夢の中に出てきた謎の美少女がいつのまにか僕との日常でラブコメを始めていました
秋山壮一郎
第1話 僕とあの子の出会い
僕は久しぶりに夢を見た。どれくらい久しぶりかと言われれば多分、10年ぶりぐらいだと思う。
その夢の中ではあたりは現代みたいなビルが立ち並ぶ都会とは全く違う場所で木造の家屋が多く立ち並んで道路も土の道がその間を通るのみでそれ以外は山や川、木々たちが緑や水色を携えて風などに揺れている。
だけど、その長閑な風景は突然に真っ暗になる。
その奥には巨大な人影のようなものが聳えてて、真っ直ぐに僕の方を見つめてくる。
ここまでは昔に見た時と変わらない。だけど今見た夢はその時とは違う部分が一つだけあった。
それはその人影の正体は女の子。それも僕と年齢はあまり変わらないような子の面影が感じられること。
その女の子の顔はよく見えないが、暗闇でもはっきりとわかる整った輪郭、月に照らされ輝きを放つ黒く長い髪、着物のような服装からもわかる体のラインやスタイルの良さ、そこから覗き込み、唯一僕も見ることができたその巨大な深淵を纏う黒い目に夢の中ながら僕は吸い込まれていくような感覚を覚えると同時に何故か胸の中の鼓動が一秒一秒早まっていくような様子が体中を伝っていき、またその瞳の中には孤独や哀しさのようなものが潜んでいるようかのような訴えが僕を貫いていく。
そんなとても不思議な女の子の夢だった。
そしてその夢を見た日を境にして僕はある女の子と何か運命のような出会いを果たして、今までの殺風景な日常とは全く違う歩みが僕を引き寄せることになるとはこの夢を見たときには想像すらついていなかった......。
ピリリリリ.....ピリリリリ.....
「ん?もう朝?.......」
僕はスマホから鳴り響くアラームの音でまだ完全に眠りから覚めきってない体を無理やりに起こし、眠たい目を擦る。
(あの夢のせいであんまり寝れた気がしない.....)
軽い寝癖がポツポツと立ち並び、頭を掻きむしりながらいつもと変わらない日常を始めるため、布団をどかし、僕の部屋からリビングへと向かおうとしていた。
そんな僕の名前は石巻太一。特段何かに優れているわけでもない。いわば平凡な高校生ってわけだ。
1ヶ月前から高校2年生になったんだけど、去年の入学したての頃から比べると入学前に抱いていた青春物語のようなキラキラした世界とは程遠いなんとも地味な日常を繰り返している。
別に今の学園生活に不満はないんだけど、淡ーい恋とか友達との部活とかを通した友情みたいなのは今のところ皆無に等しいのだ。
(このまま何も青春ぽいことせずに高校卒業しちゃうんだろうなぁ。)
僕はそんな未来に若干のため息を吐きながら、遅刻しないように学校へと向かう準備を淡々と進めていった。
(てか、今日も父さん遅いのかな。今日は夜何作ろっかな。考えとかないと。)
それに僕の家は早くに母さんが亡くなってて、父さんが男手ひとつで育ててくれている。
だけど、その影響で父さんは仕事が忙しくて一緒にいれる時間は1ヶ月の中でも片手で数えるほどしかない。
学校へ行って、家に帰って、ご飯作って、寝る。
僕の入学から今日までのルーティンはこの要約で事足りるのだ。
そんな日常を今日も僕は繰り返す。.......はずだったんだけど。まさかあ・ん・な・子・が僕の目の前に現れるだなんて.......
そんなことを知りもしないこの時の僕は鬱々とした心を抱えながら、重たい玄関の扉を開け、いつも通りの日常へと繰り出していった。
「おはよ〜!!」
「おっは〜!!」
「おは〜」
登校中、僕の耳には次々と同級生や先輩、後輩たちのそれぞれの友人との朝の挨拶が飛び交って行く。
「よっ!何しょげた顔してんだ!朝っぱらから!」
「なんだ。彰人か。脅かすなよ」
「相変わらずぶっきらぼうな言い方だなぁ〜。もっと愛想良くしねえと彼女なんか出来ねぇぞ」
「うるさい」
僕にこうしてウザ絡みをしてくるこいつの名前は多田彰人1年生の時に同じクラスになってから何故か席が近いことが多く、お互いの好きな漫画や音楽がある程度一致したこともあって、なんだかんだ一番仲の良い友達になっていた。
「そういや、太一。聞いた?あの話」
「ん?何のこと?」
「あれ?お前知らなかったのか。昭一の件」
(昭一?......あいつ何かあったっけ?)
昭一というのは彰人の中学時代からの友達でそれをつてに僕も仲良くなった川辺昭一のことだ。
昭一は少し人見知りなところがあり、僕とも最初はあまり話してくれなかったが、1年の3学期には心を開いてくれるようになり、時々冗談も混ざり合えるほどの仲になったが、2年になって別々のクラスになってからはたまに会話を交わす程度になり、近況はあまり知らないでいる。
「あいつ、最近告白されたんだよ。しかもその相手はあの3組の笹野だってよ!びっくりだよな」
「笹野!?ほんとか?それ」
笹野こと笹野姫花といえばうちの学校でも3本指に入るんじゃないかと言われているほどの超絶美人だ。
しかも、社交的で裏表のない性格は男女共に人気あるまさに完璧な女の子。
(まさか、昭一と付き合うとは.....全く人というのはわからんな)
「まあ、昭一は優しいし、何人かの女子からは人気はあったからな。いずれ彼女の一人ぐらいはできるとは思ってたけど、まさか笹野とはなぁ。羨ましいぜ!」
「そういう彰人だって彼女いるだろ。何羨ましがってんだ」
「まあ、そうだけど、流石に1年も付き合うと若干マンネリっていうかなんというか.......新しい刺激が欲しくなるんだよなぁ〜」
(全く。贅沢な悩みしやがるな。こいつは)
もちろん、彰人や昭一だけではない。青春をこの上なく謳歌しているやつは他にもたくさんいる。
一方僕はといえば部活も去年のうちにバスケ部を退部しているし、恋愛の方も好意を向けられるわけでもまた誰かに向けるわけでもない。
入学前に期待していた淡い青春の幻想を僕の周りは次々に実現しているのに僕の場合はそんな機会は滅多に訪れることはない。
「はぁ〜あ。僕も青春したいなぁ〜」
「お?珍しく感情的じゃない。心配するなって!そのうちあるさ!出会いがな?保証はできんけど」
「励ましになってない励ましありがとう」
(あ〜。なんか新しい出会いがどっかから降ってこないかな〜。例えば.......)
