第六天魔王と恐れられた信長が、異世界で再び魔王に!?~織田信長の2度目の魔王ライフ~

がりうむ

01話 プロローグ

天正十年六月一日、深夜。


本能寺にて。


京の都にある本能寺は、すでに一万余の兵に完全に包囲されていた。

明智光秀率いる軍勢は寺の四方を塞ぎ、寺の各所からは火の手が上がる。

闇夜を赤く染める炎は、やがて本堂へと迫り、逃げ場はどこにもなかった。


「もはや、信長もこれまでよ……」


兵を率いる将の一人が、燃え盛る寺を見上げてそう言った。



一方、本能寺の中。

煙と熱に満ちた堂内には、ただ一人の男が立っていた。


「……もはや、これまでか」


その男の名は織田信長。

第六天魔王と恐れられ、天下統一をあと一歩まで押し進めた男である。


明智光秀に不意を突かれ、兵も少なく、援軍も望めぬ状態でも、信長は取り乱すことなく静かに最期を受け入れていた。


「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり——」


舞を舞うかのように敦盛の一節を口ずさみ、信長は自らの運命を悟る。

そして、家臣であった明智光秀の謀反を胸に刻みながら、炎に包まれる本能寺の中で、自ら刃を取り、信長はその生涯を閉じた。



はずだった。

だが次の瞬間、信長は確かに感じた。

胸を打つ、強く重い鼓動。

人のものとは思えぬ、異様な力を。


「……息をしている?」


信長はゆっくりと瞼を開く。

そこに広がっていたのは、炎に包まれた本能寺ではなく、真っ黒な玉座と、異形の者たちがひれ伏す大広間だった。


「魔王様……お目覚めになられたのですね」


黒衣の女の言葉に、信長は眉をひそめる。


「何を言っておる……?お前は誰だ?」


「魔王様、私はあなた様の付き人のサムンです。お忘れですか?」


「一体何が起きている……?」


混乱する中、信長は己の体を見下ろした。

以前とは比べものにならぬ巨体。

背には金色のマント、身には漆黒の鎧。

立っているだけで、周囲を威圧する異様な存在感があった。


「なんじゃ?これ……南蛮の甲冑か……?」


その時、大広間の扉が勢いよく開く。


「魔王様!おふざけはおやめください!」


鎧を着た白髪の男が叫ぶ。


「魔王様、隣国の魔王ネクロ率いる軍勢が城まで迫っております!」


サムンは、焦った様子で手を掲げた。


「魔王様!出陣のときです!失礼します!移動テレポート!」


次の瞬間、視界が歪み、信長の周囲は一変する。

そこは無数の兵が相対する戦場を見下ろす小さな丘だった。


「……幻術、か?」


否。

戦場を包む熱気と歓声が、それが現実であることを告げていた。

サムンが大声でこう叫んだ。


「魔王様が出陣なされました!皆の者、我が国を守るのです!」


その声に呼応するように、兵たちが歓声を上げる。

戦場が、大きく揺れた。


「この感覚は懐かしい……」


目をつむると、天下を取るために戦った戦場の日々の風景がよみがる。

その瞬間、信長はすべてを理解した。


「わしは魔王になったのか、ならば、次は魔王として、天下を取るまでよ」


信長は大声で叫んだ。


「出るぞ!」


「はい!」


信長は近くにいた馬に乗り、兵士を連れ戦場に突っ込んでいった。


「ふん。力がみなぎっておる」


信長は腰についていた剣を抜き、敵兵を紙のように吹き飛ばしていった。


「さすが魔王様!」


「こんな時に勝家や利家がいれば……」


信長は家臣たちのことを思い出した。

共に戦った仲間たち……。

思い出すだけで胸が痛くなる。

光秀め……。


信長が、思いに浸っていると、背後の兵士が大きな声を上げた。


「魔王様!前に敵将の姿が!」


信長が目を開けると、そこには金の鎧を着た、大きな槍を持った将がいた。


「お前がこの国の魔王か!俺の槍術をくらえ!」


敵将は目にもとまらぬ速さで槍を抜いてきた。

しかし、信長は容易に剣で防いだ。


「ふん……。その程度の槍術でわしを殺せるとでも?利家の槍の方が何十倍も鋭いわ!!」


信長は剣を弾き返すと同時に、敵将を睨め付けた。

その瞬間、胸の奥から熱が込み上げる。


「なんだ、この感覚は……?」


全身を巡る、圧倒的な力。


「……これが、魔王の力か」


信長がそう呟いた瞬間、魔力が噴き上がった。

大地が震え、空気が歪む。

敵将が後ずさる暇もなく、信長は剣を振り下ろした。


次の刹那、剣から放たれた黒い閃光が敵将を飲み込み、

金の鎧ごと跡形もなく消し飛ばす。


その時だった。


背筋がゾクリとした。

明らかに異質な気配。

空気が重く沈み、兵たちがざわめく。


「魔王様、お気をつけください!」


サムンの声が震える。

戦場の奥から、一人の男が姿を現した。

黒紫の鎧に身を包み、禍々しい魔力を放つ存在。


「ほう……ここの魔王とは、お前か」


男は笑い、ゆっくりと名を告げる。


「我が名はネクロ。いずれはこの世のすべてを手に入れる魔王だ」


信長は剣を構え、言い放つ。


「ほう……。魔王は一人でよい。おぬしはここで殺す!」

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