転生女神と聖母テティアの創世譚 〜追放された母娘が世界の闇を浄化するまで〜

とまと🍅

第一章 プロローグ

第1話 誕生と消滅

 母なる世界の力場が溢れ出し、下層に新たな位相界が産声を上げた。


​ その位相に二人の女神が降臨する。


 だが、彼女たちは互いに対極の力を宿していた。


 そこは、光と闇が絶えず交差する宿命の位相界であった。


​ 拮抗する二つの力は、激しく反発しながらも、磁石のように惹かれ合った。


 闇は光を溺愛し、光はやがて闇を嫌悪した。愛深きがゆえに。


 同じ位相の中に別々の神界を創生した彼女たちは、永きに渡りそれぞれの神界を治めてきた。


​ だが、相反する権能を持ち、同位相のリソースを分け合う者同士、衝突は必然だったのかもしれない。


 ついに、光が溢れ、闇を淘汰せんと静謐は破られ、神々の争いへと発展した。


​~~~~〜〜


​ 空間を支配するのは、衝突する光と闇の閃光。


 互いの権能を上書きせんとする、神域の塗り替え。


 漆黒の髪と衣を靡かせた闇の女神は、八枚の黒翼を羽ばたかせ、光の女神が放つ幾千の光線を回避しながら遊撃に転じる。


 対する光の女神は、さらなる熱量を解放。


 幾筋もの閃光が虚空に軌跡を刻み、混沌とした空間を激しく明滅させた。

 ――戦いが始まって、幾光年。


 果てなき光闇の衝突は、ついに終焉のときを迎える。


​ 光の女神は、勝利を確信したように嘲笑った。白銀の髪と純白のオーロラを翻し、神戟しんげきから至高の輝きを放つ。


​ その一撃は、光を凌駕し闇を切り裂いた。


 連鎖するエーテル爆発の中、闇の女神は八枚の黒翼を盾とし、シールドを展開する。


 しかし、標的を追尾する権能を付与された神戟の光は、幾万の閃光へと増殖。


 逃げ場を失わせる「面」の攻撃となり、ついに闇の女神を捉えた。


​ 闇の女神は即座に「アストラルフィールド」を展開。


 次元断層によって、物理的な隔絶を壁とする。


 だが、光の女神は「次元跳躍」を概念に被せ、その断層を無効化した。


​ 闇の女神が座標転移を試みるも、術式そのものに干渉され、逃げ道は完全に封じられる。


 全方位からの攻撃が、無防備な彼女へと収束した。


​ 直後、天地開闢てんちかいびゃくにも似た光の神力の奔流が爆発する。


 激しい衝撃が闇の女神を飲み込み、防護シールドは霧散した。


 一撃は神格魂しんかくこんを深く穿ち、彼女から女神としての十全な力を奪い去った。


​ 長きに渡る消耗と、防御に徹せざるを得なかった劣勢。長きに渡る攻防で光の神力の残渣が留まり続けた。


 直撃を受けた闇の女神の神格は深く傷つき、彼女は苦悶に表情を歪めた。


 荒い息を吐きながら、間近に迫る光の女神の、圧倒的な昂ぶりを感じていた。


〜〜〜〜〜〜


​ 闇の神界が、かつてない光の神気に蹂躙されていく。それに比例し神界に留まり続ける光の神力。


 深淵なる闇の領域は白銀に侵食され、七色の輝きが光の女神の手元へと収束していった。

 闇の女神は悟る。次の一撃が、永遠の別れを告げる最後の大技になることを。


​「虹神滅魂戟エネミーソウルブレイク――ッ!!」


​ 放たれたのは、光の女神が姉を滅ぼすためだけに編み出した概念攻撃。


 闇の神格を「ゲシュタルト崩壊」へと導き、存在の根源から消滅させる術式である。


 あまりに深く傷ついた闇の女神には、盾を張る力も、回避する余力も残されてはいなかった。


​ いや、張る気力が持てなかった。愛を捧げた妹からの残酷な絶縁状だったからだ。闇の女神は慈愛と博愛の権能が強過ぎた、愛が深かったからだ。


 迫りくる光の本流を、彼女はどこか遠い目で見つめる。


 脳裏をよぎるのは、争いなど知らなかった姉妹の日々、妹の笑い声、楽しかった日々、愛しさが溢れる想い。


 共に位相界を創生し、手を取り合って神界を築いた記憶。


 無邪気に笑っていた幼き日の妹の面影が、死を運ぶ虹色の光景と重なった。


 闇の女神は、終わりを受け入れるように静かに瞳を閉じ、全てを受け入れる。


​ 直撃。一瞬の記憶の空白。心が軋む哀愁。


 光に呑まれ、彼女の神格魂は闇の神界へと霧散し、音を立てて崩壊していく。


 その喪失する神界を想い、母なる世界から自身に託されたこの位相は、母の愛の証だと信じて、育て、慈しみ、共にあった。


 失うことへの葛藤から、自らの存在を希望へと繋ぐため全てを捧げ力を開放する。


​ 「くっ……。闇の神界よ、妾に仇なす外敵を退け、永久とわに閉じよ!」


​ 消えゆく意識の中、彼女は魂の力を振り絞った。


 己の消滅とともに神界の外郭を封鎖し、過去の思い出ごとすべてを拒絶し、母の愛の証を残すために。


 異分子である光の女神を神界から弾き出すため、外部からの干渉を断絶した。

 薄れゆく視界の端で、妹――“マーキュリウス”の姿を追う。


 闇の女神は、妹を心から愛していた。ゆえに、この永き戦いにおいても致命的な一撃は一度として放たず、ただ耐え忍んできたのだった。


 だが、その慈悲が、その愛が仇となった。暴走する妹を窘めることもできず、自分は今、滅ぼされようとしている。

(これで、よかったのか……これが定めなのか………。)

 姉として導けなかった後悔と、最期まで妹を愛し抜いてしまった自分への忸怩じくじたる思い。彼女は血が滲むほどに唇を噛み締めた。しかし、後悔は無い。


 闇の権能を授かり、闇と相反する慈愛と希望の権能を同時に授かったことで、闇の女神は不完全だったのかもしれない。


​ 一方、勝利を確信した光の女神は、崩れゆく姉“アフロディーテ”へ冷徹に言い放つ。


​ 「この位相には、お姉様はいらないの、私(光)だけが存在すればいいのよ……」


​ 黄金の光に包まれた彼女の瞳には、一切の迷いもなかった。


​「姉妹ごっこは、もう終わり。お姉様……永遠にさようなら」


​「………………」

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