トリプル「J」アイドル

安田創一郎

第1期

第1期 第1話:出会いとスカウト

【A:高島国際女学院高校への入学】


 春の陽気が東京の街を包み込む四月。  新宿しんじゅく駅の新南改札からほど近い場所にそびえ立つ、真新しい校舎。そこは、多様な国籍の生徒たちが集う「高島たかしま国際こくさい女学院じょがくいん高校こうこう」だ。


「わぁ~! 今日からここが私たちの学校なんだね! すっごく大きいよ!」


 真新しい制服(セーラー服タイプ)に身を包み、目を輝かせているのはたいらアンナ。茶色のボブヘアに右サイドテール、そして銀色の眼鏡がトレードマークの少女だ。


「いいい! ひひひ! ここなら廊下でダッシュしても怒られなさそうっすね!」 「めぐちゃん、それは流石に怒られると思います……」


 走り出しそうな勢いのスポーツ少女・川原かわはらめぐみを、おっとりとした榛名はるなひかりが苦笑いでたしなめる。


「……クソ、人が多いわね。制服のデザインは悪くないけど」 「ほら、律。文句を言わない。入学式ですよ」


 小柄で不機嫌そうな加部かべりつと、それを冷静に諭す藤原ふじわら歌南かな。  保育園の頃からの幼馴染であるこの5人は、揃って同じ高校への入学を果たしたのだ。


 クラス分けやオリエンテーションを終え、初めての高校生活の初日はあっという間に過ぎていった。夕方、彼女たちは自然といつもの場所へと足を向けていた。


【B:夕暮れの会堂(シナゴーグ)】


 5人が向かったのは、新宿区信濃町にある煉瓦れんが造りの建物。  そこは、アンナのルーツであるユダヤ教の礼拝所、「会堂(シナゴーグ)」だった。彼女たちにとっては、小さい頃からの遊び場であり、心の拠り所でもある。


「あれっ? ない! ないよぉ!」


 会堂の入り口で、アンナが鞄の中をひっくり返して慌て始めた。


「アンナ、どうしました?」 「かなちゃん……聖書! 聖書忘れちゃった! お祈りできないよぉ~」


 アンナのドジに、歌南は呆れたようにため息をつくが、その手はすぐに自分の鞄へと伸びていた。


「……はぁ。ほら、私のを使ってください。私は暗唱できていますから」 「わぁ! ありがとうかなちゃん! 大好き!」


 アンナは歌南に抱きつこうとするが、歌南はそれを軽くかわし、律と恵、ひかりと共に静かに会堂の中へと入っていく。  ステンドグラスから差し込む夕日が、5人の背中を優しく照らしていた。無事に入学できたことを、静かに祈るために。


【C:運命の再会】


 静寂の中、祈りを捧げていた5人の背後に、コツコツという足音が近づいてきた。


「……素晴らしいお祈りだね」


 振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。頭にはユダヤ教の小さな帽子「キッパ」を載せている。  アンナは、その顔を見て目を見開いた。