今・日・夢・で・見・た・あ・の・女・の・子・と・か・
「そんなことあるわけないか......」
「ん?なんか言ったか?」
「んいや。何も」
(まあ。そんな都合よく現れてくれるわけないか.....)
僕はそう心の中でため息をつきながら、変わり映えのない新しい1週間の始まりとなる月曜日の学校へと彰人と共に迎えるべく歩みを進めていった。
* * *
「はぁ〜!!やっと終わった〜!!けど、これがまた6日繰り返しって思うと萎えてくるな.......」
ホームルームを終え、教室での今日という日を終えた生徒たちは部活、寄り道、はたまた真っ直ぐ帰宅などそれぞれの1日の続きがある。
僕の隣で文句をぶつぶつと唱えている彰人もこれからサッカー部へと行かなければならず、俺と変わってくれと毎度おなじみの台詞をかましてくる。
「いいよな〜。お前はすぐに帰れるから。俺も帰宅部に入ればよかったかな〜」
「まあ、せいぜい頑張って。僕はすぐにでも帰るからね」
「チッ。羨ましい......じゃあ、また明日な〜」
そうやって下駄箱で解散を済ませると僕は授業中に考え、ようやく決まった今日の晩御飯の材料を調達するためにスーパーへと寄るため、帰路を急いだ。
(今日は出来ればパスタにしたいんだけど、この時間だとちょっと安くなってそうだよね)
僕の家からは徒歩15分、学校からは徒歩10分程度のところにある最寄りのスーパーに寄り、夕方の影響で始まる割引の食材などを漁りながら、足りなくなってきていた調味料たちも一応新しく買い足していく。
(よし。まあ、大体これぐらいでいいかな。この調子だと帰りは18時近くになりそう)
僕は家に帰り着いた後の料理、入浴、明日の準備とある程度の計画を頭の中で組み立てながら、少々重い食材を入れた袋を持って帰路についている。
夏に向けた若干の蒸し暑さのようなものが肌に触れ、そのジメジメさとの葛藤を経ながら、一歩一歩と我が家に近づいていく。
(ようやっと着いたな。えっと鍵.....鍵っと......)
僕は雑に鍵を突っ込んでおいたポケットの中をガサゴソと乱雑に漁り、奥底に沈んでいた鍵をようやく取り出すとエントランスの扉を開けて、家がある4階のエレベーターのボタンを押し、来るのを待っている。
無人のエレベーターへと乗り込り、自分の部屋へと繋がるマンションの廊下をコツコツと靴のことを響かせながら
家の扉を開けるため、鍵を入れる。
(あれ?.....おかしいな.....)
今日は確か鍵を二つ閉めたはずなのに僕が今帰ってきた段階ではなぜか鍵が開けっぱなしになっている。
(なんで鍵が開いてたんだろう。もしかして......泥棒!?勘弁してくれよ......こっちは疲れてやっと帰ってきたのに)
心の中で一人文句を呟きながら、音を立てないようにそっと靴を脱ぎ、恐る恐るリビングの方へと向かう。
(電気はつけないほうがいいな。少し暗いけど、もしほんとに泥棒だったら、気づかれたら最悪だもんな)
ガチャ.......
(!!!!まずい!!もしかして気づかれた!)
その音の正体は父さんの部屋の扉から聞こえたものであることがわかった。
その音を捉え、身を守るため咄嗟に鞄を盾のようにして身構える。
(嘘だろ......僕.....もしかしたら最悪殺されるんじゃ.......)
僕はそんな悪い一つの未来を想像してしまい、極度の緊張から来る心臓の鼓動の早さや額から小粒ながらも大量の汗が流れているのが触らずともわかった。
(やばい!!来る!!)
扉が完全に開き、僕はそれと同時に頭から胸にかけてを覆うように身構えるポーズをとる。
「ちょっと。そんな盗人が入ったみたいな対応しないでよ。私は何にもしないよ」
(神様!......どうか僕をこの状況からお守りください!!.....って.....ん?......今のって女性の声?)
僕はゆっくりと盾代わりとなった鞄を膝下へと下げていく。
「あっ。思ったより遅かったじゃん。おかえり」
「え......君って......」
僕は固まって動けなかった。多分さっきの緊張の反動であるのかもしれない。
だけれど、それ以上に今僕の目の前に立っているその女の子に対する衝撃から来たものとする方が今の状態にはしっくり来るのかもしれない。
それは.....僕の目の前にいる女の子があの夢の中に出てきた彼女とそっくりであったからだったのだ。
そう。これが僕と彼女のきちんとした最初の出会い。
そして、その新たな青春の物語の始まるを告げるものでもあったのだった。
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