僕の好きなクラスの美少女ギャルが、放課後に一人で告白の練習をしていた

白玉ぜんざい

第1話 嘘から始まる物語①


「あの、伊吹くん。好きです! あたしと、つ……付き合ってくださいっ!」


 放課後の教室。

 忘れ物をしたので取りに来てみれば、夕日が差し込む教室に一人の女子生徒がいた。

 声が聞こえて、咄嗟にドアの陰に身を隠す。


 彼女は月宮結葉つきみやゆいは

 僕、間宮秋人まみやあきひとが所属する一年一組の中でも、カーストトップのグループにいる陽キャ女子だ。


 明るい性格とノリの良さで友達も多く、男子の中では人気も高い。告白をする生徒だってそこそこいたはず。


 かくいう僕も、実はと言うと月宮のことが好きなわけで。


 そんな僕の好きな人が、放課後の教室という絶好のシチュエーションで告白――。


「……んー、こんなもんなのかな。もうちょっとセリフ練った方がいいか?」


 ――の練習をしていた……。


 告白の練習してる。

 え、まじで?

 思わず半ドア状態の隙間から教室の中を覗いてしまう。さっきは月宮しか見えてなかったけど、改めて見渡せばやはり彼女しかいない。


 普通、こんなところでするか?

 練習はどこでもいいだろ。なに形から入ってんだよ。おかげで告白する前に失恋しちまったじゃないか。


 いや、まあ、付き合えるなんて思ってなかったけどさ。この先もずっと、こうして遠くから眺めているだけだということは分かっていたから、別にいいんだけど……。


 有り得ない未来に期待を膨らませるほど僕はロマンチストではない。

 だから、遠くから眺めていることにした。

 朝、登校して教室で月宮の姿を見ただけで眠気が吹っ飛ぶ。挨拶できた日には頭の中で踊り狂うまである。


 ……推しのアイドルに彼氏がいたことがフライデーされたときのオタクって、こういう気持ちなのかなぁ。


 一人がくりと項垂れた僕は、覗いていたことがバレる前に、さっさと退散することにした。


 が、動揺していたのか、ついガタンとドアに足をぶつけてしまって。


「だ、誰っ!?」


 当然、中にいた月宮に気づかれてしまった。

 やばいやばいやばいやばい。

 挨拶を交わすだけで満足していたのに、その挨拶さえもされなくなってしまうぞ。


 けど、逃げることもできそうにない。今も彼女は焦りに満ちた表情でこちらに向かってきているから、逃げ切る前に後ろ姿でバレる。


 かくなる上は……。


「にゃ、にゃおーん」


 我ながら似ていると自負している猫の鳴き真似を披露した。


 ど、どうだ?


「……なぁんだ。猫か」


 こちらに迫る足音は止まり、月宮の納得した声が聞こえた。

 まじで? いけた?

 初めてこの作戦で上手くいったんだけど。ちょっと嬉しい。


「って、んなわけあるかー!!!!!!!!」


「やっぱりダメだったッ!」


 バレました。



 *



 肩辺りまで伸びた亜麻色の髪がさらさらと揺れる。

 じいっとこちらを見つめてくる……いや、客観的に言えば睨んできている彼女から、思わず視線を逸らしてしまう。


 すると。

  

「あ、目逸らした! やっぱり覗いてたんだ!?」


 机一つ分くらい空いていた僕と彼女の距離が一気に詰められる。それに反応した僕が咄嗟に一歩下がった。


「いやいや、僕レベルの人間はきらきらした女子と三秒以上は目を合わせられないんだよ!」


 童貞の主張に、月宮が足を止める。そして、眉をひそめた。

 

