っている僕にしか、それは見えなかったんだ。


 何度も思った。「話しかけるべきかな」と。

 そして、彼女と同じように、結局実行には移せなかった。


 僕の女性との交際は、実質皆無だった。今まで普通に言葉を交わしたことがある女性は、母とクラスの担任の先生だけ……情けないだろ?


 高校二年生だったけど、石田とは中学のときからの顔見知りだった。一度も話したことはない。避けていたわけじゃない。ただ、話すことがなくて、努力してまで話そうと思わなかったからだ。


 歴史の授業中、彼女に気づかれないように観察した。僕の角度からは、彼女の繊細な顔立ちと青白い肌がはっきり見えた。いつも大きすぎるシャツを着ていて、明らかにサイズが合っていなかった。まるで世界から身を隠したいかのように。


 中学の頃は、身体的な問題かと思っていたけど、時が経つうちに、ただ自分の体を隠そうとしているだけだと理解した。

 その日、僕は勇気を振り絞って彼女に話しかけた。


 彼女は顔を真っ赤にして、走り去った。


 そうやって、僕は石田 雪を知った。

 そして、僕は田中悠斗。


 ◇◆◇◆◇


 また一コマの授業が終わった。内容の半分も理解できないほど、疲れる授業だった。


 ずっと集中していた石田さんとは違って、僕は彼女のこと、彼女の孤立のことばかり考えて、上の空だった。


 先生が教室から去ると、ほとんどすぐに、生徒たちがあちこちで小さなグループを作って話し始めた。


 しかし、彼女と僕だけが、それぞれの席でぽつんと取り残された。


 石田さんは、楽しそうに話している女子たちのグループを見つめていた。会話の断片が耳に入ってきた。些細な噂話や、上級生の男子へのちょっとした悪口だった。


 その時、一人のクラスメイトが誤って僕の机にぶつかり、黒板消しを落とした。彼は気づかず、そのまま歩き去った。


 問題は、その黒板消しが石田さんの席の真下に落ちたことだった。


 さらに悪いことに、先生が教室に戻ってきて、みんな急いで席に着いた。


 その黒板消しを回収する必要があったけど、彼女に頼る以外に選択肢はなかった。


 彼女がどう反応するかわからなかったけど、じっとしているわけにもいかない。唯一の方法だった。


 深く息を吸って、彼女に話しかけた。


「石田さん、取って……くれませんか」


 僕が言い終わる前に、彼女は恥ずかしそうに体を縮こませ、それからゆっくりと僕の方を見た。まるで初めて会う他人と向き合っているかのように。


 居心地の悪さを感じたけど、もう後戻りはできない。


 僕が再び口を開く前に、彼女の手が机の下から慎重に滑り出て、黒板消しを僕の机の上に置くのが見えた。


 振り返って彼女を見たけど、彼女は僕を見ていなかった。平静を装って、前を向いたままだった。


「ありがとう、石田さん」


 返事はなかった。彼女はただ僕を無視して、次の授業の開始を待っていた。


 別に気にしなかった。彼女がどれだけ内気か知っていたから、深く考えず、返事も期待していなかった。


 授業はいつも通り進み、体育の時間になった。


 石田さんはいつも一番最後に着替え、その時も大きすぎる運動着を着るという噂があった。何度も繰り返され、もう誰も気に留めなくなっていた。


 その日、彼女はいつもと違い、体のラインをしっかり隠すジップアップのトレーナーを着ていた。


 着替えた後、運動中に邪魔にならないようにか、髪を二つの三つ編みにしていた。大きな眼鏡と相まって、ますます周囲に溶け込もうとしているようだった。


 僕は一時的にグループから離れ、校庭の水道に向かった。そうしないと、いつも以上に疲れてしまう気がした。しかし、戻ってみると、体育の先生はもうペアを組ませていた。


 どうやら、教室の出席番号順に組ませているらしい。すぐに僕の名前が呼ばれた。


「田中悠斗、石田 雪と組め。仲良くやれよ」


 文句を言おうとしたが、彼女を見て止めた。彼女も困惑している様子だった。


 普段、ペアワークのある体育の授業は、石田さんはどうにかして休もうとするが、この前、これ以上休むと単位を落とす可能性があると警告されていたらしい。


 それでも、最初の相手が僕だとは思っていなかっただろう。


 断ろうと思ったが、先生の目つきはどこかの軍事基地の司令官のように鋭かった。


 仕方なく、ため息をつき、彼女の方へ歩いた。近づくと、ぎこちなく笑顔を作った。


「よろしくお願いします、石田さん」


 彼女は軽くうなずき、僕の後ろに立った。それから、初めて聞く、甘く柔らかい声で、つぶやくように言った。


「そ、そちらこそ…田中さん」


「その呼び方、やめてくれない? 同い年の人間にそんな風に呼ばれるの、気まずいよ」少し照れくさそうに言った。


「は、はい…それじゃ…よろしく、田中くん…」


 数分後、先生がグループ分けを終えた。


「よし、まずはストレッチから始めろ。その後、次の指示を出す」


 生徒たちはうなずき、ストレッチを始めた。


 僕も他のみんなと同じように、地面に座り足を伸ばし、体を伸ばそうとしたが、誰かの助けがないと全然うまくいかない。


