寺生まれのちーちゃん!
羽柴56
寺生まれのちーちゃん!
「えぇ、はい。ライターの加賀美 春子(かがみ はるこ)です。 編集の
私は車をトンネル手前の山道の路肩に止め、電話でレポートの確認を済ませていた。
座席の後ろからは、かわいらしい寝息が聞こえる。 どうやら相棒は起きる気配はない。すーすー、と寝息が途切れることはなかった。
クーラーが効いてるとは言えこの時期にゴスロリ服は暑いだろうに……。
目的地についたことで私は後部座席へ「ちーちゃん」と呼びかけるも、手元の雑誌を投げられやむなく一人で外へ出る。
「ふー! やっと着いた〜! さすがに東京から長野の奥地は遠いわね〜!」
私達は東京から長野まで、車を走らせ山中の廃トンネル前まで来ていた。
長旅の運転は腰に来る。探索前に盛大な伸びをしてみる。ポキポキと背中が鳴った。
少々運動不足が祟っている。
はぁ……、腰も肩も痛い。
こんな時代に、幽霊なんて『死語』に近い。
それでも霊感ゼロの素人が、金銭の為に心霊スポットに足を運ぶ。
普通に考えれば、正気じゃない。
別に、心霊が好きなわけでもない。
それでもこの仕事に執着するのは、隣に彼女がいるからだ。
そんな相棒、「ちーちゃん」こと須川 千聖(すがわ ちさと)はここまでの道中、後部座席で爆睡していた。
あどけない寝姿を晒した少女。
こんな仕事をしているのに、無事でいられているのは全て彼女のおかげだった。
私はちーちゃんを車の中に置いて、下見として、トンネルの真っ暗な先を5分ほど眺めていた。
中を照らす様に、車のヘッドライトはつけたままだ。彼女は未だに車で寝ているだろう。寝起きが悪いのだ。 もう少し待った方がいい。
先ほどよりひどい目に遭うのは目に見えている。
黄昏るように夕暮れの風に耳を澄ませていると、不意にちーちゃんから声を掛けられた。
「ハル! タバコ持ってない?」
どうやら彼女はニコチンが切れて、起き出したようだ。
こんな場所で急に後ろから声を掛けるのはやめて欲しい……。心臓がびくりと、跳ね上がるのだ。
私はやれやれと振り向く。
振り向いた先には、真っ赤なゴスロリ服からタバコの臭いを漂わせた140cmほどの美少女がいた。
この派手で、小学生にしか見えない少女が相棒のちーちゃん。私と同じ24歳の立派な成人女性だ。
「加熱式の電子タバコしかないけどいい?」
「まぁ……いいわ」
ちーちゃんは紙巻きタバコ派だ。
不満そうに私の手から電子タバコをひったくると、すぐに起動して水蒸気を口から吐き出した。
ちーちゃんは口元からタバコを離すと、可愛らしい風貌に似合わない渋い顔をして感想を漏らす。
「相変わらず電子タバコって焼き芋の匂いがするわね。なんだか、食べたくなっちゃった。 帰りに買って帰りましょ?」
「今夏だよ〜? どこにも売ってないって。 あとたばこ吸い過ぎてない? ちょっと色々混じって変な匂いするよ?」
今は初夏の7月。
夕方で日が落ち始め、避暑地の長野とは言え半袖でじっとり汗ばむ陽気だ。
普段から真夏でもゴスロリ服で、汗をダラダラ流し夏バテで食事などほとんど食べない彼女にしては、珍しく食欲旺盛な事を言い出すのだった。
私はちーちゃんがタバコを吸い終わるのを待つ間、ライトを取りに車に引き返そうとした。
そんな私をちーちゃんが呼び止める。
「暑いからさっさとトンネルに入るわよ? 真っ暗になったら危ないし!」
そう言って私を置いて、彼女はずんずんと先に進んで行った。
私はスマホの充電を確認し、充分にある事を確認すると、ため息一つ。
「待ってよ〜!」と彼女の後ろに続いて、廃トンネルに入って行った。
スマホのライトを照らし、トンネルの奥を探る。
廃トンネルだけあり、大きな石や、ゴミが拡がり、スプレーの落書きが壁面を彩っていた。
「マルコ最強!!」など、不良学生が溜まり場にしていた様な跡もある。
心霊スポットとしての危険さより、単純な空き地としての怖さの方が勝る。 そんな場所だった。
私はスマホで、この廃トンネルの
正式名称は
近場には城の跡地があり、城が滅んだあと苔むすぶまで雨ざらしになった事でその地名がついた。
城の近場には炭鉱もありそこで亡くなった者や、城で討死した者達の呪いがここを自殺の名所にしたと記述されていた。
正直――。
「よくある話よね〜! こういうのって全国各地にあるし、暗いトンネルってだけで皆怖がるのよね。 あとは近場の悲劇と勝手に結びつけて完成ってやつ!」
私はスマホの画面から目を離して、視線を上げながら大きな声を出す。
トンネル内で、声はよく反響した。
しかし、目の前にいたはずのちーちゃんはそこにはいない。
「ちょっと……ねぇ……?」
「どこ? どこにいるの?」
ちーちゃんがいない。
私は唯一の頼りを失った。
その事に気づいて、全身が総毛立つのを感じた。
こんな事初めてだ。
彼女が消えるなど……。
むしろ私が危なくなれば、呼んでなくてもどこからともなく現れる。
そんな不思議な相棒。
それがちーちゃんだった。
私は目線をキョロキョロと彷徨わせる。
右。いない。
左。いない。
上。いるわけない。
後ろ。遠く、トンネルの入り口にヘッドライトだけ着けたまま置き去りにした車が見えた。
私は心細くなり、その車のライトへ向き直り、
光に誘われる蛾の様に、ふらふらと歩きだした。
その瞬間、膝裏を蹴られた。
「あだっ!」
私は前のめりで地面に突っ込む。
ぎりぎり手はついたが、結構痛い。
何事かと、振り向くとそこにはちーちゃんがむくれていた。
「あんたねぇ……? 何? わざと? すぐ下にいたのに」
「あぁ~ごめん……。ちーちゃん小さ、あだぁ!」
座りこんだ私に、ちーちゃんの鉄拳が落ちる。
私は170を超える比較的長身だが、ちーちゃんはだいぶ小柄。
たまに視線から彼女が消えて、足元にいるというのは私達の関係ではよくあることだ。
(なんで気づかなかったんだろ? まぁいいや)
ぷりぷりと怒る姿が可愛くて、どうでも良くなってしまう。
「終わったら焼き芋買いに行くから、機嫌治して?」
そう言うとちーちゃんはぷいっとそっぽを向きながら、右手を差し出して来た。
どうやら許してくれるようだ。
差し出された右手はひんやりと冷たかった。
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