第三話 鑑定スキルの真価
スクロールバーは、遥か下まで続いていた。
「剣士、戦士、魔術師、僧侶、盗賊、狩人……。基本職業全部あるじゃないか」
それ以外にも、見たこともないような職業が並んでいる。
あまりの数に眩暈がしそうになるが、俺は深呼吸をして、一つずつ冷静に吟味していく。
一度クラスを決めたら、次の上位職が出る25レベルまでは転職不可能。
少なくともそれが、教会での転職のルールだ。
ステータスでの転職が同じかは分からないが、慎重に考えるべきだろう。
(……落ち着け。これだけの数があるなら、必ず「正解」があるはずだ)
俺の武器はほかの人よりもゲーム的に自分の能力を俯瞰して捉えられること。
それから、道具屋での勤務で鍛え上げた〈鑑定〉スキルが最大の切り札だ。
通常、この世界の住人は教会へ行き、水晶に手をかざすことで自分のステータスを確認する。
だが、そこで分かるのは「現在の能力値」だけだ。
その職業に就くことで、将来どれくらい強くなるのか。
どんなスキルを覚えるのか。
そういった「詳細データ」は、マスクデータとして隠されている。
だが、俺にはそれが見える。
俺はリストの一番上にあった、メジャーな職業である「剣士」の項目をタップし、詳細を展開した。
――――――――――――――――
【剣士】
[ランク]
下級
[クラスユニーク]
剣術補正・小:剣装備時、攻撃力に小補正
[習得可能スキル]
剣技の習熟(5):剣術スキルのSP消費をわずかに軽減
片手剣術(15):剣を片手で扱った時の攻撃力が少し上がる
[武器適性]
剣B 短剣C
[能力補正]
腕力:130% 魔力:80%
耐久:110% 精神:90%
敏捷:120% 器用:100%
[成長値]
腕力+3 魔力+1
耐久+2 精神+1
敏捷+3 器用+2
幸運+0.1
――――――――――――――――
(……なるほど。これが基準か)
まず見るべきは「能力補正」だ。
これは現在の基礎ステータスに掛かる倍率のことで、例えばこの〈剣士〉の腕力補正は130%だから、剣士になれば腕力が1.3倍になるということ。
俺の今の基礎値は、初期値の10に加え、レベル10の成長で「30」あるはずだから、転職した瞬間に腕力は「39」になる計算だ。
そして、それ以上に重要なのが「成長値」だ。
これはレベルアップ時に加算される固定値のことで、転職しても失われない「本当の強さ」になる。
幸運を除く6項目の合計値は「12」。
これが下級職のスタンダードなのだろう。
続いて、俺はもう一つのメジャー職、「盗賊」を確認する。
――――――――――――――――
【盗賊】
[ランク]
下級
[クラスユニーク]
ドロップアップ・小:ドロップ率に小補正
[習得可能スキル]
トラップ検知(5):ダンジョンの罠を発見できる
解錠(10):宝箱の鍵を開ける
忍び足(15):モンスターから発見されにくくなる
[武器適性]
短剣B 投擲C
[能力補正]
腕力:90% 魔力:120%
耐久:100% 精神:80%
敏捷:130% 器用:110%
[成長値]
腕力+1 魔力+3
耐久+2 精神+1
敏捷+3 器用+2
幸運+0.1
――――――――――――――――
(合計値は同じ12、か)
どうやら、この世界の下級職は「合計12ポイントの成長値をどう割り振るか」でバランスが取られているらしい。
盗賊は敏捷と魔力が高いが、その分、腕力や耐久が低い。
特化するか、バランスを取るか。
普通の冒険者ならここで頭を抱えるところだ。
だが、俺の目はリストの下方にある「特殊枠」に向いていた。
俺が4年間、棒を振り回し続けたことで出現したレア職、〈棒術士〉だ。
――――――――――――――――
【棒術士】
[ランク]
下級
[クラスユニーク]
棒術の心得:棒装備時、攻撃力に中補正
[習得可能スキル]
棒技の習熟(5):棒術スキルのSP消費をわずかに軽減
片手棒術(15):棒を片手で扱った時の攻撃力が少し上がる
[武器適性]
棒A
[能力補正]
腕力:120% 魔力:80%