「なんで?」


「いやなんでって……」


 恥ずかしいというか、照れるからだけど、それをいざ口にするのは躊躇われるな。相手が何も思っていないだけに、なおのことだ。


「後ろめたいことがあるからでしょ?」


「違う。女子に免疫のない男子は大抵ここがスタートラインなんだよ」


 覗いていたことがバレてしまった僕は最終手段として、ついさっきあの場に到着したから何も知らないという意見を主張していた。


「ほんっとうに何も見てないの?」


「見てないよ。告白の練習なんてこれっぽっちも……あ」


「見てんじゃねえかッ!!!!!」


 でこを思いっきりぺしんと叩かれた。痛みはほとんどなく衝撃を与えられただけだけど。


 眉間にしわを寄せた月宮がメンチを切るような迫力で睨んでくるものだから、僕は肩を縮こまらせてぺこりと頭を下げた。


「申し訳ありません! 見てないことにして僕が墓場まで持っていけば問題ないと思いました!!!」


「全部言うなぁ……まあ、聞かれたのは分かってたけども」


 先ほどのメンチ顔からは想像できないが、前に立つ月宮から怒気は感じない。吐き出された呟きからも力は抜けている。


 僕は恐る恐る顔を上げていく。

 短めのチェックスカートから伸びた太ももと脚から、キャメル色のカーディガンと視線を上げる。


 そして、そのまま細い首を経由して顔を見れば、不審者でも見るような蔑む目が僕を捉えていた。やっぱ怒ってるな。


「人の体を吟味するな」


「……あ、そっちね。いや、そもそも吟味してないけど」


「男子が思ってるより、女子は自分への視線って分かるんだからね」


 まじかぁ。

 気をつけよ。


「そんなことはさておき」


「勝手にさておくな」


 誤魔化そうと、メガネをくいっと上げながら背中を伸ばした僕に、月宮がズバッと冷たい言葉を浴びせてくる。

 しかし、すぐに「まあいいけど」と流すところ、結局のところノリが軽い。


「それよりも重要な話があるもんね」


「……はあ」


 月宮はそこにあった机に体重を預ける。ガタンと動いた机は壁にぶつかり動きを止めた。

 窓から差し込む夕日が照らす月宮の顔はやっぱり綺麗で、可愛いと美しいの中間くらいで、両方を行き来している。


「あたしの秘密を知られた以上、そっちの秘密を教えてもらいます」


「……絶対にバラさないと誓っても?」


「誓ってもです」


 そりゃそうだ。

 人の言葉なんて、しょせんは言葉でしかない。そこに何の重さもないのだから、状況次第では平気で裏切られる。


 そう考えると、同じように秘密を握るというのは賢明な判断だ。


「あたしの好きな人と同等の秘密を教えて?」


「秘密、と言われてもなぁ……」


 あんまり隠し事はしてないんだよな。

 ピーマンは克服したと言っているけど、実はまだ好きじゃないと言っても納得してくれないだろうし。


 相手は女子だから、性癖晒すわけにもいかない。というか、そこまでして同等の秘密じゃないとか言われたら晒し損だ。


 秘密の重さなんて人それぞれなのだから、同等の秘密なんて言われても測れない。

 なので、晒し損を避ける最も確実な方法は、こちらもを教えるのが一番ではあるんだけど……。


『僕の好きな人はあなたなんです。月宮結葉さん』


 とか、この場で言えるわけないだろ!

 なんだそのド直球ダイレクト告白は。即答で振られること請け合いだ。それはなんか、ちょっと嫌だぞ。


 分かってる。

 付き合えないというのが現実なのは、皆まで言われるまでもない。


 けどさあ、かと言ってバッサリ来られる覚悟はないので、その辺はふわっとさせておきたいのだ。


「ないの? 秘密……健全な男子高校生なんだから、好きな人の一人や二人いるでしょ?」


「いや二人いちゃダメだろ……けど、まあ……」


 仕方ない。

 ここはこの場を丸く収めるために――。


「……好きな人は、いるよ」


 ――好きな人をでっち上げよう。



――――――


新作です。

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2026年1月1日 20:32 毎日 20:32

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