「ああっ! お財布の!」


 それは3年前、アンナが落とし物の財布を拾って届けた相手、佐々木プロデューサーだった。


「久しぶりだね、アンナちゃん。それにみんなも」


 佐々木は優しく微笑むと、驚く5人を見渡し、単刀直入に切り出した。


「実は、君たちにお願いがあって来たんだ。……僕が新しく立ち上げた芸能事務所、『WPだぶるぴー001おーわんプロダクション』で、アイドルになってくれないか?」


【D:戸惑いとスカウト】


「ア、アイドルぅ!?」


 静かな会堂に、5人の素っ頓狂な声が響いた。


「いやいやいや! 無理っすよ! わたし、走るのしか能がないっすもん!」  恵が手を振って後ずさりする。


「……クソ、何言ってるのこの人。あたしは裏方志望よ。表に出るなんて冗談じゃないわ」  律も冷ややかな視線を向ける。


「ひかりも……ピアノなら弾けるけど、踊ったりするのは……」  ひかりが不安そうに歌南の袖を掴む。


 歌南は眼鏡の位置を直しながら、冷静に佐々木に問う。 「佐々木さん。私たちは素人です。それに、これだけの人数を一度にスカウトするなんて……正気ですか?」


 しかし、佐々木は真剣な眼差しを崩さなかった。 「本気だよ。君たちのその『絆』と、それぞれの『個性』が……これからの時代に必要なんだ」


 佐々木は、アンナの目を真っ直ぐに見た。 「アンナちゃん。君の笑顔には、世界を変える力がある。僕はそう信じているよ」


【E:それぞれの決断】


 会堂を後にし、それぞれ帰路についた5人。  アンナは帰宅後、リビングで養父と養母に向き合った。


「お養父(とお)さん、お養母(かあ)さん。……私、スカウトされたの。アイドルに」


 アンナは不安だった。ユダヤ人である自分が、日本のアイドルになれるのか。また差別されるのではないか。  しかし、養父母は顔を見合わせ、温かく微笑んだ。


「アンナがやりたいなら、私たちは全力で応援するよ」 「パパとママも、きっと空の上で喜んでくれるわ」


 その言葉に背中を押されたアンナは、すぐにスマホを取り出し、グループ通話をかけた。


『もしもし、アンナちゃん?』 『いいい! どうしたっすか?』 『……クソ、また何かやらかしたの?』 『静かに。アンナ、どうしました?』


 画面の向こうの4人に、アンナは告げた。 「私……アイドル、やってみたい! みんなと一緒に、もっと色んな景色が見てみたいの!」


 その言葉に、電話の向こうで沈黙が流れる。そして――。


『……ひかりも、アンナちゃんと一緒なら、頑張れる気がする』 『へへっ、面白そうっすね! 体力作りなら任せろっす!』 『……はぁ。アンタ一人じゃ心配だしね。衣装くらいなら見てあげるわよ』 『仕方ありませんね。あなたが道に迷わないよう、私が管理します』


 5人の心が、一つに決まった瞬間だった。


【F:WP001プロダクションへ】


 翌日の放課後。  アンナ、ひかり、歌南、恵、律の5人は、四谷三丁目にある「WP001プロダクション」の事務所を訪れた。


「こんにちはー! ……あ、あれ?」


 オフィスに入ると、佐々木プロデューサーが満面の笑みで迎えた。 「待っていたよ、みんな!」


 そして、奥のデスクから、威厳のある男性が立ち上がった。日高社長だ。  一瞬、その強面(こわもて)に緊張する5人だったが、日高社長はニカっと笑い、力強く言った。


「よう来たな。これからよろしく頼むぞ、未来のスターたち!」


 アンナは胸元の金色のハムサをぎゅっと握りしめ、大きな声で返事をした。


「はいっ! よろしくお願いします!」


 普通の高校生だった5人の少女たちが、「アイドル」としての第一歩を踏み出した瞬間。  それは、後に世界へ「シャローム(平和)」を届けることになる、女神(Déesse)たちの物語の始まりだった。


(第2話へ続く)


✡️ 【あとがき】(近況ノート用)

【タイトル:はじめまして!「トリプル『J』アイドル」始動します!】


読者の皆様、はじめまして! この度、カクヨムにて新作『トリプル「J」アイドル』の連載を開始いたしました。


本作は、ただのアイドル物語ではありません。 「Jewish(ユダヤ人)」「Japanese(日本人)」「Junior Kinetic(若き活力)」……3つの「J」をテーマに、国境や文化の壁を越えていく少女たちの青春ヒューマンドラマです。


主人公の平アンナは、日本で育ったユダヤ人の女の子。 彼女と、その幼馴染たち個性豊かなメンバーが、「No War! No Hate! No Discrimination!」を胸に、歌と絆で世界を変えていく物語を描きます。


既存のアイドル作品にはない「多文化共生」というテーマと、「王道かつ熱い展開」を融合させ、業界に新しい風(第四の極!)を吹かせるつもりで執筆しています。


「世界はそんなに甘くない……でも、私たちが甘くしちゃえばいいんだよ!」


アンナたちの挑戦を、ぜひ応援していただけると嬉しいです! 感想やレビュー、★評価など、皆様の声が彼女たちの(そして私の)力になります。


それでは、次回の更新でお会いしましょう。 Shalom!(シャローム!)

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2026年1月2日 18:03
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トリプル「J」アイドル 安田創一郎 @SoichiroYasuda

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