耐久:120% 精神:100%
敏捷:100% 器用:110%
[成長値]
腕力+3 魔力+1
耐久+3 精神+2
敏捷+2 器用+2
幸運+1
――――――――――――――――
「……強いな」
思わず声が漏れる。
合計成長値が「13」。
通常の職業よりも1ポイントだけ高い。
微々たる差に見えるが、レベルを重ねれば大きな差になる。
何より、武器適性が「棒A」だ。
なんだかんだで使い慣れた棒という武器に、これ以上ないシナジーがあるのは嬉しい。
(第一候補はこれだな)
堅実にいくなら、棒術士で決まりだ。
だが、決定ボタンを押す前に、俺は念のために他の職も確認しておくことにした。
残りはおおよそ、戦闘職以外の「一般職」と呼ばれるクラスだ。
俺はまず初めに〈錬金術師〉の項目を開いた。
――――――――――――――――
【錬金術師】
[ランク]
一般
[能力補正]
腕力:80% 魔力:80%
耐久:80% 精神:80%
敏捷:80% 器用:80%
[成長値]
腕力+1 魔力+1
耐久+1 精神+1
敏捷+1 器用+1
幸運+1
[クラスユニーク]
調合知識:アイテム作成時の成功確率アップ
[習得可能スキル]
調合(1):錬金台でポーションが生成可能になる
[武器適性]
なし
――――――――――――――――
(……やっぱり、弱いか)
成長値の合計はわずか「6」。
戦闘職の半分だ。
補正も80%しかないため、転職した瞬間にステータスが下がる。
生産スキルは魅力的だが、ソロでダンジョンに潜る俺には自殺行為に等しい。
そう思ってリストをスクロールさせていた時だった。
ふと、画面の端にある一つの職業が目に留まった。
〈遊び人〉
俺は思わず眉をひそめた。
周囲から、「道楽者」と呼ばれ続けた俺への当てつけのようなクラス名だ。
世間では「外れ職」「なること自体がデバフ」とまで蔑まれている職業。
興味本位で、その詳細を開いてみる。
「……うわ」
途中まで流し見しただけで、あまりのひどさに思わず声が出た。
――――――――――――――――
【遊び人】
[ランク]
下級
[クラスユニーク]
遊び心:攻撃命中時に確率でファンファーレが鳴る
[習得可能スキル]
口笛(5):口笛が上手く吹けるようになる。すごい!
カスタネット(10):カスタネットが上手く叩けるようになる。すごい!
一輪車(15):一輪車に上手く乗れるようになる。すごい!
豪運(30):幸運の成長値が倍になる。すごい!
[武器適性]
剣E 大剣E 短剣E
槍E 斧E 鞭E 拳E
弓E 投擲E 銃E
[能力補正]
腕力:50% 魔力:50%
耐久:50% 精神:50%
敏捷:50% 器用:50%
――――――――――――――――
どう考えても役に立たないどころか、害にすらなりそうなユニークスキル。
習得スキルも、最後の〈豪運〉を除いてあまりにもひどいし、武器適性も数は多いが全て低い「遊び人」の名に恥じないラインナップ。
そして、極め付きが能力補正。
(いや、オール50%ってなんだよ)
錬金術師などの一般職……戦わない想定の職業ですら80%あるのに、そのさらに下だ。
例えば大器晩成のある俺であっても、これを選んだ瞬間、ステータスは「30」から「15」まで低下する。
才能のない一般人でも「20」の基礎値があるはずだから、それ以下のレベルまで弱体化してしまうわけだ。
(一般職よりダメってすさまじい地雷職だな。そりゃ嫌われるのも当然の……ん?)
画面を閉じようとした指が、ピタリと止まる。
俺の目は、さっき見ていなかった、最後の項目に釘付けになっていた。
「……は?」
能力補正の次に表示されている、[成長値]の項目。
――――――――――――――――
腕力+3 魔力+3
耐久+3 精神+3
敏捷+3 器用+3
幸運+3
――――――――――――――――
そこには、ほかのクラスとは比べ物にならない高い数値が、並んでいた。
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