 すぐに、石田さんが手伝いに来てくれた。


 彼女はそっと両手を僕の背中に置き、優しく前方へ押した。そのおかげで、より深く前屈できた。


 最初、彼女の細い指の感触が、かすかな震えとともに少し居心地の悪さを感じさせた。でも、相手が彼女だとわかると、体は次第にリラックスしていった。


「次は、私の番です…よね?」


 彼女の内気な質問——というより、確認に近いその言葉に、僕はうなずいた。


 そのまま、僕にとっては永遠のように感じられる時間がしばらく続いた。


 彼女の番が来た時、僕も彼女がしてくれたのと同じように手伝った。そっと両手を彼女の背中に置き、優しく押した。


 彼女の背中は、しっかりしていて温かかった。トレーナー越しではあったが、かすかに肌の感触が伝わってくる。


 ジップアップを着てるからかな、と思った。


 なんであんなものを着てるんだろう…?


 …そんなこと考え出すのはやめた。自分自身に対して、だんだん居心地が悪くなってきた。


 しばらくして、ようやくストレッチが終わった。


 体育の授業は何事もなく続いた。次第に、石田さんが僕との接触に慣れてきているように感じた。僕も彼女との接触に慣れてきた。ほとんど言葉を交わさなかったけど。


 そんな最小限の会話だけで、授業は終わりを迎えた。


 最後の運動の後、彼女は去り際に一瞬、立ち止まった。


 自分だけじゃないのを見て、僕も行くことにした。頭を冷やす必要があった。


 給水器まで歩いていったが、そこには誰もいなかった。


 変だと思った。同じタイミングで外に出たクラスメイトの数を考えれば。


 その違和感を抱えながら、石田さんを探し始めた。


 廊下を戻っている時、彼女を見つけた。クラスの女子たちのグループのそばに立っていた。


 邪魔をしたくなかったので、良くないと知りつつ、壁の陰で立ち止まり、気づかれないように話し声に耳を傾けた。


「へえ~、じゃあ石田さんも彼氏いたんだ。紹介してよ? それとも嘘ついてるの?」


「そ、それは…私…」


 石田さんは追い詰められているようだった。彼女にかけられている圧力を感じ、介入することにした。彼女たちはからかう気満々で、それを許すわけにはいかない。


 話しながら近づいた。


「どうかしましたか、石田さん?」


 女子たちは皆、驚いて僕の方を見た。そのうちの一人が、奇妙な、ほとんど楽しそうな笑みを浮かべた。


「あ~、じゃあこの人が彼氏なの?」


 え?


 いったい何の話をしてるんだ?


 僕は混乱しながら石田さんを見たが、彼女は何も言えずに躊躇っていた。


 彼女、なんかややこしいことに巻き込まれちゃったみたいだな…そして今、僕も巻き込まれた。


 ただひたすら、この誤解を彼女が解いてくれることを願った。


 一人の女子の笑い声が、最初はからかうような調子で響いたが、すぐに友人たちの導き出した結論に驚いたのか、純粋な驚きの笑顔に変わった。


「マジで付き合ってるの?」


 状況のプレッシャーが秒ごとに増していく。彼女自身が言えばずっと簡単なのに、僕は説明を試みざるを得なかった。


「石田さん、本当のことを言ってください。彼女たちも怒ったりしないと思います」


 彼女は前よりさらに躊躇った。まるで僕の言葉が決断に重みを加えたかのように。拳を握りしめ、深く息を吸い、顔を上げた。


 私たちの前に立つ女子たちを見つめ、硬い笑顔を浮かべて…そして、僕の腕を抱きしめた。


「はい、私、私達…付き合ってます。ただ、誰にも言わないでおこうと思ってただけなんです」


 おいおいおい…そういうことじゃないだろ。

 なんでいきなり僕をこんなことに巻き込むんだよ。


 女子たちの視線が一斉に僕に注がれた。確認を待っている。その時、かすかに、ほとんど息づかいのような声が聞こえた。


「…たすけて」


 もう、普段の石田さんではなかった。明らかに自分のキャパシティを超えたことに、必死に立ち向かおうとしている。今、助けなかったら最悪だ…特に、彼女が頼んでいるんだ。


 僕はぎこちない笑顔を作り、ばれたふりをして頭に手をやった。


「その通りです。僕たち、付き合ってます。他の人には知られたくなかったんです」


 …………………………


 三人の女子は最初は困惑して顔を見合わせたが、すぐに表情を変え、期待に満ちた笑顔を見せた。


 グループの中心らしい八神が、石田さんの手を取り、目を見つめて言った。


「良かったね、石田さん。ずっと恋愛とは無縁で一人でいるのかと思ってた。私達と友達になって、グループに入らない? 今度一緒に話そうよ」


 石田さんは一瞬、動きを止めた。まるで聞いたことを信じられないかのように。それから、顔をぱっと輝かせ、力強くうなずいた。


「はい…! ぜひ、仲間に入れていただきたいです」


 彼女の返事は短かったが、彼女にとっては夢が叶ったかのように聞こえた。結局、それが彼女がずっと望んでいたことなんだから。


 問題は別にあった。


 これから、いったいどうすればいいんだ?《《》》

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